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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第一章 胎動~
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決断

「遅い。シエラはどうしたのです!」


「あ、いえ……それが……」


 いつになく苛ついている上司のきつい口調に、アリサは尻込みした。


「はっきり言いなさい。こちらも急いでいるのです」


「あ、はい……申し訳ありません。実は、あれから支部内をくまなく捜したのですが、シエラ様の姿がどこにも見当たらないのです」


「ここにいないのであれば、どこかへ出かけたのではないのですか?」


「私もそう考え、アーノに尋ねましたが、支部長が戻られて以後、誰も出入りをしていないとのことでした」


「だとすれば、どこか捜し漏れた場所があるのではないですか?」


「いえ、そんなはずは……」


 イセリナの勢いに圧倒され、アリサは泣き出しそうな顔になっている。


「状況はわかった。後はこちらで処理する。君は自分の職務に戻りたまえ」


「は、はい……」


 フォルナーは話に割り込むと、半ば追い払うようにアリサを退室させた。その真意を掴みかねるイセリナが訝しげに視線を寄せる中、フォルナーは再度説得を試みる。


「改めてお願いする。君の力を貸してくれないか?」


「……」


 やはり協力する気はないのかと周囲の人間は思ったが、彼が無言を決め込んでいたのには、別の理由があった。


 彼の足元に控える相棒と思念通話を行っていたのだ。


〈――で、どうするつもりだ、小僧〉


〈エルガ式の魔王に興味はない。だが、ここで借りを作っておけば、後々メリットがあるかもしれない〉


〈打算的だが、賢明な判断だ。どうせなら、この機にエルガ式にも関心を持ってみてはどうだ。けして無駄にはならんと思うが……〉


〈そうだな。考えておこう〉


 アレスがロアの勧めに一定の理解を示した時、痺れを切らしたイセリナがドアノブに手を掛けた。


「これ以上は待てません。私一人で行ってきます」


「待てよ」


 呼び止められて、イセリナは手を止めて振り向く。


「まだ何か言い足りないことでもおありですか?」


「一度は拒否したが、奴を逃がした責任の一端は俺にもある」


「それでは、協力していただけるのですか!」


 イセリナは期待に声を弾ませた。


「あぁ、今回だけだ」


「ありがとうございます!!」


 イセリナは小躍りして喜んだ。一度は諦めていただけに、喜びもひとしおだった。


「よく決断してくれた。感謝する」


 フォルナーは立ち上がって握手を求めたが、アレスはそれに応じず、重々しい口調で言葉を続ける。


「言っておくが、協力するのは俺たちだけだ。ケフィは保護対象として同行するだけ。彼女に危険が及ぶと判断した時は、彼女の保護を最優先とし、場合によっては即座に協力を放棄する」


「結構だ。その判断は君に委ねる」


 アレスの言葉に妙な違和感を覚えながらも、フォルナーは彼の意向を呑み、イセリナに命を下した。


「君はアレス君たちと共にウェルバー軍事学校へ向かい、マルセン氏を保護してくれ」


「わかりました。シエラのこと、よろしくお願いします」


「あぁ、私が責任を持って捜索させる。何も心配はするな」


 フォルナーは力強く約束し、イセリナたちを送り出した。


「さて、奴はうまくやってくれるかな……」


 静寂が支配する部屋の中、フォルナーはひとりごちた。そこに寡黙な紳士の面影はなく、まるで彼が嫌う悪魔が宿ったかのような、歪んだ狂気を内包する微笑みを浮かべていた。


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