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CAPRICE -カプリース-  作者: 陽気な物書き
第一部 サリスティア王国編 ~第一章 胎動~
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憶測

「やっと開いたか。待たせやがって……」


 黒尽くめの男は、ゆっくりと顔を横向けた。輝きのない死人のような目と乾いた微笑は、恐怖とは一線を画する不気味さを醸し出している。


「なんということを……」


「ぼーっとするな! 下がれ、扉を閉めるぞ!」


 半ば放心状態に陥っているイセリナを押しのけて前に出ると、アレスは扉に手を掛けて急いで閉めようとする。


「おっと、そうはさせねぇ」


 男は絶命した信者の亡骸を軽々と放り投げた。亡骸は扉と壁の間に挟まれ、思惑通り空間の遮断を妨げた。


「きゃぁ!!」


 恐怖が焼きついた恐ろしい死相の信者と目が合い、ケフィは思わず悲鳴を上げた。


「いい声だ、そそるねぇ」


 嫌らしく口を歪め、静かに歓喜した男は、血に塗れた右手を扉に掛け、細腕には似つかない力で扉を開けようとする。


「くそっ、なんて力だ……」


「諦めないで。僕も手伝うよ」


 アルジャーノも参戦し、二人がかりで必死に抵抗を試みる。


その傍らで、ケフィは信者の亡骸を引っ張りこみ、障害を取り除いた。手にべっとりと着いた血を見て、急に体が震えだす。


「よくやったわ。後は任せましょう」


 包み込むように肩を抱いたイセリナは、ケフィと共に後方に下がる。


 扉を巡る攻防は、アルジャーノの加勢で一度は優位に傾きかけたが、瞬間的に加えられた圧倒的な力により一気に引き戻され、奮闘空しく敗北に至った。


「無駄なことはやめようや」


 男は完全に開いた扉にもたれかかり、初戦の完全勝利を誇示すると、徐に煙草を取り出して火をつけた。


「白昼堂々襲撃なんて、いい度胸だね」


 血気盛んなアルジャーノは、眼前で余裕たっぷりに煙草を吹かす男を挑発した。


「まぁ、完全無欠の俺には不意打ちとか闇討ちなんてのは必要ねぇからな。やるなら正々堂々、正面襲撃だ」


「完全無欠……? 笑わせてくれるよ。そこまで自信があるなら、ぜひ僕と手合わせ願いたいもんだね」


「いいぜ、命が惜しくねぇならな」


 男は煙草を踏み消すと、何の警戒もせずに背を向け、先導するように歩き出した。それに従い、アレスたちは聖堂内に足を踏み入れる。


 そこは神聖な祈りの場とは思えぬ惨状と化していた。女子供お構いなしに殺害された亡骸が転がり、流れ出した血が床を朱に染めている。


「ひどい……」


ケフィは思わず目を逸らした。一箇所ではなく、広範囲に亡骸が横たわっていることから、信者たちが必死に逃げ回った様が思い浮かぶ。


「あなたの目的は、何ですか! ……どうしてこんな真似を!!」


 怒りと悲しみの入り混じった感情を必死に制御しながら、イセリナはなんとか声を搾り出した。男は足を止めて振り返る。


「目的……? そんなもん、別にねぇな」


「では、なぜ彼らを殺害したのです」


「ただの暇潰しさ」


 男は顔色一つ変えず、平然と答えた。


「ふざけるんじゃない! そんな理由があるか!」


 激昂し、顔を紅潮させたアルジャーノが食って掛かった。


「そうは言ってもな……ぶらりと立ち寄って、暇潰しにそこにいた奴らを殺した。ただそれだけのことだからなぁ……」


 男は飄々とし、微塵の罪悪感も見せない。その態度はアルジャーノの怒りを煽り、二人の激突を不可避のものとした。


 イセリナたちが男と問答を続ける中、ある憶測が脳裏に浮かんだアレスは、思念伝達でロアと話をしていた。


〈あの男、悪魔じゃないのか?〉


〈さぁな……本来の姿ならともかく、完全に人間になりすましている者を判別するのは、さすがの我とて困難だ〉


〈そうか……〉


 唐突な質問に対し、ロアは至極冷静だった。さすがは自称魔王というところか、人間の死体がいくつ転がっていようと、その程度では動揺など無縁であるらしい。


〈なぜそのようなことを訊く〉


〈あの男、ただの人間とは思えなくてな。俺の思い過ごしならいいんだが……〉


〈奴が何者かは、あの小僧が直にはっきりさせるだろう。今は見守る他あるまい〉


〈そうだな……〉


 漠然とした不安を胸に抱いたまま、アレスは激突必至の二人を静かに見つめた。


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