思惑(1)
「なるほど。支部はこの先か」
「地下なら他の宗教に気兼ねする必要はないからね」
階段を下り、いよいよ支部内部に入ったアレスたちは、中を案内されることなく、真っ直ぐ会議室に通された。
「それじゃまた後でね。すぐに戻るよ」
アレスたちを残し、アルジャーノはそそくさと何処かへと消えていった。
「結局は秘密主義か」
「当然だ。その小娘はともかく、貴様は招かれざる客。易々と内部構造を明かす馬鹿はおるまい」
机の上に蹲るロアが面倒くさそうに呟いた。その言葉を裏付けるように、ドアの外には二名の男性職員が配備され、アレスたちが勝手に出歩かないよう厳重に監視している。
「まぁ、それはいいさ。ケフィを連れ去ろうとした理由さえ教えてくれればな。ところでケフィ、少し話を訊いてもいいか?」
「あ、はい」
何もない殺風景な室内を見回していたケフィは、突然声をかけられて驚き、反射的にアレスに視線を定めた。
「これまでずっと親父に守られてきたって言っていたよな?」
「はい」
「親父はずっと王宮にいるものだとばかり思っていたんだが、本当は君の家にいたのか?」
「いえ、ルヴァロフさんは足しげく当家に通ってくださいました。ルヴァロフさんが不在の時は外出を禁止されていましたが、二、三日に一度は来てくださいましたので、特に不自由を感じることはありませんでした」
「それじゃ親父が王宮にいる時はどうやって安全を担保していたんだ?」
「それについては私も詳しくはわかりませんが、絶対防御と情報遮断を施していると聞いた憶えがあります」
「……」
滑らかに疑問を紡ぎ続けたアレスの唇は、驚愕をもってようやく動きを止めた。
絶対防御はラムド式魔王ヴァルガスの能力で、攻撃能力を一切放棄する代償にあらゆる攻撃を防ぐ保護フィールドを形成する。情報遮断は第一位悪魔メノーペスの能力で、強力な干渉波を対象の周囲に放ち、外部からの情報収集活動を無効化する。
どちらも非常に強力な能力であり、常人であれば、ヴァルガス単体の召喚ですら容易には成しえない。その上、さらに別の悪魔をも召喚し、二体を並行してこの世界に維持し続けるという常軌を逸した芸当を、ルヴァロフはやってのけたことになる。
生き証人であるケフィから語られた話に度肝を抜かれ、自分が目標としている人物がいかに常人離れしていたかを、アレスは改めて強く認識した。
「驚くことはない。あやつにとって、その程度は造作もないこと。少しはあやつの凄さを理解したか?」
「あぁ……どうやら俺は親父のことを全くわかっていなかったようだ。親父は――」
そう言い掛けた時、イセリナを伴い、アルジャーノが戻ってきた。アレスは会話をやめ、ロアは机から飛び降りてペットを装う。
「お待たせしました」
二人は、軽く一礼して席に着いた。