順番
男のIQは71だった。
知的障害の基準はIQ70以下。男はその基準を、たった1だけ上回っていた。
仕事は長続きせず、何度福祉の窓口を訪れても「対象外です」と断られた。
断られるたび、救われない苦しみは、救われている人々への憎しみに変わっていった。
やがて男は福祉施設を襲撃し、複数の利用者を死傷させた。
警察はすぐに駆けつけ、男を逮捕した。
「順番が違うだろ」
取調室で、男は言った。
「俺が何度助けを求めても、社会は無視した。それなのに、犯罪を犯した途端、やっと俺に目を向けた」
刑事は黙って聞いていた。
「世の中は平等なんだろ? あいつらを救うなら俺も救え。俺を救わないなら、あいつらも救うなよ」
刑事は首を傾げた。
「平等? なぜろくに働かないあいつらが、毎日必死に働く人たちと同じように幸せに暮らせるんだ? 働くだけ損だろう。そのほうが不平等じゃないか」
「……え?」
「あいつらが救われるのは、平等だからじゃない」
男は目を丸くした。
「じゃあ、なぜ救うんだ?」
「治安維持だよ。バカに救いがなければ、お前みたいな奴が多発して社会が混乱する。だから救うんだ」
男はしばらく考え込んだ。
「だったら、なおさらおかしいだろ! 俺だって救われなかったからこんなことをしたんだぞ! なぜ俺だけ救われなかったんだ!」
「順番だからだよ」
「……順番?」
「バカから社会を守るには、バカから先に救わなきゃいけないだろう」
男は何も言えなくなった。
自分のIQが71だったことを思い出した。
刑事は最後に言った。
「目的は治安維持。その手段としての弱者救済。だとすれば、何も順番は間違っていないだろう」




