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順番

作者: 平田智剛
掲載日:2026/11/06

 男のIQは71だった。


 知的障害の基準はIQ70以下。男はその基準を、たった1だけ上回っていた。


 仕事は長続きせず、何度福祉の窓口を訪れても「対象外です」と断られた。


 断られるたび、救われない苦しみは、救われている人々への憎しみに変わっていった。


 やがて男は福祉施設を襲撃し、複数の利用者を死傷させた。


 警察はすぐに駆けつけ、男を逮捕した。


「順番が違うだろ」


 取調室で、男は言った。


「俺が何度助けを求めても、社会は無視した。それなのに、犯罪を犯した途端、やっと俺に目を向けた」


 刑事は黙って聞いていた。


「世の中は平等なんだろ? あいつらを救うなら俺も救え。俺を救わないなら、あいつらも救うなよ」


 刑事は首を傾げた。


「平等? なぜろくに働かないあいつらが、毎日必死に働く人たちと同じように幸せに暮らせるんだ? 働くだけ損だろう。そのほうが不平等じゃないか」


「……え?」


「あいつらが救われるのは、平等だからじゃない」


 男は目を丸くした。


「じゃあ、なぜ救うんだ?」


「治安維持だよ。バカに救いがなければ、お前みたいな奴が多発して社会が混乱する。だから救うんだ」


 男はしばらく考え込んだ。


「だったら、なおさらおかしいだろ! 俺だって救われなかったからこんなことをしたんだぞ! なぜ俺だけ救われなかったんだ!」


「順番だからだよ」


「……順番?」


「バカから社会を守るには、バカから先に救わなきゃいけないだろう」


 男は何も言えなくなった。


 自分のIQが71だったことを思い出した。


 刑事は最後に言った。


「目的は治安維持。その手段としての弱者救済。だとすれば、何も順番は間違っていないだろう」

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