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記録係の異世界転生クロニクル  作者: 阿門 甲斐吽


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【第6話】冒険の果てに帰る場所


 国境(こっきょう)(ちか)く、湿(しめ)った冷気(れいき)(ただよ)(もり)炭鉱(たんこう)

 

 (おれ)たち冒険者(ぼうけんしゃ)パーティーは、またしても魔物(まもの)()れに包囲(ほうい)されていた。

 

 「ちっ、(つぎ)から(つぎ)へと……!」

 

 ライオネルが(どく)づきながら大剣(たいけん)()るうが、(てき)(かず)予想(よそう)(はる)かに()えていた。

 ガルドは(たて)(かか)げて仲間(なかま)死守(ししゅ)しているが、機敏(きびん)(てき)(うご)きを予測(よそく)しきれず、防戦一方(ぼうせんいっぽう)だ。

 

 ミラの魔法(まほう)照準(しょうじゅん)(さだ)まらず空振(からぶ)りが目立(めだ)(はじ)め、フィリスの支援(しえん)戦況(せんきょう)のテンポに()いていかれ、タイミングを(いっ)している。

 戦場(せんじょう)完全(かんぜん)膠着状態(こうちゃくじょうたい)――いや、(ゆる)やかな崩壊(ほうかい)へと()かっていた。

 

「よし、今度(こんど)絶対(ぜったい)見逃(みのが)さない」

 

 (おれ)意識(いしき)のスイッチを()()える。

 (あたま)(なか)戦闘(せんとう)全景(ぜんけい)を「マスター映像(えいぞう)」として把握(はあく)する感覚(かんかく)

 時間(じかん)空間(くうかん)(なか)で、(てき)(うご)きや仲間(なかま)位置(いち)を、無数(むすう)のグリッドが()かれた編集(へんしゅう)画面(がめん)のタイムラインとして記録(きろく)していく。

 

 かつてのテレビ(きょく)での徹夜(てつや)作業(さぎょう)数千(すうせん)数万(すうまん)ものカットを(つな)いできた経験(けいけん)が、異世界(いせかい)戦場(せんじょう)完全(かんぜん)覚醒(かくせい)していた。

 

 (おれ)空中(くうちゅう)に、自分(じぶん)だけにしか()えない編集(へんしゅう)ウィンドウを展開(てんかい)し、()をかざす。

 

(ライオネルのアクションを0.2(びょう)先行(プリロール))』。ガルドのポジショニングを(ひだり)に|30センチ『スライド』。ミラの着弾(ちゃくだん)エフェクトを(てき)移動先(いどうさき)に『先読(さきよ)配置(プリセット))』……!)

 

 戦況(せんきょう)脳内(のうない)自動(じどう)編集(へんしゅう)され、最適化(さいてきか)された指示(しじ)神経(しんけい)(つた)って現実(げんじつ)上書(うわが)きする。

 ()()えない(ちから)が、(しず)かに、だが確実(かくじつ)戦場(せんじょう)支配(しはい)した。

 

 ライオネルの(けん)は、まるで未来(みらい)()っているかのように(てき)間隙(かんげき)正確(せいかく)()()す。

 ガルドの(たて)最大(さいだい)防御(ぼうぎょ)角度(かくど)(てき)重撃(じゅうげき)()()め、ミラの魔法(まほう)()()(うしな)った(てき)必中(ひっちゅう)炸裂(さくれつ)した。

 

 フィリスの支援(しえん)は、戦闘(せんとう)開始(かいし)からの微妙(びみょう)なラグを完全(かんぜん)補正(オフセット))し、パーティーの出力(しゅつりょく)最大値(さいだいち)(たっ)した。

 今回(こんかい)も、仲間(なかま)たちは自分(じぶん)たちの(うご)きがなぜこれほど「キマっている」のかを理解(りかい)することはなかった。

 

 ただ、(なが)れるような連撃(れんげき)(すえ)に、炭鉱(たんこう)静寂(せいじゃく)(もど)った。

 

 ◇

 

 任務(にんむ)()えた(おれ)たちは、(やと)った馬車(ばしゃ)()られて王都(おうと)目指(めざ)していた。

 馬車(ばしゃ)には、死線(しせん)()えた(あと)独特(どくとく)弛緩(しかん)した空気(くうき)(なが)れている。

 

 ライオネルやガルドは相変(あいか)わらず(くだ)らない冗談(じょうだん)()()い、フィリスはそれに(あか)るい(こえ)(こた)えて(わら)う。

 ミラは(だま)って魔法書(まほうしょ)のページをめくり、情報(じょうほう)整理(せいり)余念(よねん)がないが、その横顔(よこがお)には(たし)かな安堵(あんど)(いろ)()かんでいた。

 

 ふと、(となり)(すわ)るエレナと視線(しせん)()った。

 普段(ふだん)(ひか)えめで(やさ)しい彼女(かのじょ)が、じっと(おれ)()つめ、やがて(はな)がほころぶように微笑(ほほえ)んだ。

 

 「ありがとう……レイ」

 

 「……えっ?」

 

 (おも)わず(おどろ)きが(くち)をつく。

 スキルの詳細(しょうさい)はまだ(だれ)にも(はな)していない。(おれ)(うら)で「現実(げんじつ)編集(へんしゅう)」して戦局(せんきょく)(いじ)っているなど、(だれ)()るはずがないのだ。

 

 でも、彼女(かのじょ)はどこかで(かん)()ったのだろうか。

 あの「不自然(ふしぜん)なほどの幸運(こううん)」の(みなもと)が、(おれ)(となり)にあることを。

 

 その笑顔(えがお)(しず)かだったが、極限(きょくげん)まで神経(しんけい)(とが)らせていた(おれ)(こころ)を、湯気(ゆげ)(つつ)まれるように(あたた)めた。

 

 (……これからも、絶対(ぜったい)(まも)らなきゃな)

 

 (むね)(おく)で、(ちい)さな、けれど(かた)決意(けつい)芽生(めば)える。

 まだスキルの全貌(ぜんぼう)(つか)めていない。副作用(ふくさよう)があるのか、限界(げんかい)がどこにあるのかも。

 

 だけど、(すこ)しずつこの(ちから)理解(りかい)し、仲間(なかま)という大切(たいせつ)な「存在(そんざい)」を(まも)(すべ)(まな)んでいくんだ。

 いつか(おとず)れるかもしれない、編集(へんしゅう)不可能(ふかのう)なほどの(おお)きな(たたか)いに(そな)えて。

 

 ◇

 

 王都(おうと)帰還(きかん)したその()、ギルドから(さら)なる緊急(きんきゅう)依頼(いらい)()()んだ。

 周辺地域(しゅうへんちいき)頻発(ひんぱつ)する魔物(まもの)襲撃(しゅうげき)()()めるため、(もり)(おく)発見(はっけん)された「未踏(みとう)のダンジョン」に()くう魔物(まもの)掃討(そうとう)作戦(さくせん)

 これは調査(ちょうさ)ではなく、明白(めいはく)殲滅戦(せんめつせん)――実戦(じっせん)そのものだ。


 「今回(こんかい)雑用(ざつよう)じゃ()まされないぞ」

 

 ギルドのカウンター(まえ)で、ガルドが(ひく)(つぶや)く。

 その()冗談(じょうだん)()っていた(とき)とは別人(べつじん)のように(するど)い。

 

 (おれ)――レイ・クロノスは、装備(そうび)(ととの)(なお)し、(むね)(おく)覚悟(かくご)(きざ)む。

 (おれ)のスキルがあれば、戦況(せんきょう)記録(きろく)して操作(そうさ)することができる。

 

 だが、相手(あいて)未知数(みちすう)大群(たいぐん)

 これまでの小規模(しょうきぼ)遭遇戦(そうぐうせん)とは段違(だんちが)いに危険(きけん)な「長編(ちょうへん)収録(しゅうろく)」になる。

 

 ダンジョンの大口(おおぐち)()けた()(ぐち)から一歩(いっぽ)()()むと、予想以上(よそういじょう)重圧(プレッシャー))が(はだ)()した。

 

 「ダンジョンブレイクが()きている可能性(かのうせい)(たか)いな!」

 

 ライオネルが緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちで(けん)(かま)え、ガルドが(たて)前面(ぜんめん)()てて(みち)()(ひら)く。

 ミラは空中(くうちゅう)複雑(ふくざつ)魔法陣(まほうじん)(えが)き、フィリスがバフの準備(じゅんび)(ととの)え、エレナはいつでも治癒(ちゆ)(はな)てるよう(つえ)(にぎ)りしめる。

 

 戦闘(せんとう)開始(かいし)のゴングは、(やみ)(おく)から(ひび)いた咆哮(ほうこう)だった。

 (てき)()れが一斉(いっせい)(おそ)いかかる。(かず)圧倒(あっとう)され、画面外(がめんがい)からも次々(つぎつぎ)(かげ)()()してくる乱戦(らんせん)

 

 「……まずは観察(モニタリング))だ」

 

 (おれ)(あわ)ててウィンドウを展開(てんかい)する。

 視界(しかい)戦場(せんじょう)複数(ふくすう)のレイヤーとして(かさ)なり、(てき)のアルゴリズムがタイムライン(じょう)のクリップのように(なら)ぶ。

 

 (ライオネルの攻撃(こうげき)タイミングを前倒(まえだお)調整(ちょうせい)! ガルドの(たて)角度(かくど)微調整(びちょうせい)して最大(さいだい)防御(ぼうぎょ)確保(かくほ)! ミラの魔法(まほう)必中(ひっちゅう)編集(へんしゅう)、フィリスの支援(しえん)最適化(さいてきか)……!)

 

 (おれ)がタイムライン(じょう)(てき)(うご)きをフリックし、味方(みかた)位置(いち)をドラッグする。

 仲間(なかま)たちは(なに)()づかないが、戦局(せんきょく)確実(かくじつ)にこちらに(かたむ)いた。

 

 だが、中層域(ちゅうそういき)事件(じけん)()きる。

 ボスクラスの巨大(きょだい)(くろ)(けもの)(あらわ)れ、予備動作(よびどうさ)なしの突進(とっしん)でパーティーの中央(ちゅうおう)強襲(きょうしゅう)した。

 

 ライオネルもガルドも反応(はんのう)()()わない――!

 その瞬間(しゅんかん)、エレナが魔物(まもの)(するど)一撃(いちげき)(かた)()け、(たお)()んだ。

 

 「エレナ!!」

 

 (さけ)びそうになる(おれ)(せい)し、彼女(かのじょ)(いた)みに()えながらも()()がる。

 (おれ)必死(ひっし)()(うご)かした。指先(ゆびさき)(あつ)くなるほどの高速(こうそく)編集(へんしゅう)

 

 (おれ)操作(そうさ)(かさ)ねるたびに、仲間(なかま)たちはモンスターの不可視(ふかし)攻撃(こうげき)紙一重(かみひとえ)回避(かいひ)し、致命的(ちめいてき)な|ダメージを回避(かいひ)していく。

 

 ライオネルの(けん)はボスの(あつ)(かわ)隙間(すきま)(えぐ)り、ガルドの(たて)粉砕(ふんさい)されそうな一撃(いちげき)を|いなす。

 ミラの魔法(まほう)正確(せいかく)弱点(じゃくてん)()()き、フィリスの(うた)全員(ぜんいん)能力(のうりょく)限界(げんかい)まで()()した。

 

 「エレナ! 無理(むり)をするな!」

 

 (おれ)必死(ひっし)()びかけに、彼女(かのじょ)(みじか)(いき)(ととの)えて(こた)えた。

 

 「レイ、ありがとう。あなたも無理(むり)しないで。(わたし)(かなら)(まも)るから」

 

 その(こえ)に、(あつ)いものが(むね)()()げる。(まも)られているのは(おれ)(ほう)か。いや、(おれ)たち全員(ぜんいん)でこの一瞬(いっしゅん)(つな)いでいるんだ。

 

 「このエリアで最後(さいご)だ! お(まえ)気合(きあ)いを()れて()くぞ!」

 

 ライオネルの()(ごえ)がダンジョンの(かべ)反響(はんきょう)する。

 渾身(こんしん)(ちから)()められたライオネルの(けん)が、ついに「エリアボス」の心臓(しんぞう)(つらぬ)いた。

 

 巨体(きょたい)(くず)()ち、ダンジョンに重苦(おもくる)しい静寂(せいじゃく)(もど)る。

 仲間(なかま)たちは(あせ)(ぬぐ)い、()()めていた(いと)()れたように、その()にへたり()んでしまった。

 

 「レイ、お(まえ)もなかなか根性(こんじょう)あるじゃないか」

 

 いつもは(つめ)たく(かん)じていたガルドが、不器用(ぶきよう)(かた)(たた)いてくれた。その()(おも)みに、(おれ)(すこ)しだけ安心(あんしん)した。

 (みと)められ(はじ)めている。このパーティーの一員(いちいん)として。

 

 どの(くらい)時間(じかん)()っただろうか。

 

 「さぁ、(かえ)ろう」

 

 ライオネルの()()がる(おと)合図(あいず)になり、(おれ)たちは(おも)身体(からだ)()きずってダンジョンを(あと)にした。

 

 ◇

 

 王都(おうと)のギルドに(もど)り、報告(ほうこく)()ませる。

 

 「(つぎ)依頼(いらい)まで一週間(いっしゅうかん)ある。それぞれしっかりと身体(からだ)(やす)めてくれ。それと、これが今回(こんかい)報酬(ほうしゅう)だ」

 

 ギルド(ちょう)から(わた)された報酬(ほうしゅう)(ふくろ)は、ずっしりと(おも)かった。

 (おれ)たちはそれを()()い、それぞれの家路(いえじ)へとつく。

 

 ギルドの(もん)()け、(おれ)実家(じっか)への(みち)(ある)()した。

 王都(おうと)喧騒(けんそう)(はな)れ、見慣(みな)れた、けれど(すこ)疎遠(そえん)になっていた街並(まちな)みを()けていく。

 実家(じっか)までは、ここからおよそ|10キロ。

 戦闘(せんとう)()え、体力(たいりょく)使(つか)()たした(いま)身体(からだ)には、正直(しょうじき)()(とお)くなるような距離(きょり)だ。

 

 (……(あし)(おも)いな。完全(かんぜん)にエンコード失敗(しっぱい)したあとのPC(ぴーしー)みたいだ……)

 

 それでも、不思議(ふしぎ)(あし)()まらない。

 (かえ)場所(ばしょ)がある。()っている(ひと)がいる。それだけで、(ひと)はここまで(うご)けるものなのかもしれない。

 

 石畳(いしだたみ)(みち)途切(とぎ)れ、(つち)(にお)いが()くなる。やがて、夕闇(ゆうやみ)(なか)にポツンと()見慣(みな)れた(いえ)()えてきた。

 

 (……(かえ)ってきたんだな、(おれ)

 

 (いえ)(とびら)(まえ)()ち、()をかけたその瞬間(しゅんかん)――。

 

 「ワンッ!!」

 

 (いきお)いよく(とびら)()(やぶ)るような(いきお)いで()()してきた(かげ)に、(おも)わずたじろぐ。

 

 「ルクス……!」

 

 (しろ)毛並(けな)みの愛犬(あいけん)、ルクス。

 (おれ)()間際(まぎわ)に「編集(へんしゅう)」で(すく)ったその(いのち)が、(いま)尻尾(しっぽ)千切(ちぎ)れそうなほど()(まわ)して(おれ)()びついてくる。

 (かお)()(まわ)し、身体(からだ)()()け、言葉(ことば)にならない全力(ぜんりょく)歓喜(かんき)再会(さいかい)祝福(しゅくふく)してくれる。

 

 「おいおい……()()けって。そんなにかよ」

 

 苦笑(くしょう)しながら(どろ)だらけの(あたま)()でると、ルクスは(うれ)しそうに(はな)()らし(つづ)ける。

 その()きている(ぬく)もりに()れた瞬間(しゅんかん)()()めていた神経(しんけい)が、ようやく完全(かんぜん)()けていくのを(かん)じた。

 

 「レイ!? (かえ)ってきたのかい!」

 

 (おく)から(かあ)さんの(おどろ)いた(こえ)(ひび)き、(つづ)いて(とう)さんも(かお)()した。

 

 「おう、無事(ぶじ)だったか」

 

 (みじか)い、けれど(たし)かな(おも)みのある言葉(ことば)

 

 「ただいま」

 

 それだけで、すべての説明(せつめい)事足(ことた)りた。

 

 ◇

 

 (いえ)(なか)は、以前(いぜん)(なに)()わっていなかった。

 (あたた)かなランプの(あか)りと、煮込(にこ)料理(りょうり)()()(にお)い。

 

 ルクスはまだ(おれ)のそばを(はな)れず、(すわ)()んだ(おれ)足元(あしもと)にぴったりと()()っている。

 

 「ほらレイ、すぐご飯(ごはん)にするから。今日(きょう)はしっかり()べなきゃね」

 

 (かあ)さんはそう()って、鼻歌(はなうた)()じりに台所(だいどころ)()かう。

 しばらくして(なら)べられたのは、(かざ)らない家庭(かてい)料理(りょうり)だった。

 

 湯気(ゆげ)()具沢山(ぐだくさん)のスープ、こんがり()けた(にく)、そして(かあ)さんが()いた(やわ)らかいパン。

 死闘(しとう)()てに辿(たど)()いた(おれ)には、あまりにも(やさ)しすぎる、最高(さいこう)のフルコースだった。

 

 「……うまい」

 

 一口(ひとくち)スープを(すす)るだけで、(うしな)われた生命力(せいめいりょく)身体(からだ)隅々(すみずみ)まで()(わた)っていく。

 

 「だろう? (そと)でどれだけ豪華(ごうか)なものを()っても、(いえ)(めし)には(かな)わんだろ」

 

 (とう)さんが愉快(ゆかい)そうに(わら)う。

 

 「それで? どうなんだ、冒険(ぼうけん)(ほう)は」

 

 ()()()してくる(とう)さんの(かお)には、好奇心(こうきしん)と、それと(おな)じくらいの心配(しんぱい)(にじ)んでいた。

 

 「……まあ、なんとかやってるよ。記録係(きろくがかり)としてね」

 

 (おお)くは(かた)れない。(おれ)世界(せかい)(ことわり)()()えているなんて()えば、(かあ)さんは(こし)()かすだろう。

 それでも(とう)さんは、満足(まんぞく)そうに(うなず)いた。

 

 「いい経験(けいけん)だ。だが無茶(むちゃ)はするなよ。お(まえ)(むかし)から、(あぶ)なっかしいところがあるからな」

 

 (かあ)さんも(しず)かに、けれど(つよ)口調(くちょう)()った。

 

 「怪我(けが)だけは()をつけてね。(かえ)ってくる場所(ばしょ)は、ここにあるんだから」

 

 その言葉(ことば)が、(むね)(おく)()えていた部分(ぶぶん)をじんわりと(あたた)める。

 

 「……()かってる。ありがとう」

 

 食事(しょくじ)()わる(ころ)には、限界(げんかい)()えていた身体(からだ)(ちから)一気(いっき)()けていた。

 ルクスは(おれ)足元(あしもと)(まる)くなり、安心(あんしん)しきった寝息(ねいき)()てている。

 

 (……(まも)りたいな。この光景(こうけい)も、あいつらも)

 

 ふらつく足取(あしど)りで自分(じぶん)部屋(へや)()かう。

 (とびら)()け、(なつ)かしい()(にお)いがするベッドに(たお)()んだ。

 

 「……無理(むり)だ、もう……一歩(いっぽ)(うご)けない……」

 

 (くつ)()ぎきらないまま、(ふか)微睡(まどろ)みの(うみ)へと意識(いしき)(しず)んでいく。

 

 (なが)一日(いちにち)だった。

 (たたか)って、()にかけて、仲間(なかま)(わら)って、|10キロ(ある)いて、そして(かえ)ってきた。

 ようやく、今日(きょう)という「番組(ばんぐみ)」が全部(ぜんぶ)()わったんだ。

 

 (おれ)(ふか)(ねむ)りへと()ちていった。

 

 …………………

 …………..

 ……..

 ….

 

 (しず)まり(かえ)った深夜(しんや)部屋(へや)

 (ねむ)るレイの枕元(まくらもと)で、スリープしていたはずのウィンドウが(かす)かに発光(はっこう)する。

 

 「ピコーン♪」

 

 電子音(でんしおん)のような無機質(むきしつ)(おと)が、(やみ)(ひび)いた。

 

 『経験値(けいけんち)一定値(いっていち)(たっ)しました』

『スキルレベルが上昇(じょうしょう)しました』

『――(あたら)しい拡張機能(プラグイン))を解放(かいほう)しますか?』

 

 【 YES(イエス)NO(ノー)


 選択(せんたく)()文字(もじ)が、(しず)かに点滅(てんめつ)(つず)けていた。


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