表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記録係の異世界転生クロニクル  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/42

【第33話】上書きの代償


 翌朝(よくあさ)、ヴィンセントの(まち)昨夜(さくや)騒動(そうどう)などなかったかのように、整然(せいぜん)とした歯車(はぐるま)(おと)(かな)でていた。


 時計塔(とけいとう)落雷事故(らくらいじこ)――管理者(かんりしゃ)()()えた「公式記録(こうしききろく)」が、市民(しみん)たちの記憶(きおく)定着(ていちゃく)している。

 

 だが、宿(やど)一室(いっしつ)(あつ)まった五人(ごにん)一匹(いっぴき)空気(くうき)は、それとは対照的(たいしょうてき)(おも)(しず)んでいた。

 

「……(はなし)があるんだ、ミラ」

 

 レイは、テーブルの中央(ちゅうおう)昨夜(さくや)()()れた「オーバーライト・ペン」を()いた。実体(じったい)があるようでない、(あわ)発光(はっこう)するそのペンを()て、魔導(まどう)天才(てんさい)であるミラが(するど)(いき)()む。

 

「レイ、これ……(なに)既存(きそん)魔導回路(まどうかいろ)一切(いっさい)(とお)していない。まるで、世界(せかい)(ことわり)そのものを(けず)()って(かた)めたような、不気味(ぶきみ)気配(けはい)がするわ」

 

 ミラの言葉(ことば)に、フィリスも(おそ)(おそ)()()ばそうとして、その指先(ゆびさき)静電気(せいでんき)のような火花(ひばな)(はじ)かれた。

 

(さわ)っちゃダメだ、フィリス。……これは、この世界(せかい)の『記述(きじゅつ)コード』を直接(ちょくせつ)()()えるための道具(どうぐ)だ」

 

「……コード? (なに)()っているのよ、レイ。そんな魔法体系(まほうたいけい)、どの古文書(こもんじょ)にも()っていないわ」

 

 ミラは困惑(こんわく)し、(まゆ)をひそめた。


 レイの(くち)から()()言葉(ことば)は、時折(ときおり)彼女(かのじょ)()魔導言語(まどうげんご)規則(きそく)完全(かんぜん)無視(むし)している。


 だが、(かれ)(ひとみ)宿(やど)狂気(きょうき)にも()真剣(しんけん)さが、それが(たん)なる冗談(じょうだん)ではないことを物語(ものがた)っていた。


 ライオネルは(うで)()み、昨夜(さくや)違和感(いわかん)()みしめるように(だま)っている。


 エレナは、胸元(むなもと)()げた木彫(きぼ)りの守護像(しゅごぞう)(つよ)(にぎ)りしめたまま、レイの(つぎ)言葉(ことば)()っていた。

 

「ミラ、(きみ)なら()づいているはずだ。この(まち)演算速度(えんざんそくど)がおかしいこと。そして……(おれ)たちのパーティの計算(けいさん)が、どうしても()わないことを」

 

 レイは強引(ごういん)に、ミラの魔導端末(まどうたんまつ)自分(じぶん)のインターフェースを同期(どうき)させた。

 

警告(けいこく)直人様(なおとさま)外部(がいぶ)アクセスによるログ流出(りゅうしゅつ)危険性(きけんせい)が……」

 

(かま)わない、ARIA(アリア)。ミラにしか、この計算(けいさん)補助(ほじょ)はできないんだ)

 

 ミラの端末(たんまつ)画面(がめん)に、()たこともない(ひかり)幾何学模様(きかがくもよう)奔流(ほんりゅう)となって(なが)()す。


 そこには、ガルドが()された瞬間(しゅんかん)のログ、そしてレイが自分(じぶん)記憶領域(きおくりょういき)隔離(かくり)して保持(ほじ)(つづ)けている「ガルド・バラン」という()巨大(きょだい)情報(じょうほう)(かたまり)(うつ)()された。

 

「……(なに)、これ。この巨大(きょだい)空白(くうはく)領域(りょういき)。ここには、(おも)()せないけど()っている莫大(ばくだい)な『質量(しつりょう)』の記憶(きおく)がある。……レイ、あなた、まさか……!」

 

「ガルドだ。……(おれ)たちの(たて)だった、ガルド・バランだ。世界(せかい)はあいつを『不要(ふよう)なデータ』として削除(さくじょ)した。(おれ)は……あいつのログを、(おれ)脳内(のうない)(かく)してここまで()たんだ」

 

 部屋(へや)が、(こお)りついたような静寂(せいじゃく)(つつ)まれた。

 

 エレナが、木彫(きぼ)りの(ぞう)()とした。


 (かわ)いた(おと)(ゆか)(ひび)く。

 

「ガルド?……。そうよ、ガルド……! あの(おお)きくて、(あたた)かい背中(せなか)……! どうして(わす)れていたの!? どうして、(わたし)(こころ)はあんなに大切(たいせつ)(ひと)名前(なまえ)()てていたのよ!」

 

 エレナが(さけ)び、()(くず)れる。


 その瞬間(しゅんかん)彼女(かのじょ)頭上(ずじょう)に「不整合(エラー)」を(しめ)(あか)警告光(けいこくこう)明滅(めいめつ)した。


 管理者(かんりしゃ)が、彼女(かのじょ)の「()づき」を(ふたた)()()ろうと介入(かいにゅう)開始(かいし)したのだ。

 

「ミラ、このペンを使(つか)って、(おれ)隔離領域(かくりりょういき)にあるガルドのログを世界(せかい)再構築(レンダリング)する。……でも、(おれ)一人(ひとり)演算能力(えんざんのうりょく)じゃ()りない。(きみ)魔導知識(まどうちしき)で、ペンの出力(しゅつりょく)安定(あんてい)させてほしい」

 

「……()って、レイ! あなたの()っている言葉(ことば)半分(はんぶん)理解(りかい)できないわ! 『ログ』? 『レンダリング』? それに、このペンに()められた(ちから)は、人間(にんげん)精神(せいしん)()えられる規模(きぼ)じゃない! そんなことしたら、レイ、あなたの精神(せいしん)……いや、(たましい)そのものが()()れるわ!」

 

「やってくれ。……あいつがいない世界(せかい)(おれ)(みと)めない」

 

 彼女かのじょにとって、レイが時折(ときおり)(くち)にする言葉(ことば)は、まるで異世界(いせかい)(かみ)(のこ)した(なぞ)めいた符牒(ふちょう)のように()こえた。


 しかし、レイの(はな)からはすでに鮮血(せんけつ)(したた)り、その(ひとみ)現実(げんじつ)風景(ふうけい)ではなく、虚空(こくう)()かぶ不可視(ふかし)文字群(もじぐん)()っている。

 

 ミラの端末(たんまつ)表示(ひょうじ)されているのは、魔導学(まどうがく)極致(きょくち)()えた「記述(きじゅつ)」の(あらし)だ。


 彼女(かのじょ)(すぐ)れた頭脳(ずのう)は、レイが()せているものが、この世界(せかい)の「存在(そんざい)そのものの設計図(せっけいず)」であることを直感的(ちょっかんてき)理解(りかい)(はじ)めていた。


 それは、一介(いっかい)魔導師(まどうし)()れてよい領域(りょういき)ではない。


 (かみ)への冒涜(ぼうとく)、あるいは世界(せかい)崩壊(ほうかい)(まね)禁忌(きんき)(とびら)

 

「レイ、あなたは……どこを()ているの? あなたが(たたか)っている相手(あいて)は、魔王(まおう)でも帝国(ていこく)でもない。この世界(せかい)(うご)かしている『仕組(しく)み』そのものじゃないの!」

 

「……ミラ、時間(じかん)がない。管理者(かんりしゃ)()る。……(おれ)がこの映像(せかい)(つな)(なお)すから、(きみ)は、その接続点(せつぞくてん)補強(ほきょう)してくれ。……(きみ)魔法(まほう)なら、できるはずだ」

 

 レイは、(ふる)えるミラの()(ひかり)のペンを無理(むり)やり(にぎ)らせた。


 ペンの(はな)(ねつ)がミラの(てのひら)()き、彼女(かのじょ)悲鳴(ひめい)()げそうになる。

 

代償(だいしょう)なら、(おれ)(はら)う。……(おれ)という存在(そんざい)のすべてを使(つか)ってもいい。だから、ミラ。……(ちから)()してくれ。(おれ)が、この物語(ものがたり)の『編集(へんしゅう)』を()わらせるために」

 

 ミラの(ひとみ)に、覚悟(かくご)()(とも)った。


 彼女(かのじょ)はレイの()う「ヘンシュウ」が(なに)意味(いみ)するのかはわからなかった。


 だが、レイが仲間(なかま)のために、自分自身(じぶんじしん)(いのち)さえもチップにして世界(せかい)というギャンブルに(いど)もうとしていることだけは、(いた)いほど理解(りかい)できた。

 

「……わかったわよ。あなたの使(つか)言葉(ことば)一生(いっしょう)かかっても理解(りかい)できそうにないけど……。その無茶(むちゃ)()()ってあげる。でも、約束(やくそく)して。……ガルドを()(もど)した(あと)、あなたまで()えるなんて(ゆる)さないからね!」

 

 ミラの(さけ)びに呼応(こおう)するように、彼女(かのじょ)魔導端末(まどうたんまつ)過負荷(かふか)火花(ひばな)()らす。


 彼女(かのじょ)自分(じぶん)全魔力(ぜんまりょく)をレイの精神回路(せいしんかいろ)へと(なが)()み、暴走(ぼうそう)する(ひかり)のペンの出力(しゅつりょく)強引(ごういん)制御下(せいぎょか)()いた。

 

演算開始(えんざんかいし)実行(じっこう))! ターゲット、ガルド・バラン。存在定義(そんざいていぎ)再上書(オーバーライト)き……!」

 

 レイの(ひとみ)(しろ)発光(はっこう)し、さらなる鮮血(せんけつ)(ゆか)(よご)す。


 (のう)沸騰(ふっとう)するような(ねつ)(おそ)い、意識(いしき)白濁(はくだく)していく。

 

 レイの脳内(のうない)には、かつて編集室(へんしゅうしつ)(にぎ)っていたペンの感触(かんしょく)と、異世界(いせかい)の「記録者(きろくしゃ)」としての能力(のうりょく)()ざり()い、(ひと)つの激流(げきりゅう)となっていた。


 モニターの(なか)のカットを(えら)ぶように、ガルドが(わら)っていたあの()、あの一瞬(いっしゅん)、あの座標(ざひょう)を、世界(せかい)という()巨大(きょだい)なタイムラインに強引(ごういん)にドラッグ&ドロップしていく。

 

 その(とき)宿(やど)(かべ)透過(とうか)して、無数(むすう)(しろ)(かげ)――管理者(かんりしゃ)(あらわ)れた。

 

異分子(いぶんし)排除(はいじょ)開始(かいし)領域(りょういき)安定(あんてい)最優先(さいゆうせん)せよ」

 

「させねえよ……! レイ、ミラ、そのまま(つづ)けろ! ここから(さき)は、一歩(いっぽ)(とお)さねえ!」

 

 ライオネルが(けん)()き、管理者(かんりしゃ)(まえ)()ちはだかる。


 フィリスも、(ふる)える()魔石(ませき)(にぎ)りしめ、援護(えんご)(かま)えを()った。

 

 ()されたはずの「(たて)」を()(もど)すための、世界(せかい)への叛逆(はんぎゃく)

 

 レイは、自分(じぶん)意識(いしき)深層(しんそう)にある、あの薄暗(うすぐら)いテレビ(きょく)編集室(へんしゅうしつ)風景(ふうけい)(おも)()かべていた。

 

()()えるんだ……。不要(ふよう)なカットなんて(ひと)つもない。(おれ)たちが、(おれ)たちらしく(わら)える、その未来(みらい)へと……!)

 

 レイの絶叫(ぜっきょう)(とも)に、(ひかり)のペンが爆発的(ばくはつてき)(かがや)きを(はな)ち、ヴィンセントの(よる)真昼(まひる)のような白光(はっこう)()(つぶ)した。



(だい)34()(つづ)く)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ