第3話
「そういえば、お父、様?とお母様、は…」
「往診の件で王宮へ行っておられましたが、
お嬢様が目を覚まされたと伝令を送っておりますので、
急ぎこちらへ向かわれているかと(バタン!)」
「!?」
「メイリン!」
侍女の声を遮るような大きな音がしたかと思うと、
突然誰かに抱きつかれ、体は大きく後ろへ倒された。
「あの…」
「あぁっ、ごめんなさい。
メイが目覚めたと知り、急いで戻ってきたの。
具合はどう?」
この人は…
「お母、様…?」
柔らかなブロンドヘアに深緑の瞳。
年齢は40代前半くらいだろうか?
目の色は違うが、メイリンとよく似ている。
「メイリン?」
母と思われる人物は、心配そうに眉を下げ、
私の頬へと手を添える。
「どこか様子がおかしいわ…お医者様はなんと?」
「病み上がりで混乱されているのではないかと。
しばらく安静にしていれば落ち着くとのことです」
「そう…あぁ、可哀想なメイリン。
こんなに痩せてしまって…
料理長に栄養がある食べ物を用意させてくれるかしら」
「分かりました」
「メイ、欲しいものがあれば何でも言うのよ」
そう、病弱な1人娘という設定は、
ストーリーを進めるにあたって、
過保護な両親を作り出すために重要なポイントなのだ。
初めこそ親の大きな愛を受けて
可愛らしく育ったメイリンだが過保護故に、
悪役令嬢に相応しい、我儘な娘へと成長することとなる。
その後、心配性の母による手厚い介抱は
疲れたから少し1人になって休みたい、
という私の言葉により中断する夕方まで続いた。
「それじゃあ、私は部屋に戻るけれど
何かあったらすぐに誰かを呼ぶのよ?」
「はい、お母様」
「…本当に侍女を付けなくて平気なの?」
「えぇ。私は大丈夫ですから。
ほら、お母様も少し休んでください」
「…えぇ、分かったわ」
名残惜しそうにドアから顔を覗かせる母に
ひらひらと手を振りながら微笑むと、
母はようやく姿を消した。
「ふぅ…」
やっと終わった…。
「…つかれたぁ」
いくら見た目が子供とはいえ、
中身は立派な大人よ。
食べさせてもらうのだって
どれだけ恥ずかしかったことか…!
数時間前の私を思い出し、顔が赤くなるのを感じる。
頬を隠すように覆うと、じんわりと熱を持っていた。
…そういえば、今のメイリンは何歳なんだろうか。
両手を目の前に広げてみるが、
布団の上に小さな手がちょこんと置かれただけ。
誰も居なくなった部屋を見渡してみるが、
ヒントになりそうなものもない。
「…一度、整理してみる必要がありそうね」
さっきみたいに転げ落ちないように
今度は慎重にベッドから降りて窓際に置かれた机へと向かう。
どうやらこの不自由な足は、
壁伝いに歩かないとすぐに転んでしまうようだ。
ひょこひょこと、僅か数十メートルの距離を
数分かけて歩く。
「やっと着いた…」
ようやく辿り着いた椅子へと座り、
引き出しを開けると、そこには1冊のノートが入っていた。
「やっぱりね。」
メイリンの幼少期といえば1日の大半を部屋で過ごしており
趣味と呼べるものは読書のみ、という設定だ。
そして、より多くの本を読むため、
文字の習得だけは、兄弟の誰よりも早かった。
…こうしてノートに文字の練習をしていた頃は
天才なんて呼ばれていたメイリンだけど、
他の子達が勉強を始めて暫くすると
その才はごく平均的なものへと変わっていくのよね。
優秀な公爵家の兄弟達と比べて、
魔力も少なく、騎士としての才能もないお荷物公女。
公爵家の1人娘というだけあって、
表立って言ってくる人は居なかったが、
メイリンは陰でそう言われて続けていた。
自分で書いておいてあれだけど可哀想なことしちゃったな…。
お読みいただきありがとうございます。
もし良ければ下の星ボタンのクリックやブックマーク等をお願いします。
※何もお返しはできませんが、作者の制作モチベーションに直結します…!




