世界最大の石油埋蔵量を誇るヴェネズエラは、トランプの目にどう映ったのか?
正月早々、唖然である。
アメリカが、ヴェネズエラの首都カラカスに電撃的な爆撃を行い、あっさりとヴェネズエラの大統領夫妻を拘束。普段、ニュース番組を見ない筆者からすれば、ポカーンな出来事。背景がまったく分からない。
ということで、まずは背景をお勉強。
トランプの言い分はこうだ。――
「マドゥロ政権は、反米左翼の政権で麻薬カルテルとも結託した犯罪政権だ!マネーロンダリングも手伝っている!」だそうで、今回の作戦は主権国家への戦争ではなく、あくまでも「麻薬テロを支援する首班を逮捕拘束し、法で裁くための越境逮捕」―― ということらしい。
ふむふむ、今回の越境逮捕は完全に国際法を破る、重大な越権行為であるわけだが、そこを不問に付すのは、どういった了見で、どこに「目的」があるのか。
次にヴェネズエラという国について。
この暴挙以前は「コーヒーを栽培している南米の国」というくらいの認識であった筆者。だが、今回のトランプの目的を探るとビックリ。ヴェネズエラは、サウジアラビアをも超える「世界最大の石油埋蔵量」を誇る資源大国と出てきた。
ヴェネズエラ国内の油田は、確認埋蔵量で3,038億バレル。実に世界全体の17.5%のシェアを誇る。この油田開発の初期インフラの設備投資には、アメリカ・イギリス・オランダが大きく関わっている。そのためトランプは再三「我々がヴェネズエラの石油産業を作った」「(ヴェネズエラの国営石油会社を)米国のエネルギー企業として取り戻す」と公言しており、ヴェネズエラ政府に対しても公然とそれを要求してきたという。
ちなみに油田開発は、1920年代に始まり、1976年に国営化。今年は国営化して、ちょうど半世紀を超える年にあたる。
現在、ヴェネズエラ経済は深刻なインフレに苦しんでいる。アメリカによる長期に渡る経済制裁の影響で、次の取引先として中国を選ぶと「中国の傀儡」とレッテルも貼られる。アメリカが制裁を続ける限り、中国との取引も是非もない話だろうに(バイデン期には、ロードマップ込みの緩和措置も取られていたそうだが)。
次に「麻薬」の話。
麻薬の原材料といえば、コロンビア、ペルー、ボリビアなどで主に栽培され、メキシコのカルテルが独占的に流通を担う。ヴェネズエラにも実際に組織は存在し、今回の爆撃は「麻薬を積み込む場所」とトランプが定めた首都の港湾施設。しかし、今回の大義名分である「麻薬」に関して、ヴェネズエラは、果たしてアメリカに流入する麻薬のいったい何パーセントを担っていたというのだろうか?
麻薬に関していえば、現在のトレンド、死亡事故の最大の原因とされているフェンタニル(オピオイド系鎮痛薬=ゾンビドラッグ)の材料は主に中国で、メキシコのカルテルによって、供給されているとされる ―― 事実なら阿片戦争の攻守逆転バージョンみたいなものか ―― 麻薬が本当の理由なら、メキシコ襲撃が妥当と考えられるが、世界最大規模の原油を埋蔵するのはヴェネズエラなので、メキシコは二の次らしい。
一説には、トランプからマドゥロに対し、「米国企業(=シェブロンやエクソンモービルなど)への油田返還や操業権譲渡」に合意すれば、麻薬テロ容疑の起訴を取り下げるという取引も持ちかけられていたとされるが、全面承服の回答が遅いことに業を煮やし、「交渉の期限は過ぎた」と越境攻撃(直前にはヴェネズエラのタンカーも拿捕)。もちろんCIAのエージェントは世界中にいるので、あっというまに大統領夫妻も拘束である。
トランプは、次の大統領選挙でアメリカの傀儡となる大統領が決定するまで、アメリカによる直接支配をさっそく明言。これを「公正な民主化」というらしいが、民主主義の定義とは、いったい何なのだろうか ―― 選挙結果次第で、かつてアメリカがガザの民主化を阻んだ時と同じ手法が永遠にとられることとなるだろう。
追記)トランプは、さっそく「選挙よりも石油インフラの拡充を優先する」と明言。さすがトランプとしか言いようがない(苦笑)。
個人的には「麻薬組織とマネーロンダリングの拠点」を謳うのなら、やはりメキシコ襲撃でなければ、話が違う。ヴェネズエラは、アメリカに流通する麻薬の数パーセンントを担っているかどうかだし、マネロンするにしても貨幣価値がないに等しいボリバル(=ヴェネズエラ通貨)に変えても、何の役にも立たないのだから。
南米といえば、歴史的背景を踏まえても、当たり前のように反米国家が並ぶ。こんな暴挙が認められれば、南米全土のアメリカの支配化も可能となるだろう(すでにいくつかの国家では傀儡政権化してきているが)。
ただ、トランプは完全なる「ビジネスマン」なので、すべては「コスパ次第」だ。そういった意味でも、ヴェネズエラは立地的にも支配するのに最適な南米の最北端。以前から垂涎していたのもよく分かる。
―― ところで、怖いのは、やはりこの国の現政権の対応だ。いくらアメリカの手下だとしても、この国際的暴挙に対する声明のひとつすら出さない(=先進国では日本だけの)姿勢には、不信感も否めない。
暴挙に対する諫言すら出来ないのは、「対等の同盟関係」とは言えない。唯々諾々として無言で従うのは「臣従」の関係性である。
追記)ようやく声明を出したかと思えば、法人の安否と国際的協調のみに言及。日本は今回の件に関し、独自の見解は持たず、皆さんにお任せします。といういつもの態度を示した。
トランプは、以前から国連を誹謗中傷し、脱退をも仄めかすような人柄だが、今回の政権対応を見ていると、トランプが「国連を離脱する」といえば、日本も従うなんて冗談も現実に起こり得るのではないかと、心配にもなる。
そういえば、先月、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状の出ている、大統領よりも偉い、イスラエルの皇帝=ネタニヤフ首相がアメリカを訪問し、トランプとニッコリ握手をしていたが、アメリカもまたICCには加盟していないのが興味深い。
次の第三次世界大戦では、アメリカ・イスラエル・日本が、前回の日独伊を演じることになるのだろうか?
トランプが、ロシアのウクライナ侵攻にも一定の理解を示していたのは、この布石だったのかもしれない。でなきゃ、ロシアが支配したウクライナの東部および南部の4州+クリミアの「ロシアへの割譲」なんて、ウクライナに提案しないわな。
国際的正当性ではなく、アメリカ・ファーストを貫くと、「こういった正義」もまた生まれる。
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ちなみに、このエッセイを書くにあたり、下調べとしてCopilotとGemini、Grokなどを利用したが、意外に今回の件に批判的なのがGoogle Geminiで、フォローに回ったのがGrokだったのが「イメージの真逆じゃね?」で面白かった。MicrosoftのCopilotは、完全なトランプ応援バイアスが働いていたが、これは予想通り。
Copilotは、最新情報の取得もせずに、今回の爆撃も「フィクション」と断じ、回答。Copilotの信憑性自体を大きく損なうもので、深刻な減点だ。




