# 第六章・第2話:骨董品店での爆買いと、スイートルーム・イン・ザ・バッグ
宿場町の家具屋と骨董品店をハシゴする勇者の姿は、狂気の沙汰だった。
金貨50枚という予算は、この辺境の町では国家予算並みの購買力を持つ。
「この最高級羽毛ベッド、くれ! あと、そのペルシャ絨毯みたいなやつも!」
「へ、へい! ありがとうございます!」
店主が揉み手をする横で、勇者は次々と大型家具を私(袋)に放り込んでいく。
おい、乱暴に入れるな。
高級家具だぞ。傷がついたら査定に響く(売るわけではないが)。
私は内部で必死にキャッチし、配置していく。
レイアウト計画は以下の通りだ。
【エリアA:居住区(新規作成)】
・床:『深紅の絨毯』を敷き詰める。冷たい倉庫の床を隠すためだ。
・寝具:『天蓋付きシングルベッド』。王族には天蓋が必須らしい。
・照明:『魔石のシャンデリア』を天井(空間上部)に浮遊固定。
・空調:カーバンクルによる『自動浄化・温度調整』。
既存のアイテムたち――ポーション棚や武器庫――は、壁際に寄せ、さらに『パーテーション(衝立)』を購入して目隠しをした。
生活感(冒険者感)を消すためだ。
特に『ミミックの死骸(ボンテージ仕様)』は、教育上よろしくないので、空間の最深部へ完全隔離した。
「あと、風呂だな。王女様だし、風呂入りたいって言うだろ」
カイが気を利かせて、猫足のバスタブ(陶器製)を購入した。
重い。
だが、風呂は重要だ。
水は以前の『水樽』があるが、排水はどうする?
……まあいい。使用後の湯は、私のスキル『結合』で汚水ボールにして、後でまとめて捨てればいい。
全自動排水システム(人力)だ。
準備万端。
私の内部空間は、劇的ビフォーアフターを遂げていた。
薄暗い倉庫が、一転して「移動式高級ホテル」へと変貌したのだ。
カーバンクルもふかふかの絨毯の上で転がり回り、「みゅ~!」と喜んでいる。
夜。
裏通りの暗がりで、フードの少女エレナが待っていた。
「準備はできたかしら?」
「完璧だぜ。さあ、どうぞ」
カイがうやうやしく私の口を開ける。
エレナは少し躊躇したが、意を決して飛び込んだ。
ストン。
彼女はふかふかの絨毯の上に着地した。
「……!」
エレナが目を見開く。
シャンデリアの柔らかな光。
天蓋付きベッド。
そして、足元にじゃれついてくるカーバンクル。
「すごい……。本当に袋の中なの? お城の離宮みたい」
お褒めの言葉、光栄です。
私の(カイの金による)努力の結晶です。
「まあ、合格点ね。でも……」
エレナは衝立の隙間から覗く『ポーション棚』を見て、小首を傾げた。
「あの棚の配置、風水的に良くないわ。もう少し右にずらして」
風水!?
異世界にもあるのか。
私は渋々、念動力で棚を5センチ右へ移動させた。
「うん、良くなったわ。ありがとう、ポッケ」
彼女は天井(私の意識がある方向)に向かって微笑んだ。
……可愛い。
これなら、少々のわがままも許せてしまうかもしれない。
こうして、奇妙な同居生活が始まった。
外には国境警備隊。
中には王女様。
袋一つで綱渡りの密入国ミッション、スタートだ。




