第六章:国境越えの密輸疑惑と、グルメな亡命王女
東の帝国へと続く街道沿いの宿場町。
私たちはここで足止めを食らっていた。
国境警備が強化されているらしい。なんでも、王国の重要人物が行方不明になったとかで、検問が蟻の這い出る隙もないほど厳重になっているそうだ。
「参ったな。これじゃあ、怪しい荷物を持ってる俺たちは通れねえぞ」
勇者カイが酒場でエールを煽りながらボヤく。
私の内部には、希少獣カーバンクルが住み着いている。正規の手続きをすれば没収されるか、莫大な税金を取られるだろう。
その時、私たちのテーブルに、深々とフードを被った小柄な人物が近づいてきた。
「……そこの冒険者さん。腕に自信はおあり?」
鈴を転がすような少女の声。
カイが顔を上げる。
「あ? 誰だお前」
「依頼をしたいの。私を……『荷物』として帝国まで運んでほしいの」
荷物として。
その言葉の意味を、私は瞬時に理解した。
正規の通行人としてではなく、隠された物資として。つまり密航だ。
少女がフードを少しだけ持ち上げる。
月光のような銀髪と、宝石のような紫の瞳。
そして、その首元には王家の紋章が入ったペンダントが見えた。
――ビンゴだ。
こいつが噂の「重要人物」だ。王女様か、あるいはそれに準ずる高貴な身分。
「金貨100枚出すわ。前金で50枚」
少女が革袋をテーブルに置く。重い音がした。
「ぶふっ!」
カイがエールを吹き出した。
金貨100枚。家が建つ。いや、城が買えるかもしれない。
貧乏性のカイの目が「¥」マーク(こちらの世界ではGマークか)になったのが見えた。
「乗った! で、どうやって運ぶ? 樽に隠れるか?」
「いいえ。あなたの腰にある、その『魔法の袋』に入れてちょうだい」
指名された。
私だ。
おい、待て。人間だぞ。
生体収納はカーバンクルで経験済みだが、人間はサイズが違う。酸素消費量も排泄物の量も違う。
リスクが高すぎる。
(断れカイ! 王族誘拐罪で首が飛ぶぞ!)
私は必死に念を送るが、金貨の魔力に魅入られたカイには届かない。
「へっ、お目が高い。こいつは俺の自慢の相棒『ポッケ』だ。中は快適だぜ?」
「あら、名前があるの? 可愛らしいわね」
少女が私を撫でた。
柔らかい手だ。いい匂いがする。
……まあ、悪い気はしない。
いや、騙されるな私! これはハニートラップならぬロリトラップだ!
「契約成立ね。出発は今夜。検問を抜けるまでの辛抱よ」
少女――エレナと名乗った――は、手付金の袋をカイに押し付けた。
カイはニヤニヤしながら私に語りかける。
「頼むぜポッケ。VIPの送迎だ。極上の個室を用意してやれよ」
極上の個室だと?
私の腹の中は倉庫だぞ。
ポーション棚と、骨の山と、ミミックの死骸があるだけの殺風景な空間だ。
そこに王女様を住まわせる?
……リフォームが必要だ。
私は覚悟を決めた。
やるなら徹底的にやる。それがプロの倉庫番だ。
今から数時間以内に、私の内部空間を「王族が住めるレベルのスイートルーム」に改装しなければならない。
まずは、家具の調達だ。
カイ、金貨があるなら家具屋へ走れ!
ベッドだ! ソファだ! カーペットだ!
全部最高級品を買ってこい!




