第五章:ギルドの昇格試験と、ライバル収納士
王都の空は青かった。
陰湿なダンジョンの天井を数日間見上げ続けていた私にとって、この開放感は何物にも代えがたい。
いや、私に目はなく、見上げているのは勇者の腰から見える景色なのだが。
私たちは冒険者ギルドへの帰路についていた。
足取りは重い。疲労ではない。物理的に重いのだ。
私の腹の中には、以下の戦利品が詰まっている。
1.『ヴェノム・タランチュラの脚(甲殻)』×8本
2.『毒袋』×1個(厳重に布で梱包)
3.『強力な粘着糸の束』×大量
4.『ミミックの破片』少々
5.『スライム核(瓶詰め)』
特に蜘蛛の脚がかさばる。一本2メートル近い巨大なカニ足のようなものが8本だ。
これを収納するために、私は内部空間で3次元的なパズルを組まなければならなかった。
脚の関節をうまく組み合わせ、隙間に他の荷物を詰める。
まるで現代アートのオブジェだ。
「よし、着いたぞ。今度こそガッツリ稼ぐ!」
勇者がギルドの扉を開ける。
カウンターには、いつもの受付嬢リサさんがいた。
彼女は私たちの姿を見ると、少しだけ眉をひそめた。前回の「ヘドロ睾丸事件」の記憶が新しいのだろう。
「お帰りなさい、カイさん。……今日は、何か臭うものはありますか?」
「失礼だな! 今日は大物だぜ! タランチュラの素材だ!」
勇者は自信満々に私をカウンターに乗せた。
さあ、出番だ。
汚名返上のチャンス。
私は、内部で丁寧にパッキングされた素材たちを、順序よく押し出した。
ズズズ……。
巨大な蜘蛛の脚が一本、また一本と出てくる。
切断面は布で覆われ、体液が垂れないように処理してある(勇者がやった雑な処理を、私が内部で紐を使って補強した)。
「ほう……これは見事な脚ですね。傷も少ない」
リサ嬢の目が変わった。
続いて、毒袋。
これが破れたら大惨事だが、私はこれを「矢の束」で作った櫓の中に固定して運んできた。振動による衝撃ゼロだ。
「毒袋も無傷。素晴らしい保存状態です」
そして最後に、あの『スライム核(瓶詰め)』だ。
勇者が取り出す。
ポーションの空き瓶の中で、緑色の核が液体(少量の酸)と共に揺れている。
「これは……スライムの核? どうして瓶に?」
「ああ、酸が強かったからな。空き瓶に入れて密封したんだ」
勇者がドヤ顔で言う。
アイデアを出したのは私(無言の誘導)だが、手柄は勇者のものだ。まあいい。
「すごいです! 酸スライムの核は、空気に触れると酸化して劣化するんですが、この状態でなら最高品質のまま錬金術に使えます! カイさん、いつの間にこんな知識を?」
リサ嬢が目を輝かせた。
評価が覆った。
「不潔な脳筋」から「素材管理のできるプロ」へ。
私の株も上がった気がする。
査定結果。金貨20枚。
前回の銅貨15枚とは雲泥の差だ。大金星である。
「やりましたね、カイさん。これなら……推薦できます」
「推薦?」
リサ嬢が真剣な表情で羊皮紙を取り出した。
「実は来週、年に一度の『Cランク昇格試験』が行われるんです。本来は筆記試験などもありますが、カイさんのこの素材管理能力と実績があれば、実技試験への特別枠で参加可能です」
昇格試験。
ランクが上がれば、より高難度の依頼を受けられる。報酬も増える。
つまり、もっと良い装備(や袋)を買えるようになるかもしれない。
「へえ、面白そうじゃん。受けて立つぜ!」
勇者は即答した。
だが、リサ嬢は少し言い淀んだ。
「ただ……今回の試験、ライバルが強力でして。王都のエリートギルドからも参加者がいるんです。特に『収納』に関しては、かなりハイレベルな戦いになるかと」
収納対決?
聞き捨てならない単語だ。
冒険者の試験で、なぜ収納が?
「最近のトレンドなんです。『ロジスティクス(兵站)こそが冒険を制する』という考え方で。大量の物資をいかに迅速に、安全に運べるか。それが試験のテーマです」
なるほど。
つまり、これは勇者の試験であると同時に、私の試験でもあるわけだ。
望むところだ。
伊達に物流倉庫で死ぬほど働いていない。
エリートだか何だか知らないが、私の「在庫管理魂」を見せてやる。
勇者はニヤリと笑い、私をポンと叩いた。
「相棒、出番だぞ。俺たちの最強コンビを見せつけてやろうぜ」
ああ、任せろ。
ただし、試験中に変なゴミを入れるなよ。
それだけが心配だ。




