表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生したら『勇者の装備品袋(アイテムボックス)』だった件。整理整頓しないと重要アイテム捨てますよ?』  作者: まこーぼ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/41

第三章・第5話(終):マトリョーシカの憂鬱と、見えない在庫

 勇者は有言実行の男だった。ただし、悪い方向に。


 道具屋の軒先で、彼は安っぽい革製の肩掛け鞄を手に取っていた。

 『マジックバッグ(小):容量20リットル。時間停止機能なし。重量軽減・微』

 定価、銀貨2枚。

 入門用の量産品だ。私(無限容量・座標管理機能付き)に比べれば、スペックは雲泥の差がある。


「よし、これください!」


 勇者はなけなしの金貨を崩して支払いを済ませると、早速そのバッグを私の口元へ持ってきた。


「ほらよ、新入りだ。仲良くしてやれ」


 ドサッ。

 私の内部空間に、異物が侵入してきた。

 革の匂いと、微かな魔力の波動。

 それが、私が苦労して作った「ポーション棚」と「リンゴ箱」の間のスペースに、図々しく鎮座した。


 【入庫:マジックバッグ(小)】

 【識別名:サブバッグ_01】


 私は、その新入りに対してコンタクトを試みた。

 (おい、聞こえるか? お前の管理者だ)

 ……反応なし。

 (挨拶くらいしたらどうだ? 新人)

 ……沈黙。

 どうやら、こいつには私のような自我はないらしい。ただのプログラムされた道具だ。

 少し安心したような、張り合いがないような。

 だが、問題はここからだった。


「さて、ポーションとか矢は、バラバラだと取り出しにくいからな。こっちのバッグにまとめとくか」


 勇者の手が伸びてきた。

 やめろ。

 何をする気だ。

 私はポーションを美しく整列させたぞ。矢だって、空中で完璧に束ねてある。

 取り出しにくい?

 それはお前がガサツに探るからだ!


 勇者は私の抵抗(心の声)など知る由もなく、整列済みのポーション50本を鷲掴みにした。

 そして、それをそのまま『サブバッグ_01』の口へと突っ込んだ。


 ガラガラガラッ!


 ああ……!

 私の美しい陳列が!

 硝子のシンフォニーが!

 ポーションたちは、サブバッグという名のブラックホールへと吸い込まれていった。

 中でどうなっている?

 割れていないか? 横倒しになっていないか?

 わからない。

 サブバッグの内部は「異空間」だ。私の「異空間」の中に、別の「異空間」が存在している状態。

 私のセンサーは、サブバッグの「外側」までは感知できるが、「内側」までは干渉できないのだ。


 完全なるブラックボックス。

 在庫管理システムにおける「不明在庫」エリアの誕生だ。


「矢も入れとくか」


 次は矢だ。

 100本の矢の束が、サブバッグに押し込まれる。

 羽根が折れる音がした気がする。

 だが、私には確認する術がない。


「お、リンゴも入れとこ」


 リンゴまで!

 ポーションの瓶の上にリンゴを乗せる気か? 割れるぞ!

 だが、勇者は容赦なくリンゴを詰め込み、バッグの口を紐で縛った。


「よし、スッキリしたな!」


 勇者は満足げだ。

 確かに、私の内部空間メインエリアはスッキリした。

 ポーション棚も、矢の束も、リンゴ箱も消えた。

 残っているのは、巨大な『サブバッグ_01』と、昨夜の『巨大ゴミ団子』、そしてその他のガラクタだけだ。


 だが、私の心は晴れなかった。

 管理できない。

 あのバッグの中で、今まさにポーションが割れ、液体が漏れ出し、矢の羽根を濡らし、リンゴがそれを吸って青色に変色しているかもしれない。

 その惨状を、私は感知することも、修正することもできないのだ。


 これは……ストレスだ。

 見えているゴミを片付けるよりも、見えない場所でゴミが増えているかもしれないという疑念の方が、精神を蝕む。


「準備万端! いよいよだな!」


 勇者が城門の方角――街の外――を見据えた。

 その目は輝いている。

 冒険者の目だ。


「目指すは『忘却の地下迷宮』! 噂じゃ、未発見のレアアイテムが眠ってるらしいぜ!」


 ダンジョン。

 迷宮。

 それはつまり、さらなる「未知のアイテム」の流入を意味する。

 魔物の素材。

 古代の遺物。

 罠。

 呪われた装備。


 それらが、私の内部へ、あるいはあの『サブバッグ』の中へと放り込まれるのだ。


 私は震えた。

 だが、同時に覚悟も決まった。

 管理してやる。

 見えないなら、見えるようにしてやる。

 いつか、あのサブバッグの中身すらもハッキングして、完璧な在庫リストを作り上げてやる。

 それが、最強のアイテムボックス(私)のプライドだ。


 勇者が歩き出す。

 私の内部で、サブバッグがゴロンと転がった。

 中でカチャンと音がした。

 ……あ、一本割れたな、これ。


 私の戦いは、まだ始まったばかりだ。

 世界を救う前に、まずはこの袋の中の世界インベントリを救わねばならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ