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想いの宿る箱

作者: 篠原 皐月

 一番古い片付けの記憶って、何だったろうか……。


 唐突に、そんな脈絡もない内容を考えたのは、引っ越し作業の終盤だった。

 明日、初めての一人暮らしのために、この家を出て行く。とは言っても、大きな家具や家電は現地調達。持っていくのは細々とした私物だけだから、あっさりとしたものである。寧ろ、この機会に色々溜め込んでいた物を処分しろと、母から厳命が下ってしまったのだ。

 嫌々ながら収納スペースにしまい込んであるものを引っ張り出してみると、出るわ出るわ懐かしい思い出から忘れてしまいたい黒歴史の片鱗まで。思わず顔を覆って、項垂れたのは言うまでもない。

 しかしそのまま放置するわけにもいかず、涙を呑んで処分する物、母に泣き落としで引き続き保管して貰う物、引っ越し先に持参する物に仕分けを始めた。その種類ごとに箱詰めをしていく。


「ああ、そうか……。あれだ……」

「え? お姉ちゃん、どうかしたの?」

 作業を手伝ってくれていた妹が、怪訝な顔で声をかけてくる。それで私は、考えていたことを思わず口に出していたのに気づいた。


「片づけをしていたら、思い出したのよ。昔、散々使い倒したおもちゃ箱の事。あんたも使ってたから、覚えてない?」

「ええと……。全体的に若草色で、お花の模様が一杯プリントされていたあれの事だよね?」

「そう。お母さんに叱られて、あの箱におもちゃをしまう度に、もの凄く悲しくなっていたなぁと思って」

「それは確かに、そうだよね。特に楽しく遊んでいた時なんか、尚更だったよ」

「大きくなってくるのに従ってそういう気持ちは薄れていたけど、物心ついた頃は、その箱が嫌で嫌で仕方がなかったわよ。遊び始める時は、この忌々しい箱から、私が救出してあげるんだ、くらいの気持ちだったかもしれない」

「何、そのたかが遊びに使命感みなぎらせる子供! お姉ちゃんらしくて笑えるけど!」

 そのままお腹を抱えて、本当に「あははは」と笑い始める妹を一瞥して、私は手元の箱の中を見下ろした。


 当時の嫌な気持ちも含めて、今の私には大切で幸せな記憶だった。そういうものを詰め込んで家を出て行ける私は、かなり幸せな方ではないだろうか。

 正直に言ったら、また笑われそうだから口にしないけど。

 そんな事を思いながら、私は最後の段ボール箱に封をして荷造りを終えた。









 


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