目的
協力者の情報は間違いではなさそうだ。
若い男はノートパソコンに表示されている地図を確認してそう思った。
八十八個目が観光地の一角とは。
助手席の男は仮眠を取っている。
昨夜の下調べで夜間のうちにそこへ行くのは難しかった。
まだ陽の残るうちにアタックすることになった。
地図に写し出されているのは、八十八ケ所の赤い点だが実際の八十八ケ所の霊場とは違う。
寺院だけではなく。
神社や山、八十八ケ所に入っていない寺院や滝がその点だ。
これらを調査するのに1年かかった。
我らがご先祖が記した『夕凪島見聞記』を頼りに。
そこには我が財宝をキリシタンのために記す。
そう書かれている。
空海が設置した八十八ケ所を頼りに、我が示した八十八ヵ所を巡れば『財宝』に導かれる。
ただ、その八十八ケ所を探すのが困難だった。
そして最後のポイントが、この奇岩の名勝の一角にあるとは以外だった。
その中で予想外の収穫もあった。
自分達が探す財宝ではないもの、まことしやかに残る空海の秘宝と関係がありそうな場所を二ヶ所見つけた。
八十八ケ所にもう一つの謎があることに興奮した。
ただ、同じように調査している連中がいるのが気掛かりだ。
男に接触してきた協力者も気になる。
空海の秘密はともかく、我が先祖の宝は……
「誰にもやってたまるか」
「ん?どうした?」
若い男が発した語気に男は目を覚まし、キョロキョロと辺りを見回した。
「ぼちぼち行きませんか?」
男は眼鏡を外して腕時計を見た。
「よし、行こう」
二人は車から降りると駐車場脇の山道を進む、カップルが道の先を歩いていた。
前からは男女のグループが歩いてきて、賑やかな声が通り過ぎる。
「意外と人が多いな」
男は顔を伏せながら小声で呟いた。
幸い前を歩くカップルは、鷹取展望台への坂道を上って行った。
二人の男は真っ直ぐ道を進み、寒霞渓の登山道を下る。
木々に覆われている辺りはすでに薄暗い。
「さすがにもうここを歩く人はおらんだろう」
男は聳える崖の岩肌に触りながら話した。
若い男はノートパソコンを広げて操作している。
「もう少し先のあの岩の辺りですね」
指を差した方向に男は歩きだした。
そして、目印の岩の横の道なき道に分けいった。
少し進むと山の岩壁に突き当たり、それに沿って左手に進み緩やかに下って行く。
ここまでは昨夜に来た。
「ここからですね」
若い男がそう言うと、
「慎重に行こう」
男はヘッドライトをつけて点灯させ先を歩いた。
大分、日が暮れてきて陰になるこの辺りは暗い。
しばらく歩くと、先を歩く男は立ち止まり。
ここだな、足下を指差した。
若い男はペンライトで、地面を照らすと穴が開いているような空間があった。
「こっちから回って降りよう」
岩壁沿いを離れ、その穴を迂回して進むと、そこには今歩いて来た方向に洞窟が口を開けていた。
「よし、行こう」
「そうですね」
二人の男は暗闇の洞窟に飲み込まれていった。
「しかし、穴だらけやこの島は」
愚痴っぽく話す男に、若い男は
「それだけ、何かを隠すには都合が良いのでは」
「そりゃ、そうだが」
洞窟は下っていて、入り口から数十メートルで細まり、一人ずつ進んで行く。左へ曲がり始めるとしばらくそれは続いた。
「これ、どこまで続くんだ…」
尤もな感想を男は言うと、歩みを止めた。
「どうしました?」
「いや、ふと思ったんだが、螺旋階段みたいになっているんじゃないか?」
「ちょっと待ってください」
若い男はカバンからノートパソコンを取り出して、洞窟をマークした位置と現在地を照らし合わせた。
電波は辛うじて入っている。
「そのようですね、入り口のほぼ真下です」
「そうか」
男は歩き出した。
10分程進むと平坦なになり、真っ直ぐになった道を進むと交差点のように四方に道は伸びていた。
それぞれの道を男はライトで照らすと左右の道は数メートル先で突き当たっているようだ。
「一応全部行ってみるか」
「ですね、ここまで来て見落としがあってはいけませんから」
「じゃあ、手分けするか」
「分かりました、自分は左に行きます」
「分かった」
若い男は左の道を進んだ、すぐに行き止まりになった。
ライトで周囲を確認する。
特に変わった場所は無い。
振り返り戻ろうとした時、左側の壁に隙間があるのに気が付いた。
それは奥まで進んで振り返らないと気がつけない角度にある。
隙間は30センチほどでライトを照らしてみる。
何かある。
箱がその幅の中で積み上げられている。
手を伸ばしてそれを引き出そうとするが重量もあるのか動かない。
道具は何も持ち合わせていない。
「何かないか」
右往左往していると、右の道を見に行った男がこっちに来た。
「何してるんだ?」
「ああ、箱がここにあるんですが、取れないんですよ」
「箱?」
男は若い男が言う隙間にライトを当て覗き込んだ。
「ほんとだ、あるな」
男は手を伸ばし引き出そうとするが、それは動かなかった。
「ダメだな、道具がないと……」
「右の道はどうでした?」
「いや、何もなかった。正面も見てきたが同じだった」
「ということは、ここだけか」
「だな。埒が明かないから、一旦、引くか……」
「惜しいですが……仕方ありませんね」
若い男は隙間の箱を覗き深い溜め息をついた。
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