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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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デッキの上で

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


学校からの帰り道。

真一郎の前を歩く香と美樹はいつものように、おしゃべりをしながら歩いている。

二人は一緒に香の家に入っていった。

という事は大体この後二人は一緒に行動するはず。

とは言っても出歩くわけでもなく。

恐らく今日はゲームでもするのだろう。

見送り任務が終わると家の鍵を取り出し鍵穴に入れた。

「あれ?」

鍵は掛かっていなかった。

「ただいま」

扉を開けて声を出した。

靴を脱ぎ二階の部屋へ向かって階段を上っていると、兄がキャリーケースを持って廊下を歩いてきた。

「おかえり、真一郎」

兄は普段と変わらない様子。

「ただいま兄さん、どっか行くの?」

「ああ、ちょっとね」

「気を付けて」

真一郎が、すれ違いざまに言うと、兄は前を向いたまま、

「お前もな」

片手を上げて階段を下りて行った。


自分の部屋に入り着替えをしていると、ガレージが開く音がして車が出て行った。

父さんにメールだけしておくか、

『今、家にいるんだけど、さっき兄さんが車で出かけたよ、それと、香からあの妹さんが無事だって話を今朝聞いた』

グレーのポロシャツにジーンズを履いたいつもの格好。

そして、リュックを背負って家を出た。

自転車で瀬田港へ向かう。

自転車を漕いでいると涼しいが止まると汗が沸いてくる。

フェリーターミナル脇の駐輪場に自転車を止めて建物の中に入る。

エアコンがガンガンに効いていて涼しい。

スマホの時計は12時30分だった。

約束の時間より大分早く着いた。

一応、理央にメッセージを送ってみる。

「瀬田港のフェリーターミナルにいるから」

うどんの出汁のいい匂いがしてくる。

腹が減ったけど、休憩時間に理央が、

「お昼は食べないでね、お願い」

と話し拝まれていた。

平日の昼間ではあるが利用客がそれなりにいて、待合席はポツポツと埋まっている。

スマホが震えた。

理央からのお返事が来た。

『今、家を出たから、ぎりぎりだと思うから、フェリーの往復チケット二人分買っといてくれる』

は?

フェリー?

ですか?

買い物って言ってなかったかっけ?

どういうことだ?

「分かった、気を付けて」

真一郎はとりあえずメッセージを返信し、券売機で二人分の往復チケットを買った。

ついでにスポーツドリンクも二本買っておいた。

そして壁際の椅子に座り理央を待つことにした。

ここからならターミナルの入り口が見える。


しかし、フェリーとは予想外だった。

ここからバスに乗って土庄町辺りのショッピングモールとか、スーパーに行くものだとばかり思っていた。

フェリーの出港時間は13時で、あと10分だ。

利用客は続々と乗船していった。

入口のほうを見ると理央がいた。

自動ドアの前で足踏みをして、扉が開くとキョロキョロと見回し、自分を見つけると微笑んで駆け寄ってきた。

薄い黄色の首元から前にひらひらしている服に、オレンジ色のひらひらしたスカートにピノキオが履いてそうな形の白い靴を履いている。

目が痛い、小さなショルダーバックを肩から下げて、肘には大きなバッグを掛けている。

何か売りにでも行くのかな?

あ、でも買い物か。

「ごめんね、遅うなって」

また拝まれた。

「ぜんぜん、とりあえずこれ飲みなよ」

真一郎がスポーツドリンクを手渡しすと、

「あ、ありがとう」

理央は何故か驚いて受け取っている。

「今日も暑いから」

真一郎がそう言うと理央はこっちを見上げながら、早速スポーツドリンクを一口飲んだ。

それをバッグに仕舞いながら、

「フェリー乗ろ」

声と共に歩き出す。

いやいや、チケット持ってないでしょ。

真一郎は理央の後を追いかけた。


ターミナルを出て理央は乗り場の係員の手前で笑顔で手招きして待っている、これから乗るフェリーはパンダ号だった。

「二人分です」

チケットを手渡し半券を貰う。

「ありがとう、行こう」

しもべのように付き従う。

フェリーに乗り込むと理央は、

「展望デッキ行くよ」

涼しい客室を無視して、何故かその上のデッキへ向かった。

階段を上っているとフェリーが出港したようで体が少しふらついた。

「あっ」

先を歩く理央も同じだったようで、声と共によろめいた。

「大丈夫」

真一郎が顔を上げ声をかけると、理央のパンツが見えそうだった。

気を使い視線をそむけて思う。

まったくなんでそんな服着るのかな?

「うん、大丈夫」

理央はデッキに出るとテーブルとベンチがある船首の方へ歩き出した。

そして、こっちを振り向き手招きをしている。

右舷側のテーブルに肘にかけていた大きなバッグを置いた。

「真一郎はそっち座って」

座席指定をされ、指示に従い椅子に座ると理央はニコッと笑ってバッグの中から何やら取り出している。

二つの箱のうち一つを自分の前に置き、水筒と紙コップを出して、その中身をコップに注ぐと箱の隣に置いた。

「お腹空いたでしょ? 開けてみて」

理央は腰掛けながら言った。

4:3の比率のそれを開けるとおにぎりが2個、卵焼き、焼きウインナーが綺麗に収まっていた。

「あ、お箸と海苔や」

バックの中から割り箸と海苔を取り出し手渡された。

「美味しいかどうかは分からんけど食べてみて」

「理央が作ったの?」

「えへへ、まあね時間がなかったから大したもんじゃないけど」

はにかんで肩をすくめている

「すごいな、ありがとう、そしたら頂ます」

手を合わせ割り箸を割って、卵焼きから食べてみる。

まだ温かい、ほんのり醤油の味がして美味しい。

「うまい」

自然と声が出た。

「よかったあ、私も食っべよ、いただきまーす」

嬉しそうに食べ始めた。


おにぎりも海苔を別にしてあるのが良かった、パリッとした海苔の食感とご飯のしっとり加減が絶妙だ。

中身は梅干しの種をとった果肉がたっぷりと入っていて食欲を促進させる。

ウインナーを箸で摘み口に運ぶ。

こちらもまだ温かい。

焦げ目がこおばしく塩コショウのシンプルな味付けだがそれが良い。

「あのさ、理央」

「なあに?」

理央は、おにぎりを持ちながらこっちを見ている。

「めちゃくちゃ美味しい、ほんとに」

そういうと広角が上がり、少し顔を赤らめて、

「良かった、喜んで貰えて」

そして、おにぎりをもぐっている。

「ありがとう、理央」

「えへへ」

手で口を抑え笑っている。

デッキは船が進むことによって起きる風が意外と心地よい。

もう一つのおにぎりの具は昆布の佃煮だった。

様々な味を文字通り味わえた。

お茶も冷たい緑茶で旨い。

「真一郎って、ご飯美味しそうに食べるよね、いつも」

「そうかな」

「そんな風に食べてくれたら作った方も嬉しいんよ」

「だって、美味しいからね」

ニコニコしながらお茶を飲んでいる。

「ピクニックみたいやね」

いやいや、買い物じゃないんでしょうか?

でも、おいしいお弁当ご馳走になったし、それはそれでいいか。

「美味しかった、ご馳走様。ありがとう理央」

手を合わせ軽くお辞儀をした。

それを見ていた理央は少し照れた様子で、頬を人差し指で掻いてから残りのお茶を飲んだ。

「ううん、どういたしまして、ごちそうさまでした」

理央も手を合わせている。

弁当箱を片付けながら紙コップにお茶を入れてくれた。

「ありがとう」

「真一郎ってさ、そういう所ちゃんとしてるよね」

ん?

どういう所?

理央は嬉しそうだ。


そして、バッグの中からポテトチップスの袋を出した。

テーブルの上に広げていく。

四次元ポケットですか、やりますな。

で、どういう所なのか?

気になるんですけど?

「ねえ、大っきい船」

自分の方を指さした。

振り向いて見てみるとタンカーの船尾が見えた。

西へ向かって航跡を残し進んでいく。

向き直ると理央がポテトチップスを1枚つまんで差し出してきた。

「真一郎、あーん」

ポテトチップスを目の前にしてびっくりした。

不覚にも思わず口を開けてしまった。

理央は嬉しそうに笑いながら、

「はい、どうぞ」

と食べさせてくれた。

「あ……りがとう……」

いやいや、どういうことだ。

理央はまたポテトチップスの袋に手を伸ばし2枚掴んでこっちへ差し出してきた。

仕方なく口を開けるとそれを押し込んできた。

「ちょちょ」

真一郎は手で制止すると、理央は自分の口にポテトチップスを持っていったまま、上目遣いにこっちを見ている。

ははーん。

さすがの僕でも分かりますよ。

お弁当おいしかったしまあいいでしょう。

受けて立ちましょう。

ポテトチップスを1枚持ち理央の口に持って行く。

「あ~ん」

理央が言うと口に近づけたポテトチップスにかぶりついてきた。

すんでの所で手を引っ込めてみた。

「ちょ……」

口を押えて笑っている。

「ごめん」

楽しそうに笑っていた。

もう一度行きましょう喜んで頂けるなら。

同じように理央の口へポテトチップスを持って行った。

すると理央はまたかぶりついてきたので手を引っ込める。

それを何度か繰り返して理央はケラケラと笑い転げていた。

「ちょっと、もう、なんでよ」

「いや……なんとなく……」

「もう、あほ」

そんなやりとりをしているうちに、フェリーは高松港に近づいてた。

お読み頂きありがとうございます。

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