変わらない朝 7月18日火曜日 5日目
7月18日火曜日 5日目
まだ朝だというのに雲の間から降り注ぐ陽射しが鋭い。
通学路の先には逃げ水が揺らめいて、ミンミンゼミが近くで威勢よく合唱していた。
香は美樹と並んで歩いている。
いつものように真一郎は少し離れた後方を着いてきていた。
美樹は香の事を二度三度見て、モジモジしながら話し出した。
「うちな、舞さんの髪留め返すの忘れてたん……」
「あ、そうや……私も忘れてた……」
香は手を口に当て目を丸くした。
舞を助ける事に精一杯で髪留めの事をすっかり頭の中から抜けちていた。
「じゃあ、今日会った時に返そ」
「そうする……」
美樹は少し俯いて、おでこを指でこすっている。
「それから、真一郎にも舞さんが帰ってこれたこと言わないとね」
香は手を翳して空を見上げた。
「そうやね……」
美樹は首を捻り後ろを見た。
香は立ち止まり振り向くと、真一郎を手招きして呼ぶ。
真一郎は自分を指さし、首を傾げながら不思議そうな顔をして小走りで近寄って来た。
「どうしたの?」
真一郎の問いには答えず、香は前を向いて歩き出した。
隣の真一郎はこっちをチラチラと見ている。
「あんな、啓助さんの妹の舞さんのことやけど。見つかったんよ」
香は声を細める。
「え?」
真一郎は一瞬立ち止まり、すぐに歩き出す。
「どうやって? どこにいたの?」
「真一郎、声大きい」
美樹が人差し指を口に当てた。
真一郎は美樹の真似をして同じポーズをすると小さく頭を下げている。
「それは……今は話せんの、ごめん」
香はまだ真一郎に自分の秘密の事を話す覚悟が出来ていなかった。
少しの沈黙が流れる。
気を悪くしたかな。
「分かった。けど舞さん、無事で良かった。本当に……」
真一郎は胸を撫で下ろしているようだった。
「一つだけいい? その舞さんは兄の事、何か言ってた?」
「ううん。何日間かの記憶がないみたい」
香は小さく首を振る。
確か、舞は先週の月曜日からの記憶がないと話していた。
「そうか……ありがとう」
真一郎は俯きながら小刻みに頷いている。
「ごめんね、真一郎、色々協力してくれたのに」
「ん? 何が? 言いたくないことの一つや二つ。誰にもあるんじゃないの?」
「ふーん、真一郎にもあるん?」
美樹が香の前に顔を出すようにして突っ込む。
「そりゃ、ねぇ……」
真一郎は立ち止まり、少し離れて後を付いてきた。
香は心の中で大人びたことを口にした真一郎に感心しながら、感謝していた。
「フフフ、真一郎って意外と意外やんな?」
香は美樹を見る。
「そうなんよ、たまーに頼もしく見えるんよ」
美樹は腕組みをして何度も頷いている。
「まあね、頼りにはしてるけど」
香はわざと後ろの真一郎に聞こえるように顔を背けて言った。
「え? 何? そう? ありがとう!」
嬉しそうに声を出しながら、真一郎は香の隣に並んだ。
美樹はクスクスと笑う。
「見た目、どんくさそうなのに、中身は、まあまあってことやな」
「は?」
美樹の冗談をまに受けた真一郎。
その背中を香はポンと叩いた。
真一郎が微笑むと、香と美樹も釣られて笑う。
信号がちょうど青になり横断歩道を並んで渡った。
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