闇へ
若い男が運転する車は山道を登っている。
車のヘッドライトだけが頼りの外灯のない道だ。
ライトが照らすのはアスファルトと道路脇の木々だけ。
「つけられているかも」
助手席の男がボソッとサイドミラーを見ながら言った。
「そうですか?」
若い男はバックミラーを確認した。
「この先は展望広場だろ、そこに一回止めてくれ」
男は膝の上のノートパソコンを閉じた。
「分かりました」
200メートルほど先の展望広場の駐車場に車を止めた。
10秒ほど経って一台のセダンが走り抜けていく。
「あれですか?」
若い男はそれを目で追い、男に尋ねる。
「わからん、気を付けるには越した事がないだろう」
「確かに」
「こんな時間にこんな所を車が走る事自体が、この島ではそうそうない」
男は膝の上のノートパソコンを開くと慣れない手つきで操作している。
「走り屋か、カップルとかならあると思いますが……」
「ん? そうか?」
「でも言ってることは分かります、用心に越した事はないですから」
「しかし、目が疲れるな」
男は眼鏡を外し目頭を押さえた。
若い男は10分ほど駐車し車を発進させた。
「さっきは悪かったな、驚かして」
「いえ、大丈夫です。それで協力者とはどんな人なんですか?」
「ん? ああ、そうだな……一言で言うと変わり者だな」
「変わり者?」
「そうだ、あいつにバレるの前提で尾行をしたんだが、いつも一人で行動している。人とあまり接触しない。だからかよく分からんが、いつも何かを探しているようなそぶりをしている。隙があるようでないって感じだった」
「そうなんですか……そのような人物を信用していいのですか?」
若い男はハンドルを握りながら問い掛けた。
「そうだな、言いたい事は分かる、ただ情報も欲しい。今回の情報が合っていれば、我々は目的を達する可能性もある」
「その見返りは?」
「この情報の真偽次第だが。例の二か所の結界の事を忘れる。それが条件だ」
「ほう……それはそれで興味がわきますね」
「飽くまでも、目的は分かっているだろ?」
「ええ、もちろん。情報の出所がやはり少々怖いですが……分かりました」
若い男は頷いた。
「着いたぞ、ここが目的地だ」
「え? ここって……」
若い男はブレーキを踏んで速度を落とした。
「そうだ、観光名所の一つだな」
「見てください。さっきのセダンが止まっています」
若い男は車を停車してライトを消した。
「待ってろ、飲み物を買ってくる」
男は車を降りると、駐車場を横切り売店が並ぶ方へ歩いて行った。
エンジンを掛けたまま若い男は待つ。
数分後、男は缶コーヒーを手に戻ってきた。
「あの車に人は乗ってないな」
男は缶コーヒーを若い男に手渡した。
「どうしますか?」
「気にはなるが……」
男は缶コーヒーを開け喉を鳴らす。
「行きますか?」
「とりあえず、エンジンを切って様子を見よう」
「分かりました」
若い男は車のエンジンを切る。
静けさの中に、二人の男の呼吸音だけが響く。
広い駐車場の外灯からは男達の車がある辺りは陰になっている。
いつものように静かな夜だ。
「行くか」
男は車を降りる。
若い男も後に続いた。
ふたりの男は暗闇の中に消えて行った。
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