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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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回想

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


啓助を先頭に歩く。

舞は香と美樹と三人で楽しそうに話をしている。

まるで昔からの知り合いみたいに。

美樹は結界の中の様子をしきりに聞いていて。

それを嬉しそうに舞は話している。

結界という、浮世離れした空間にいたとは思えない、舞の元気な姿に胸を撫で下ろしつつも、啓助には聞いてみたいことがあった。

駐車場に戻る頃には19時になろうとしていた。

舞は助手席に座り、後部座席の二人と変わらずにお喋りを楽しんでいる。

啓助は車の外でホテルに連絡して、シングルからダブルの部屋への変更を依頼した。

車を走らせた車内は、さながら女子会の様相を見せている。

にしても、三人は波長が合うのか良く喋る。

車の中には女性たちの会話が広がり――

異空間にいるようで慣れない。

けれど、それはそれで良かった。

その光景を見ているだけで、安心感が遥かに上回る。


香の家まで二人を送り届けると、

「ありがとうございました」

シンクロしてお礼を言って車を降りた。

その姿を見て舞は驚いて感心していた。

舞は助手席の窓を開けると、

「また明日ね」

二人に手を振っている。

啓助は車を降りて頭を下げた。

「ありがとう」

「いいんです。私も舞さんと会えたんで」

「うちは、何もしてへんけどね……」

美樹はとぼけて笑いを誘った。

啓助は心の中で美樹に囁いた。

美樹さん、君がいるから香さんは助けられているんだよ。

いや違うな二人がいたから舞は助けてもらえたんだよ。

ありがとう。

啓助は最敬礼をして、車に乗り込みアクセルを踏む。

舞は振り向いて手を振っている。

バックミラーに映る二人は車が角を曲がるまで手を振り返していた。


舞は二人に手を振りながら、川勝家の方に視線を向けた。

香の家と斜向かいなのは始めて訪問した日に気付いていた。

シートにもたれ窓の外をぼんやりと眺める。

――あの日。

郷土史家の川勝家を訪問して川勝親子と話をした。

川勝龍一郎は背が高くがっしりとした体格で無造作に揃えられた髪が印象的で時代劇に出ている役者に似ていた。

京一郎も背は高いけど、父よりは華奢で軽く明るい声のトーンが耳に残りやすかった。

そして、二人とも少し日に焼けているようだった。

リビングで舞が図書館で借りてきた『結界の島』の本を見ると。

龍一郎は少し驚いた様子で、

「図書館にもあるのですね」

渋めの低音でそう言った。

会話を重ねていく中で、須佐と畑にした同じ質問をしてみた。

「弘法大師が結界を張ったとしたら、何で夕凪島なんでしょうか?」

龍一郎は一瞬、戸惑いの顔を見せた。

隣に座っている、京一郎も興味をがあるようで父親の顔を窺っている。

「なぞなぞのような答えになりますが、夕凪島だからですよ」

龍一郎は真剣な顔をして答えた。

「それは、結界があると考えて良いのでしょうか?」

「ほう」

そう言いつつ苦笑した。

「失礼、誤解を与えてしまったようで……私が言いたかったのは、弘法大師がこの島に霊場を整備したのは、夕凪島だからということです」

「そうしたら、夕凪島自体に意味があるということでしょうか?」

舞にしては珍しく、むきになって食らいついた。

この人、何か知ってるのに何で話してくれないの?

という、わだかまりがそうさせた。

先に会った須佐や畑が、一緒に考えてくれていたこともあったのかもしれない。

「俺も知りたいな、島である理由」

京一郎が父親の顔をまじまじと見つめて言った。

龍一郎は秋眉にしわを寄せて、少しの間を置き口を開いた。

「私が考えるに立地があると思います」

「立地?」

「夕凪島はご存知のように瀬戸内海の東側に位置し……」

そう、瀬戸内海の交通の要衝故に畿内から四国や吉備。

九州や大陸に繋がる航路の目印になる場所。

故に弘法大師はこの地に霊場という形で島民の生活の基盤となる、水源に霊場行場を作り、溜め池を作り人々の安寧に寄与した。

というものだった。


「ふーん」

京一郎も、物足りなさそな感じだった。

「なるほど」

舞は納得していないが、そう答えた。そして独り言のように、

「ということは尚更、結界がある可能性はあるわけか…」

呟いて見せた。それに京一郎が反応した。

「それは、どういうこと?」

「飽くまでも私の妄想みたいなものですけど……それをカモフラージュに結界を張るくらいのこと、弘法大師ならしそうだし」

「あはは、それ良いね~」

京一郎は手を叩きながら笑っている。

感心しているのか。

呆れているのか。

分からないけど話を続けた。

「立地もそうですけど、地形も大きさも丁度良いですしね」

「その心は?」

また、京一郎が興味を示した。

「あ、これも実際に夕凪島を全部回った訳ではないので、妄想ですけど……」

「いいよ、聴いてみたい」

京一郎がニコニコして父親の方を見て言うと、当の龍一郎は押し黙って聞いている。

「夕凪島は、天然の良港がいくつもあって、拓けた頂を持つ山もいくつもあって、山から湧く湧水や川も、もちろんあります。おまけに盆地まである島って中々ないような気がして、大きさはそこに住む人の制限が自然と成されるわけです。一つの縮図のように感じました。この島に来てまだ3日しか経っていませんが、美しい朝陽や夕陽を見て、景色を見て、星空をみて、人々と触れあって、空気を吸ってそう感じました。何かを隠したり、守ったりするには適した地形と大きさかなって」

あまり、まとまってなかったが捲し立てるように喋った。

京一郎はまるで自分が喋ったかのように何故か得意気に父親を見ている。

龍一郎は数回頷いて真っ直ぐ舞を見ると、

「それを、この島に来て感じたということですか?」

舞はコクリと頷いた。

勘に触ったかな……

「あなたの研究対象は古事記の筈では?」

「はい」

「考察としては大変面白いと思います。勉強になりました、失礼、そろそろ出掛ける時間ですので」

龍一郎は腕時計を見ると立ち上がった。

舞が川勝家の玄関を出ると、京一郎が後に続いて出てきて、

「何か折角来てくれたのにごめんね」

両手を合わせ柔らかい笑顔を見せた。

そして家の方を振り返り、

「親父も悪気はないだけど、あまり喋りたがらないんだよね」

苦笑いを浮かべる。

「いえいえ、勉強になりましたよ」

「そう? なら良かった、じゃあ」

京一郎は一礼すると手を振って家の中に入っていった。――

「舞、大丈夫か?」

兄の声で我に返った。

「うん平気、大丈夫だよ」

不安そうに見つめる兄に笑って見せた。

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