気になって
香は西龍寺の参道の階段を下りながら、美樹にメッセージを送った。
『今から帰るんだけど、家に来れる?』
もちろん、ええよ――
「母さん、帰りに美樹の家によってくれる?」
「かまわんよ」
母は笑いながら答えた。
「母さんの車で美樹の家に迎えに行く」
『ほんま、ありがとう、待ってるよん』
目の前には瀬戸内海が広がっている。
フェリーが豆粒の大きさで白い航跡を残して向かってきている。
空には短い一筋の白い雲を引いた飛行機が東の空へと進んでいた。
事態が動き出したんだ。
香はそう思った。
わずかに、鼓動がドキドキしている。
ここからも見える三井津岬。
その先をぼんやりと眺める。
舞さん……
絶対助けるからね!
「香、どしたん?」
いつの間にか立ち止まっていた。
こっちを見上げる母に香は小走りに近づいて、
「やっぱり西龍寺さんからの景色は綺麗やねって」
母の腕を取る。
「そうやな、いつ見ても穏やかな気持ちになるなぁ」
微笑む母とゆっくりと階段を下った。
彼方の四国の山々にはモコモコの雲が山脈のように連なっていた。
美樹は母の車を見つけると家の前で手を振っていた。
ハーフスカートにTシャツ、ショルダーバックというラフな格好で手にビニール袋を持っている。
「おばちゃんあ、りがとさん」
そう言って、美樹が後部座席に乗り込んできた。
「香、見て見て」
美樹はビニール袋の口を広げ中身を香に見せた。
「このクッキーめっちゃおいしねんよ」
「今日のおやつ? 多くないん?」
「そうや、おばちゃんも食べてな」
「ハハハ、そんなら美味しい紅茶でも入れよっか」
「久しぶりやなぁ、母さんの紅茶」
「ほんまに、楽しみ」
家に着くと母は紅茶の準備。
香は美樹とテーブルの椅子に座ってお菓子の選別をした。
ゆったりとしたティータイム。
母のハーブティと美樹のクッキーの甘さが絶妙で、香はお菓子を少し食べ過ぎた。
美樹も同じようでお腹を擦っている。
後片付けを美樹と済ませた時。
母は買い物に出かけた。
香と美樹はそれぞれペットボトルのジュースを持って。
2階の香の部屋に向かった。
香はペットボトルをテーブルに置き、エアコンのスイッチを入れる。
美樹は部屋に入るなり、
「久々や、香の部屋」
ペットボトルをテーブルに置いて、キョロキョロと室内を見回している。
「もうやだぁ、先週来てるやん、私の方が美樹の家、しばらく行ってないなぁ」
「アハハ」
美樹は笑いながら、ジュースを一口含んで、ベッドの上に駆け乗り、ぴょこんと座る。
「いつでもええよ」
ニコニコしながら肩をすくめていた。
「早速やね」
香も、ベッドに上がり美樹に向かい合って座る。
小さい頃から二人で大事な話をする時はこうするか。
潮風公園の防波堤と決まっている。
香は昨夜の事から話し始めた。
連絡できなかったのは寝てたのではなく。
舞と会話をしていたことを告げた。
美樹は最初は相槌を打っていたが、途中から驚きもあったのか、黙って頷いて聞いてくれた。
そして会話の内容を書いたメモと、自分が見た風景のイラストを見せた。
「結界の中か……」
美樹は呟き、メモとイラストを見ている。
「さっき、西龍寺に行ってきたやん、そこでも舞さんと会話してん」
「ほんまに?」
美樹は目を大きくして頷いている。
「ご住職がね、舞さんに三井津岬に行くようにって伝えてって、それで助けられるかもしれないって」
「三井津岬かぁ」
美樹はそう言ってイラストを手に取り見入っている。
「それで、明日も西龍寺で舞さんと話をすることになったん」
「そうなんや……」
美樹は口を真一文字に結んで難しい顔をしている。
「どうしたん?」
「あんな、この岩って大きいんやろ」
イラストを置きその中の岩を指さした。
「うん、その絵の鳥居と同じくらいやった」
「もしかしたら、三井津岬の先にある大岩ちゃうかな?」
「そうなんよ……ご住職が仰るには、はるか昔に島があったみたいなん。そこに神社があったって」
「へぇ~そうなんや……そうそう、さっき公園で話してたやんか、舞さんのお兄さんと男の人がそこにお地蔵さん運んでたって」
「うん」
「気になるんよ……」
美樹は首を傾げ顎に人差し指を当てている。
香も確かに気になっている。
何故、ご住職が三井津岬を指定したのか?
夢で見た景色だからなのだろうけど。
それ以外の何かがあるのではないか?
とも思ったりもする。
「行ってみようかな」
香がボソッと呟くと、
「そうしよか」
美樹はベッドから降りると、ごくごくとジュースを飲み干した。
香もベッドから降りジュースを飲む。
そして、ペットボトルを持って部屋を出ようとした。
「あっ……」
エアコンを切り忘れたので、いったん部屋に戻りスイッチを切る。
そして、ベッドに置き忘れた、イラストを手に取り美樹の後を追った。
お読み頂きありがとうございます。
感想など、お気軽にコメントしてください。
また、どこかいいなと感じて頂けたらスキをポチッと押して頂けると、
とてもうれしく、喜び、励みになり幸いです。




