思いもよらない
啓助はホテルに戻るとシャワーを浴びて汗を流した。
昨日の内にホテルには二日間の延泊の手配と、健太郎にも休みの延長を申し出て許可をもらっている。
ホテルのレストランで昼食を済ませて、部屋に戻り窓の外を眺めている。
フェリーが凪の海に波を作り旋回して瀬田港に接岸しようとしていた。
ここからも三井津岬の大岩が見える。
そして麻霧山に目を移すと西龍寺の護摩堂が緑の中に顔を出している。
「道か……」
眼鏡が話していた考察を思い出した。
ソファに腰掛けて、ポケットから紙片の地図を取り出しテーブルの上の置く。
それからノートパソコンに夕凪島の地図を映し出した。
道は、西龍寺、二つの地蔵、オホンデヒメの社、三井津岬の地蔵、大岩の地蔵。
そしてその先に……何かがあったのではないかというもの。
そうすると、宝樹院のシンパク、富丘八幡神社、瀬田神社はどうなる?
地図を拡大したり、縮小したりして調べてみる。
富丘八幡神社とオホノデヒメの社、瀬田神社の直線と道は交差する。
十字架?
この二つを結ぶと十字架の形になる。
そういえばキリシタン大名の小西行長が、夕凪島を豊臣秀吉から領地として拝領していたはず。
でもキリスト教は異国の宗教。
関係あるのだろうか?
いやいや、だけど日本人はクリスマス、除夜の鐘、初詣と宗教の垣根にとらわれることなく受け入れている。
結界を張ったのも日本人であろうから全否定はできないか?
あぁ、でもキリスト教が日本に伝わったのは確か戦国時代か。
しかし、これが結界だとしたら……何をどうやって解くんだ?
「ふぅー」
天を仰いで煙草に火を付ける。
紫煙は天井へと上がり空気に馴染んで消えた。
十字架でなければなんだろう?
パソコンの地図を見つめ、色々線で繋げてみる。
菱形にもなるのか……
ん?
眼鏡の仮定した道を西龍寺の先に延ばす。
麻霧山の山頂も少しのズレはあるものの、その線上に入る。
そういえば、眼鏡が宝樹院、西龍寺、明王寺も線で繋がり結界を作ろうとしたのではないかと話していた。
試しに線で繋いでみると、それは富丘八幡神社、オホノデヒメの社、瀬田神社を結ぶ線と平行になった。
「へぇー」
ん?
麻霧山の山頂、富丘八幡神社、瀬田神社と三角形ができ、三井津岬の先の大岩、宝樹院、明王寺でも三角形となる。
重ねると……六芒星になる。
だから何なんだ?
多少形は歪ではあるが、まあ新しい発見には違いない。
試しに六芒星を調べてみた。
六芒星(ろくぼうせい、りくぼうせい)は、星型多角形の一種であり、二つの正三角形(△と▽)を重ねて作った星型の図形。
別名として、六角星、六線星、星型六角形、ヘキサグラムとも呼ばれている。
六芒星は古代から神聖な場所に描かれており、スピリチュアルな世界では霊的な力を引き出すとされている。
六芒星は相反するエネルギーの象徴(二つの正三角形、△と▽)を表していて、例えば、潜在意識と顕在意識、陰と陽、プラスとマイナス、物質と精神、男と女などの調和を意味する形でもあるという。
他にもイスラエルの国旗に描かれた『ダビデの星』や、日本でも『籠目」、『丸に籠目』と呼ばれ家紋として採用されていた。
「ふーん。なるほどね」
でもさ、今の人達は地図があるから分かるけど。
昔の人が、もしこのような事を意図して作ったのだとしたら、どのようにして作り上げたのだろうか?
しばらく考え込んで不意に我に帰った。
「勾玉……」
勾玉をポケットから取り出して見つめる。
麦わら帽子の少女が。
ある子?
あの子?
に渡して。
そう言っていた。
煙草を消して勾玉を握りしめ、また祈ってみる。
「舞……」
しかし何も起こらない。
あの一瞬だけ舞の声が確かに聞こえた。
「誰に渡すのか……」
勾玉をテーブルの上に置いと、目を閉じて考えた――
ハッとして目を開けると、西日が部屋に注いでいた。
どうやら、うたた寝をしていたらしい。
時計は16時になろうとしていた。
2時間くらい眠ってしまったようだ。
体を起こし首を左右に捻って伸びをする。
テーブルの上の紙片の地図を取って、もう一度眺めて見る。
「ん?」
地図を上下逆さに見ていたようで。
右からシンパク、富丘八幡神社、オホノデヒメの社……瀬田神社。
あれ?
この並び何かで見たような気がする……どこだっけ?
「ああ!」
ノートパソコンを操作し夕凪島の地図を南北を逆にして、モニターに映し出した。
そして西龍寺の母屋の中庭の景色を思い起こす。
右から順番に、木が植えてあり、その手前に小川、それを挟んだ丘の上に灯篭。
もう一つ丘があって、また小川があり、その向こうに灯篭があった。
この小川は中庭の奥の池に注いでいて、池の中にも灯篭があった。
そういうことか。
中庭の奥にあった池は海を表していて、その中に神社を意味する灯篭が置いてあった。
やはり、あの大岩の先に何かがあるんだ。
というよりはかつてはあったということなのだろう。
神社か?
右手の木はシンパク。
丘の灯篭は富丘八幡神社。
左手の灯篭は瀬田神社。
手前にもあった丘の灯篭は西龍寺。
もしくは境内の下の崖の洞窟にあった灯篭が関係しているのかもしれない。
西龍寺の母屋の中庭は結界を示す地図になっていたんだ。
「はぁ……」
思わず零れる吐息。
よくもまあ、そんな所に仕掛けを施したものだと感心しつつ。
結界は解いて欲しくないと話していた住職が、さりげなくヒントをくれていたことに深い感慨を覚えた。
ゆっくりと立ち上がり、窓の外に見える西龍寺の護摩堂に向け、目一杯の最敬礼をした。
結界はある。
じゃあ実際、どのように解く?
残された鍵はあと一つある。
そう勾玉だ。
テーブルの上の朱い勾玉を手に取った。
これを渡す相手……
誰だ?
勘が走る、脳裏に真っ先に浮かんだ顔があった、
「行って見よう…」
急いで身支度をすると部屋を飛び出した。
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