見つけたもの
真一郎は家に帰ると、父に電話をしてみたが案の定繋がらない。
昼ご飯を食べるため家を出たが、途中で目的を変更して最寄りのバス停に向かった。
5分程して来た『土庄港行』のバスに乗り込む。
道中、スマホでゲームをプレイした。
20分位、バスに揺られ図書館近くの停留所で降りた。
図書館の歴史書関係のブースでいくつかの本を手に取り、その中で父から貰った冊子と同じものを見つけた。
冊子にはタイトルがあり『結界の島』と記されている。
パラパラとめくると最後に追記とあった。
父から貰った冊子にはなかった内容だ。
カゴに入れ他の本と一緒に借りることにした。
1時間ほど図書館にいたようで、もう15時近くになっている。
真一郎は近くのショッピングモールにあるファミレスに行くことにした。
店内は数組の客がいるだけで空いていて、窓際の席に座り唐揚げ定食をオーダーした。
ドリンクバーでコーラーを入れて席に戻りスマホをチェックする。
父からの連絡はない。
ゲームの続きをしていると、
「お待ちどうさまです……唐揚げ……あ、真一郎やん、珍しいね」
クラスメイトの理央がテーブルに食器を並べた。
唐揚げは揚げたてみたいで湯気を漂わせている。
「ここの制服、かわいいやろ?」
理央は、腰に手を当てスカートの裾を持ち、頼みもしないポーズを取っている。
フリフリのスカートは確かにかわいい。
「うん、かわいいと思う」
「へへ、ありがとう、ゆっくりしてって」
挙げた手の指を小刻みに揺らせてテーブルを去っていった。
ここの唐揚げは真一郎好みのサクサクの衣だった。
食事を済ませると借りてきた本に目を通した。
まずは『結界の島』を手に取る。
追記以外の部分は父に貰った冊子と内容は同じで、そこには重要なポイントとして、宝樹院のシンパクや西龍寺の傍の洞窟、瀬田神社を挙げていた。
「こんなところで、勉強してんの?」
食器を下げに来た理央は感心しているのか呆れているのか、どっちとも取れるような言い方をして、
「デザートはいらんの?」
こっちの返答も聞かず、頼んでもいないことを言い出した。
「じゃあ、何がお勧め?」
「んー、チーズケーキかな、手作りだから美味しいよ」
そう言ってウインクをしている。
手作りですか……
「じゃあ、一つお願い」
「オーケー、じゃあそれ下げるね」
理央は手際よく食器をさげていった。
次の本は『考察オホノデヒメ』というタイトルの同人誌だった。
ページを捲り読み始めようとしたところで、
「お待ちどうさま、手作りチーズケーキです」
理央はスマイルを振りまき持って来た。
「めっちゃ、美味しいから」
その時、通路を歩いてきた客が、
「お姉さん、会計頼むわ」
理央の背中越しに言うと、
「はい、ただいま」
理央はこっちに舌を出し、レジに向かっていった。
声をかけた男の後をついて行った連れの男がノートパソコンと一緒に同じような冊子を片手で抱え持っていた。
手作りチーズケーキは確かに美味しかった。
しっとりとしていて、チーズの香が鼻から抜けて、
「うまいな」
独り言を口にした。
そして呼んでもいないのに何故かテーブルに来た理央は、
「ね? おいしいでしょ?」
独り言を聞かれていたようである。
「さっきのお客さんのお父さんなんて、パフェ三つも食べたんだよ、そんな食べたら太るのにね」
自分のお腹を擦りながら、聞いてもいない事を喋る。
「知り合いなの?」
「ううん、たまに会うんよね、もちろんここでよ、いっつもチョコパフェ頼むから、うちらバイトの間ではパフェ爺って呼ばれてるん」
本人が聞いたら喜ぶのかどうか聞いてみたい所だが、チーズケーキの上手さには、かなうまい。
ダジャレになっている。
心の中で一人で喜んでいると、
「あのさ……」
理央は伸ばした腕の先の両手を組んでゆらゆらさせている。
「どうしたの?」
「真一郎さ、明日学校終わってから暇?」
飲んでいたコーラーを吹き出しそうになって、飲み込んだら咽た。
「大丈夫?」
理央は傍に来て背中を擦ってくれた。
「大丈夫……ありがとう」
少し落ち着いてきたので片手を挙げて礼を言う。
「もう、びっくりしたやん」
こっちがビックリしたんだが……
「それで、明日なんだけど……」
今は気になることが山ほどあるんだけど……
「暇だったら何なの?」
「えーと、買い物に付き合って欲しいなあって、お願い」
目を瞑って手を合わせ拝まれた。
仕方ない。
美味しい手作りチーズケーキ教えた貰ったし。
買い物位ならいいかな。
スーパーかショッピングセンターならすぐ終わりそうだし。
「わかったいいけど」
「本当、ありがとう」
拝んだ手を頬に当てて笑っている。
「そしたら、明日13時に瀬田港で待ち合わせね」
笑顔のままダブルピースをした。
「絶対に忘れないでね」
さらに念を押された。
その時入り口のドアが開いた。
救いの神が現れたようだ。
「いらっしゃいませ……じゃ明日ね」
理央は手を振ってテーブルを離れた。
喉が渇いたのでドリンクバーでコーラーを入れて席に戻った。
テーブルに残っている食器を見て嫌な予感がした。
本の続きを読もうとしていると、
「真一郎下げるよ」
予感は的中した。
「もう、このまま夕食、食べていったら?」
時計を見ると17時になろうとしてた。
丁度その時スマホが鳴った。
父からである。
「ごめん」
そう言って席を立ち入口を出て電話に出た。
「もしもし、父さん?」
「ああ、すまんな、何回も電話してくれてみたいで、どうした?」
「実は、父さんが持っていた写真の女性のことで話があるんだ」
「ん?」
「実はね、僕見たんだよ。先週の木曜日に兄さんの車に乗っているの」
「何?……お前それを京には確認したのか?」
なぜ、兄のことを聞いたのだろうか?
「ううん、してない。他にも話があるから帰ってこれる?」
「うーん……真、そこは家か?」
「いや、土庄のファミレスにいる」
「モールの方か?」
「そう」
「近いな。今からそこに行くから……20分くらいで行けると思う」
「わかった」
「じゃあ」
「ありがとう、父さん」
電話を切ると――
ちりん。
鈴の音がした。
その方向に目をやると、女性のお遍路さんが杖を片手に歩いているのが見えた。
カア、カア。
空には家に帰るのか三羽のカラスが鳴きながら山の方へ飛んで行った。
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