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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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西龍寺にて

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


香は家に帰り昼食を済ませると、美樹にメッセージを入れた。

『美樹、さっきはありがと、用が終わったら連絡するね、話したい事あるんよ』

着替えをしてるとスマホが鳴動した。

『わかった、気いつけて』

制服をハンガーに掛け服を選ぶ、自然と白のフレアワンピースに手が伸びた。髪をとかし鏡を見て、

「まあ、いいんじゃない」

微笑み一つ。

一階に降りると母はもう支度を済ませ待っていた。

母は白と青のストライプのブラウスに、紺色のパンツスタイルで玄関の前で立っている。

「ほら、おいで」

母は手招きをする。

そして車に乗り、西龍寺へと向かう。

お寺に行くのは半年ぶり。

父が、住職と友人だったこともあってか、小さい頃は美樹も一緒によく連れて行ってくれていた。

時にはお互いの家族総出で訪れていたように思う。

洞窟や境内で遊んだ記憶がある。

本堂や護摩堂の匂いが好きで美樹と寝転がってお喋りをしたり。

住職の真似をしてお経を唱えたり。

空に浮かぶ雲が何に見えるかとか。

祖母に教えてもらった童謡を、美樹と一緒に歌いながら踊ったりもした。

いつだったか、境内にある大きな楠に耳を当てた時。

水が流れる音が聞こえて、とても耳心地がよくて木が喜んでいるような気がした。


西龍寺に着いて車を降りる。

蝉の鳴き声が四方から聞こえてきて、ソフトクリームみたいな雲が遠く四国の山々より高く聳えていた。

「今日は暑いね」

母は手をかざしながら歩いている。

長い参道の階段を上り山門をくぐり抜け、楓の木々の木陰に入ると涼しかった。

その葉に蝶が羽を休めていた。

母屋の玄関前の階段に、住職は腰を掛けていた。

こちらに気づくと立ち上がって目を細め優しい笑みを湛えている。

「いらっしゃい」

挨拶を済ませると、母屋の居間に通された。

「香さんお久しぶりね」

「ご無沙汰してます」

微笑みながら、住職は腰を下ろすと、何気ない会話を切り出してきた。

「昨日の神舞、見事だったようですね、瀬田神社の宮司がさっき写真を持ってきてくれましたよ」

住職が手に持っていた封筒の中から、取り出した写真をテーブルの上に並べた。

「お陰様で無事に奉納できました。娘ながら惚れ惚れしました」

写真は参道を歩くところから始まり、飴をみんなに配るところまでが撮られていた。

美樹は綺麗で、自分は自分じゃないような感じがして、少しだけ恥じずかしい。

「それから、早川さんにアヤカさんの代理として会いました。伺った話と、妹さんの情報を彼に伝えています」

「お世話掛けました」

母は頭を下げている。

「いえいえ、そうしたら香さん、舞さんと会話が出来たら彼女に確認してほしいことがあります」

香りは背筋を伸ばした。

「はい」

「迷い込んだ記憶はないと話されていたようですが、それ以前の記憶がどうなのかということ、それから舞さんがいる場所が確実に夕凪島であるならば……三井津岬に行くように伝えてほしいのです」

「三井津岬ですか?」

住職はゆっくり頷く。

「この島の事はいずれ知ることになるだろうから、簡単に話すと夕凪島には神の力が宿っていて、それを維持するために結界が張ってあります」

住職の口から放たれた言葉は、にわかには信じられないようなことだった。

けれど、否定する想いは抱かずに、不思議とそうなんだと感じ頷いていた。

「舞さんがもし三井津岬に行けたなら、何かが変わるかもしれません」

「分かりました」

「そうしたら、始めましょう」

立ち上がった住職は、襖を開けて奥の座敷に入っていく。

母と一緒に、後に続く。

床の間に掛け軸があって、墨で見たことのない文字が書かれていた。

左右にやはり墨で描かれた山と海と思える絵が飾ってあって、お堂と同じ線香の匂いがする。

住所ジュに指示に従い、部屋の中央に敷いてあった座布団の上に床の間を背に座る。

母はこっちを向いて横に座り、住職は香の背後に回り腰を下ろした。

「時間を設けます。お身体に負担があるかもしれなので」

「はい」

「10分間でお願いします」

「分かりました」

香は勾玉を服の中から出して握りしめた。

そして、スマホの画面に舞の写真を映し出す。

大きく息を吸って――

舞を想い祈る。


頭の中のスクリーンに映像がぼんやりと映し出されていく。

今日は舞の姿がはっきり見える。

昨日の民家と思しき軒先に立って行った。

「舞さん?」

「あ、香さん! 大丈夫だった?」

「え?」

「このあいだ、突然声が聞こえなくなったから、何かあったのかと思った。でも、良かった」

舞は少し見上げるように話している。

「心配かけてごめんね」

「ううん」

「あのね舞さん、聞きたい事があるんです」

香は早速、ご住職から言われたことを聞いてみることにした、

「なぁに?」

「舞さんが、結界に迷い込む前の記憶って覚えてます?」

「んー、それがね良く分からないんだ」

「それは、どういうこと?」

「夕凪島に来て……帰ろうとして……その後がよく分からない。覚えていないんだよね。ごめんね……あっ!でもね、さっきだと思うけど、兄の声を聴いたの」

「お兄さんの声?」

「ほんとにちょっとの事だったけど……どうしてだろう? 兄も巫女なのかな? フフフ」

舞は肩を抱きながら笑っている。

そういえば、確か前にもお兄さんの声を聴いたと話していたはず。

香は、もう一つの内容を伝える。

「舞さんにお願いがあるの」

「お願い?」

「うん、舞さんがいるところが夕凪島だとして、もし行けるなら三井津岬に行って欲しいの」

それから香は三井津岬の場所を教えた。

「分かった、場所が移動していた時、見覚えのある景色があったから夕凪島なのは間違いないと思うからやってみる」

「まだ、場所は変わったりするの?」

「それがね、前に香さんと話をしてから移動するようなことがなくなったの、それにちゃんと夜が来て朝も来るの不思議だね」

「そうなんだ」

「三井津岬は南の方でしょ、今、太陽が山の向こうにあるから、頑張って行ってみる」

「そうしたら、またね舞さん」

「またね、香さん」

映像が途切れる。


深呼吸して目を開ける。

「香、大丈夫?」

母が顔を覗き込んできた。

「うん、平気」

住職は香の背後で呪文のような言葉を唱えると、

「ええい!」

香の背中を何かで軽く叩いた。

その瞬間、心が軽くなった気がした。

住職はそのまま立ち上がり、居間につながる襖を開けた。

「お疲れさまでした、こちらへ」

テーブルを囲んで腰を下ろすと、

「いかがでしたか?」

優しい声の住職。

香は舞との会話の内容を伝える。

「そうですか……彼の声も聞いたと……」

住職は顎に手を当て天井を見据えている。

「ご住職、舞さんを三井津岬に行くようにしたの何故ですか?」

「あぁ、それはね舞さんを助けるためです。絶対とは言いませんが可能性はあります。香さん、あなたが見た鳥居と大岩は、はるか昔、その三井津岬の先にあった神社です。まあ正確には島があった訳ですが、伝承では天変地異によって沈んだとされています」

「そうなんですね…」

真顔で話す住職が嘘を言う筈はないと思いつつも、先程からビックリするような内容ばかりだった。

「舞さんと会話をしていた時に見えた場所ですから、何かを暗示しているのだと思います。ですから三井津岬に舞さんが行ったら何か起こるかもしれません。助けることが出来るかもしれません。そして、何よりあなたの力が必要なんです」

住職は穏やかな笑みを浮かべている。

そして明日の午後、西龍寺でもう一度、舞とコンタクトを取ることになった。


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