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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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聞こえた。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


あまり帽子を被ることは大人になってからなかったが、案外良いもので、陽射しを遮ってくれるし、何となく顔の辺りが涼しい気がする。

啓助は少女が残していった麦わら帽子を被って、三井津岬へ続く遊歩道を歩いている。

麦わら帽子は啓助が被って少しきついくらいだから、恐らく大人が被る物で、どうりであの子にはぶかぶかだった訳だ。

どこで手に入れたのか知らないけれど。

でも、いちいちズレた麦わら帽子を直す、あの子の仕草は愛らしかった。

朝とは違い陽射しが鋭く暑い。

お地蔵様に手を合わせて脇の道を下ると、斜面に群生している鮮やかな黄色い花が目に入る。

今は知っている、ハマボウという名のそれは緑の中に彩をもたらしていた。

「ごめんね」

啓助は足元にあった黄色い花を一つ手折ると、その花を手に防波堤を進む。

沖のフェリーがゆっくりと近づいてきていて、その水面は相変わらず穏やかで光がキラキラと揺らめいている。

まだ岩が露出している部分が多く、潮溜まりには人手やカニが見える。

大岩の着くと、石像に麦わら帽子を被せた。

しゃがんで黄色い花を供えて手を合わせる。

穏やかな波の音だけが聞こえ、潮風が横切る。

ふいに肩を叩かれ振り向くと、長い髪を後ろで束ねた麦わら帽子を被った少女微笑んでいた。

「あんたに頼んで良かったわ」

「そうかい」

啓助はしゃがんだまま振り返った。

「友達……見つけてくれて、ありがとう」

満面の笑みで白い歯を見せている。

「どういたしまして」

ニコニコしながら少女はポケットから何かを取り出して手を突き出した。

「あんたにこれあげるわ」

小さな手のひらには朱色の勾玉が日に照らされ輝いていた。

「いいの? 大切なものなんじゃないの?」

「ええよ、あんたにあげるわ」

啓助が手を出すと、少女は手をひっくり返して勾玉を啓助の手の上に落とした。

ころん。

手にひらに載った勾玉をぎゅっと握りしめた。

「ありがとう」

「あっ、そうやった……それな、ある子に渡して欲しいんや」

「誰に?」

「誰やったかな……でも、あんたなら約束守ってくれるやろ」

少女は相変わらず笑っている。

また、当てもないお願いだが。

そもそも、友達を探せたのかどうなのか。

何がどうして少女の願いを叶えられたのか分からないまま。

だけど、目の前で喜んでいる少女を見ていると、きっと、いや恐らく友達を探すことが出来たのだろうと不思議と思える。

「分かった」

「ちゃんと、渡してな」

「約束」

啓助は指切りをしようと小指を突き出すと、少女は不思議そうに見つめている。

少女の手を取り小指を立たせると自分の小指と絡ませて、

「指切りげんまん。約束したからね」

少女は一連の動作を不思議そうに黙って見ている。

「良かった、ありがとうや、友達とやっと会えたねん」

少女は抱き着いてきた。

啓助の頭に少女の麦わら帽子のつばがぶつかり風に乗って宙に舞う。

「ありがとう」

その声と共に淡い光に包まれたかと思うと少女の姿は消えていた。

啓助は立ち上がると、少女が残していった麦わら帽子を拾い、石像に被せた帽子の上に重ねて置いた。

「ありがとう」

少女の声が風に乗って聞こえてきた。


啓助は舞の無事と発見を祈った。

「舞……」

すると石像が光り始めた。

その光は徐々に大きくなり、石像は光に飲み込まれ見えなくなった。

「お兄ちゃん……?」

光の中で舞の声が聞こえた。

啓助は勾玉を握りしめる。

「舞? どこにいる」

「たぶん……結界の中……それ」

舞の声がはっきり聞こえた。

光がさらに大きくなり辺り一面が真っ白になった。

そして意識が遠のいた……

ハッと目を開けると、目の前には麦わら帽子を被った石像がある。

啓助は手の中の朱い勾玉を見た。

今のはなんだ?

もう一度、勾玉を握り祈ってみる。

しかし――

何も起きない。

ただ、舞の声はしっかりと、確かに聞こえた。

「結界の中……」

舞は確かにそう言っていた。

話した感じ、切迫感はなく普段の舞と変わらない口調に思えた。

二つの麦わら帽子を手に取り立ち上がると、石像に一礼してゆっくりと歩き始めた。

舞の声が頭の中に反響する。

結界の中がどのようになっているのか知る由もないが、舞の存在を実感できた。

きっと、あの少女達のお陰なのだろう。

理由もなくそんな気がした。

それから、勾玉をある子に渡して……

少女が言う、ある子とは誰なんだろう?

渡せば舞が見つかるのか?

結界が解けるのか?

三井津岬の遊歩道まで戻ってきていた。

そこのお地蔵さんにも手を合わせる。

山から蝉の鳴き声が降って来る。

お地蔵さんに止まっていたテントウムシが飛び立った。

ジグザグに飛んで背後の林の中に消えていく。

レストランの駐車場に向かう途中、ふと海の方に目をやると。

青く輝く海の中に手を繋いだ二人の少女の姿が、こちらに手を振っているように見えた。

「またね……」

そう呟いて啓助は車に乗り込んだ。

あの少女達との会話での違和感は今なら分かるように思えた。

きっと同じ景色を見ていた訳ではないのだ。

何故なら彼女達は今の子ではないからだ。

そう思った。

おそらくあの子達は……

お地蔵さんの化身なのだから……

エンジンをかけ車を走らせる。

風に乗って潮の香りがしたような気がした。

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