啓助と眼鏡の探検 7月17日月曜日 4日目
7月17日月曜日 4日目
すでに朝陽は上ってきているようで、東の空は明るくなっている。
外に出ると夏とは思えない涼しさで風が吹くと肌寒い。
啓助は、まくっていたジャージの袖を直した。
電線に列をなして止まっている雀がチュン、チュンチュンとリズム良く鳴いている。
車に乗り込み眼鏡との待ち合わせ場所に向かう。
坂道を下って、海沿いの鳥居を横目に通り過ぎる。
早朝だというのに、意外と活動している人は多い。
犬の散歩やジョギングしている人々を追い越していく。
瀬田港を近くの交差点で制服姿の男の子が信号待ちをしていた。
学校の朝練にしても早いような時間帯なのに。
峠の四差路を左折してレストランの駐車場に車を止めた。
眼鏡の車はすでに停車していて、こちらに気が付いて車を降りてきた。
昨日と同様のジャージ姿。
「おはようございます」
啓助が車を降りると、眼鏡は、にこやかにほほ笑む。
「おはようございます」
「では、行きますか」
眼鏡は三井津岬の方を指さして歩き出した。
斜面の木々や花が朝陽を浴びて一段と鮮やかに見える。
途中、遊歩道のお地蔵さんに手を合わせた。
供えられた花に止まっていたテントウムシが羽を広げて飛んで行った。
眼鏡は東屋に着くと煙草を取り出して腰掛けた。
「昨日、色々考えたんですがね。やはりここは道のような気がしますね。私も教師の端くれとして、島の歴史は色々調べましたが、今が一番ワクワクしてるんですよ」
顔をしわくちゃにして、少年のようにわらい、煙を吐き出した。
啓助も煙草を燻らす。
歴史って人を惹き付ける何かあるんだろう。
啓助を相手に楽しそうに調べたこと、考えたことを話す舞の事が頭に浮かんだ。
岬の先に広がる岩礁地帯は昨日とは違うゴツゴツとした岩場が姿を顕わにしている。
「ほんなら、行きますか」
眼鏡は軍手をはめると立ち上がり歩き出した。
生い茂った木々に覆われた道。
辛うじて地面の土が剝き出している細い筋、
それと前を行く眼鏡を頼りに、左右から塞いでくる枝葉を手で掻き分けて進む。
「足元滑りますから気を付けて」
「わかりました」
緩やかな下りをガサ、ガサと音を立てながら、何とか探検隊よろしく進む。
道はゆるやかに弧を描いているようで右手に下って行く。
波の音が近くなり視界が開けると眼鏡は立ち止まった。
「ここから岩場を下ります」
左のほうを指さすと眼鏡は壁面に向き直り、足場を確認しながら壁面に沿って斜めに降りていく。
その慣れた動作を啓助は見様見真似でついていった。
いや普通に探検だし、一人だったら流石に来ないな。
下までは数メートルはあるだろうか?
一歩一歩慎重に下りて、少し遅れて岩礁にたどり着くと、眼鏡はメガネを外して汗を拭いていた。
「大丈夫ですか?」
「もちろん、畑さんすごいですね」
「いや、小さい頃から野山を駆けずり回っていたもんで、足腰は丈夫なんです」
ニコッと笑いタオルを首に掛けると、
「こっちです」
眼鏡は剥き出しの磯を歩きはじめた。
この辺りは瀬田町の反対側にいるようで日陰になっている。
涼しい風が汗を掻いた顔をひんやりと攫っていく。
足元に気を配りながら、岩壁に沿って20メートルほど進んで。
「ここです」
眼鏡が指さす先に、洞窟は、ぽっかりと口を開けていた。
それは高さは2メートルほどで幅も同じくらい。
「そしたら、入りますよ」
眼鏡はヘッドライトを身に着けると、啓助にハンドライトを差し出した。
先を行く眼鏡は、ゆっくり四方を照らしながら、ゆっくり進んで行く。
「ちなみに、ハンカチはこの岩に引っかかてました」
入り口付近の突き出した岩に眼鏡は手を伸ばした。
足元は苔で滑りやすく壁面に手をつきながら進む。
天井から落ちる滴が、頭や首筋に当たる度にゾクッとビクッとする。
洞窟の中は、ほぼ真っすぐなようで後ろを振り返ると入口が見える。
「ん?」
前方で眼鏡が声を上げた。
「どうしました?」
「行き止まりですな」
眼鏡は正面の壁を触りながら、周囲をライトで照らしいる。
ここまで入り口から、2、30メートル位か、啓助もライトで周りを照らしてみた。
「あっ」
光の先に石像が無造作に横たわっていた。
洞窟の横壁の段差の上で流木も引っかかっている。
眼鏡は傍に近づいてヘッドライトを当てた。
風化しているものの、三井津岬の遊歩道にあったものと同じ様に2体のお地蔵さんを彫ったもののようであった。
「なんでこんなところに」
啓助が素朴な疑問を口にすると、
「ちょっと待ってください」
眼鏡はスマホを取り出して何かを調べているようだ。
啓助は石像にライトを当ててみる。
当然だが濡れており苔むしている。
「この場所は等間隔ではないですね」
スマホの画面を突き出してこちらに見せた。
それを見て啓助に閃きが沸いた。
「畑さん、この石像運べますかね?」
「これ、ですか?」
眼鏡は石像に手を掛けると、両手で持ち上げようとした。
「重量はありますが二人で持てばいけると思います」
啓助も石像の傍に寄り、掛け声と共に眼鏡と持ち上げた。
「どこに持っていくんです?」
「この先の大きな岩の所です」
足場が悪いので進むのに時間が掛かる。
数メートル進んでは石像を置き休んだ。
「その大岩になにかあるんですか?」
眼鏡が汗を拭っている。
「いや、勘です」
「勘? ですか?」
「すいません」
「いや、そういうの大事だったりしますね」
眼鏡はメガネを、かけ直しながら優しく言った。
「私も閃きました」
そう言うとスマホを取り出して指を忙しなく動かす。
「当たりです! その大岩って防波堤の先でしょ? 見てください」
突き出したスマホの画面には大岩の位置は石像が等間隔に並ぶ距離とピッタリと合っていた。
「そうしたら、頑張りましょう」
眼鏡は腕をグルグルと回し啓助を見た。
その笑顔に啓助も引っ張られ、二人は同じ作業を何回も繰り返しやっとのことで石像を大岩まで運んだ。
石像は大岩の台座の、何かを置いてあった形跡があるスペースにキチンと収まった。
まだ濡れている石像は陽射しを浴びて輝いている。
「流されたんですかね?」
「それなりに重さもあるけど、そういうことなんでしょうな」
眼鏡は頷いている。
そして思い出したかのように写真を撮っていた。
「出来ればここにお祀りしたいですね」
「そう、ですな……」
啓助の純粋な感想に眼鏡は大きく頷いた。
二人で石像に手を合わせて大岩を後にした。
舞の行方の手掛かりになるのか分からないながらも、不思議な達成感と湧きあがる汗を拭いながら防波堤を歩く。
「いや、発見ですな。また、謎が深まりましたが」
啓助は感じたことを眼鏡に聞いてみた、
「先程、言っていた道があったという話だと、あの大岩から西龍寺に続くということなのでしょうか?」
「だと思います。もしかすると……」
眼鏡は立ち止まり大岩の方を向いて顎を擦っている。
「どうしました?」
啓助の問いかけに、眼鏡は苦笑いをして歩き出すと、
「いや、西龍寺の洞窟、2つの地蔵、オホノデヒメの社、そして2つの地蔵。その先に何かあったのかもしれません……」
「海の中にですか?」
「今は、ないですが……まあ、勘ですけどね」
眼鏡は首を傾げ頭を掻いている。
「いや、大事ですよ。勘は」
啓助の声に照れ臭そうに笑う眼鏡のメガネが陽射しを受けてキラッと光っていた。
歴史が好きな人は空想や発想が豊かなのかもしれない。
大岩の先に何かあるか……
まさか、そこに舞がいる?
振り返り大岩を見ると、てっぺんに止まっていたいた海鳥が羽を広げて見せていた。
駐車場に戻る頃には、蝉の声がひしめき、朝の涼しさが嘘のように暑さを取り戻していた。
「そしたら私は一回、家に帰って考えをまとめてみます。それと、さっきの大岩にお地蔵さんをお祀り出来るように、知り合いに頼んでみます」
「それは、ぜひお願いしたいです」
「じゃあ、またね」
固い握手を交わすと眼鏡は会釈をして車に乗り込んだ。
啓助も自分の車に乗り煙草をくわえた。時計を見ると8時を少し回っていた。
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