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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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ひととき

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


宮司の妻、美智子の案内で社務所の奥の座敷に香と美樹は通された。

宮司は座って待っていて、二人の姿を見ると笑みを浮かべて挨拶をした。

二人は正座をして挨拶を返すと、宮司に言われるまま両手を合わせた。

宮司は立ち上がると祝詞を唱え始めた。

香は平板の高い声で放たれる言葉が耳に心地よかった。

ササッ、ササッと大幣おおぬさを2、3度振り、二人の前に宮司は座る。

「では、お召し替えを」

左手で隣の部屋を指し示した。

二人は宮司に一礼して立ち上がり隣室の襖を開ける。

そこには美智子と三人の女性が正座で二人を出迎えた。

その背後の衣紋掛けに巫女装束が神々しく控えていた。

「お願いいたします」

女性たちが、かしずくと二人も正座をし頭を下げた。

「では、失礼いたします」

その声の後に女性たちは立ち上がり衣紋掛けの傍に二人を促した。

香は白い装束の方に。

美樹は黒と赤の装束の方に。

それぞれ呼ばれると、女性の指示に従い肌着以外の服を脱いだ。

そして一人に二人ずつ女性が付いて装束を着せ始めた。


美樹の衣装は、赤地に金糸の刺繍が施された袴に黒地に金糸の黒い衣と千早、裳を付けて、髪を一つにまとめている。

香の衣装は、上下とも白地に金糸の刺繍が施された袴と白衣、腰から後ろへ裳と呼ばれる白い布を付けて、そして最後に薄紫の千早を着せられた。

巫女装束に身を包み髪も整える。

香は美樹より髪が短いので付け髪を付けた。

その途端に頭が少し重くなった。

されるがままに着替えと化粧が終わると、

「きれいやわ二人とも」

女性たちは眩しそうに、こっちに視線を送っている。

香が横を見ると、お人形さんのような美しさの美樹が笑っていた。

「きれいや」

香と美樹の声がシンクロすると、その場に笑いが起こる。

美樹は鏡の前でクルクル回っている。

香は装束に身を包んでから、緊張はしていないけど、気持ちが締まったように感じて、力を抜く為に肩を上下に動かしていた。

「よろしいかな」

隣室から宮司の声がして、

「どうぞ」

美智子が答えると、襖が開き香の母と美樹の両親が立っていた。

親たちは感嘆の声を上げ笑っている。

「そうしましたら、記念写真撮りましょうか。それが終わったら、最終確認しましょう」

宮司が皆を社務所の中庭に案内した。


中庭と床の間での写真撮影が終わると再び奥座敷に案内された。

「そういえば香、なんで髪留めつけよう思ったん?」

「ん? 二人でお揃いになって、記念にもなるやん、それに、後であの人と話もできるかなって……」

「なるほど、賢いやん!」

宮司が細長い桐の箱をうやうやしく手に持って部屋に入ってきた。

二人の前に座ると、二つある箱を、一つずつ香と美樹の前に置いた。

「どうぞ、開けて下さい」

箱の中には扇が入っていた。

それを手に取ると思ったより重い。

広げてみると真っ白な扇の面に、金箔で細い曲線がくねくねと波打っている。

「香のは白やんね」

美樹はそう言って、朱色の扇を見せた。

その扇は朱い面に金箔で尖った直線が描かれている。

宮司は、香の方は海を、美樹の方は山を表現している。

そう言い伝えがあると説明してくれた。

「そうしましたら一度、通しで舞いましょう」

「はい」

香と美樹が同時に答えるのを見て、宮司は優しく微笑んでいた。


                  ◇


家には相変わらず誰もいなかった。

真一郎の頭の中には先程の香の家での出来事がこびり付いている。

そもそも、あの女性が行方不明ってどういうことなんだ?

確かにインスタグラムには、10日の月曜日に帰ると記事が出た切り。

その後の更新はない。

彼女を目撃したのは13日の木曜日。

彼女の兄は10日以降、連絡が取れないから島に探しに来ている。

彼女は逆に連絡を取らなったのか?

んー、分からない。

それよりも――

兄や父は関係があるのか?

まさか彼女を監禁しているとかはないよな……。

そうだったら、彼女の写真のことを父に尋ねた時の反応、

あんな堂々としていられるか?


それと――

香のこと。

香は夢だの、助けたいだの、何を言っていたのか、全くさっぱり理解できなかった。

あの親子の話の最中、自分だけ蚊帳の外にいるような感じだった。

階段を上がり自室を通り過ぎると兄の部屋へと向かった。

コン、コン。

念の為ノックする。

返事はない。

ドアノブに手をかけて扉をゆっくりと開けた。

相変わらず散らかったままの部屋の中。

足の踏み場を慎重に探しつつ進み、パソコンデスクの一番下の引き出しにある筈のスマホを探す。

「あれ?」

引き出しをすべて確認したが、影も形もない。

まさか?

足場に注意を払いつつ押入れに向かい。

その中を確認する――

キャリーケースもなかった。

「なんで? どうして?」


兄は一回帰ってきたのか?

何か知らない所で事件が起きているのか?

しばらく立ち尽くしていた。

何も思いつく訳もなくて、自室に戻ってデスクチェアに腰掛ける。

「うーん」

ぐるぐる回りながら状況を自分なりに整理してみた。

あの兄は妹を探している。

真一郎は妹のインスタにコメントしていた。

10日に帰ったと思っていたが、13日の木曜日に兄の車に乗っているのを見た。

父は妹の写真を持っていた。

兄の部屋に妹の物と思われるキャリーケースがあった。

スマホもそうかもしれない。

香は妹が助けを必要としていると夢で見たらしい。

香の母親も妹の事を知っているようだった。

「どういうこと?」

整理しているつもりが、混乱しそうだった。

しかも、香は夢で見たと言っていた。

夢で見たとは?

もしかして超能力かそういう類なのか?

だから父は気にかけろと言っていたのか?

でも、それと何がどう繋がるんだ?


そうだ!

あの兄は父に会いに来た。

確か歴史が云々言っていたような気がする。

理由は分からないが兄は彼を避けていた、妹も歴史を研究していた。

歴史か……

真一郎はデスクに手を付いて椅子の回転を止めると、その引き出しから一冊の冊子を取り出した。

何かしら関係があるのか、ここに記されているのは弘法大師が夕凪島に結界を張ったというものだ。

作者が言うには秘法や古代の叡智やエネルギー。

それらが、結界により守られているというものだった。

父や兄はこれを調べているのだろうか?

結界の秘密を暴くため?

ゲームの世界だったら、結界に迷い込むとか神隠しみたいのはあるけれど。

「まさかね……」

部屋の時計を見ると16時を回っている。

「いけね、神舞見に行かなくちゃ」

真一郎はビデオカメラと冊子を鞄に入れると慌てて部屋を出た。


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