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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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髪留め

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


啓助は瀬田神社に向かう道すがら、しん君に話を聞くために川勝家に立ち寄ってみたが残念ながら不在であった。

それから瀬田神社に着いたものの駐車場はすでに埋まっていた。

辺りに車を止める場所は無く、結局、瀬田港に併設している駐車場まで戻るはめになった。

神社まで1キロ位の道のりを歩いて向かっている。

県道沿いには、小さな工場や畑、住宅街が点在している。

車を運転している時も感じたことだが、高層建築がないから視線の先には空が広がり解放感がある。

小さな川に掛かる橋を渡る時、その中に真っ白な鷺がいて魚を狙っているようだった。

数十メートル先が河口になっていて奥には瀬戸内海が広がっている。

歩みを進めていると、向こうから自転車の集団が迫ってきた。

野球部なのか坊主頭の少年たち。

通り過ぎる際に、

「こんにちは!」

と元気に挨拶をしてきた。

「こんにちは」

驚きながらも返事を返していた。

どこかで会ったことあったかな?

いや会っていないよな、見ず知らずに相手にも挨拶するんだね。

なんだか心の中がほっこりした、ひとときだった。


傾き始めた雲一つない空。

西日が正面に影を伸ばしている。

民家の軒下に出来た日陰で猫が昼寝をしていた。

やがて右手に徐々に海が近づいてきた。

車で走っている時には気が付かなかったけど、海岸線の際にさほど大きくない鳥居があった。

海に臨んで立つ鳥居の近くには神社らしき物はなかったので、恐らくは瀬田神社に関係しているのだろうか。

案内標識に従って県道を渡って左に曲がる道へ入る。

結構な人で賑わいはじめた一本道。

途中の自動販売機の脇に灰皿があった。

休憩がてら煙草を吸い、スマホをチェックする。

ん?

インスタグラムに☆Ayaka☆からメッセージが入っていた。

『早川さんへ、はじめまして☆Ayaka☆です。

メッセージを見てびっくりしました。

確かに7月13日に妹さんが車に乗っているのを見かけました。

maimaiさんの投稿を見ていたので、てっきり帰られたのかと思っていますしたが、まだ夕凪島にいらしたようだったのでコメントしました』

啓助はすぐに返信がを打つ。

『返信ありがとうございます。

もしよろしければ、その時の状況を詳しくお聞かせ願えればと考えています。

出来れば、お会いしてお話を伺いたいのですが、地元の方でしょうか?

もし会うのが難しいのであれば電話でも構わないので、ご検討頂けますか?』

しばらく返信を待っていたが来なかった。


挿絵(By みてみん)

瀬田神社は海岸線から県道を挟んだ住宅街の一角にある。

人々の流れに乗って進むと楼門が見えてきた。

参道は長くはないが露店が立ち並んでいる。

焼きそば、焼きトウモロコシ。

おいしそうな匂いが一帯に立ち込めている。

楼門をくぐった境内の真ん中、吹き抜けのお堂の周りには人だかりができている。

左手にある手水舎で身を清めた。

住宅街に鎮座する社殿の背後は丘というか小高い山がある。

社殿で舞の無事を願って手を合わす。

目を開けて振り返り境内を見渡してみる。

舞はこの神社を不思議な神社と言っていたが、啓助にはそれが分からかった。

社殿の作りも啓助が見る分には特段、他の神社と変わりのないように思える。確かに『結界の島』の追記にあるように、拝殿や本殿はなく、社殿を構えてるだけだ。

それが不思議なのだろうか?

露店の料理のいい匂いが風に乗って流れてくる。

誘惑に負け、揚げかまぼこの海老天を買った。

「うまい」

一口かぶりつくと思わず声に出た。

あまりのおいしさに、もう一つ買って社務所の脇の長椅子で味わった。


ふと、視線を投げた先。

楼門からこちらへ香と美樹が小走りで近寄ってきた。

こっちには気が付いていないようなので、啓助は立ち上がると、軽く片手を上げながら声をかけた。

「こんにちは」

その声に二人は立ち止まると、

「あ」

と表情まで同じ様に目を見張っている。

「こんにちは」

そしてシンクロして挨拶をしている。

これって逆に合わない時とかあるのだろうか?

啓助の頭に余計な疑問が浮かんだ。

「神舞を見に来たんです、お二人も神舞を見に来たんですか?」

二人は顔を見合わせると、

「うちらが神舞を舞うねん……」

美樹が近くに寄って来て小声で囁いた。

「え、そうなんですか?」

啓助は驚いて二人を見比べた。

「準備があるんで……」

立ち去ろうとする香を見ると、あの桜の花の髪留めを着けていた。

それを見た途端、啓助の頭に閃きが湧く。

「あっ、ちょっと待って」

その声に、二人は同時に振り向いた、

「舞をする時って、その髪留め着けて舞うの?」

「はい。特に決まりはないので」

香が髪留めを触りながら答えた。

「そしたら、君がこれを着けて貰えないかな?」

啓助はショルダーバッグの中から取り出した舞の髪留めを美樹に差し出した。美樹はなんで?

というような顔をして首を傾げながら香を見ている。

そうだよな戸惑うよな。

啓助は自分の閃きをどう説明しようか考えた。

ただ純粋にここまで気の合う二人に、晴れの舞台でお揃いで着けて貰ったらいいんじゃないか?

という思いと、舞も神舞を見たがっていたから、代わりにと言ったら可笑しいけど、それが理由だった。

「何か良く分からないけど、妹が喜ぶかなって、この神舞、見たかったらしいから。土産話にもなるし、もちろん良ければだけどね」

啓助は手に持った髪留めを見ながら、感じたままを二人に伝えた。

少しばかりの沈黙が流れる。


「わかりました、美樹つけてあげよ」

「うん、分かった」

香の声に美樹はゆっくり頷きながら、啓助の差し出した髪留めを両手で受け取った。

「そしたら、失礼します」

二人はお辞儀をして社務所の中に入って行った。

あの子達が神舞を踊るのか。

楽しみではあるが……

舞の行方は、まだ掴めていない。

舞が大岩にいると言った少女の言葉を思い出していた。

そして眼鏡が言うようにこの島の何か。

眼鏡は結界を指して話しているようだけど。

そんなものがあるのかと疑う気持ち半分。

様々な不思議な出来事や、実際に謎な場所や物が出てきている今は、本当に結界はあるのではないかと考えていたりもする。

歴史好きの舞の事を考えると、結界に興味を持ち、何かの要因でそこに迷い込んだ可能性は否定できない。

大岩に関する結界があるのだろうか?

分かる範囲で舞の足取りは追った。

あとは、明日の眼鏡との調査。

それと……

啓助はスマホを手に取った。

☆Ayaka☆からの返信はない。

今の所の情報はこれだけか。

でも、視点を変えてみれば、何の脈絡もなしに夕凪島を訪れた事を思えば収穫はあるのだと思う。

不思議な少女達。

眼鏡の考察。

☆Ayaka☆という目撃者の存在。

それと舞の声。

舞が生きている実感が持てたことが何よりも大きい希望だ。

「ふう…」

境内に装飾されている提灯に明かりが灯り。

さらに人も増えてきた。

浴衣姿の客が目立つのは地元の人が多いからだろう。

テレビ局のアナウンサーらしき女性がリポートしている。

祭と縁のない生活をしてきた啓助にとって不思議な高揚感があった。

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