龍応と四人の仲間
龍応は境内にある母屋の地下室にいた。
この部屋の存在を知る者は少ない。
中央の円卓に五つの椅子があり、四つはすでに埋まっていた。
龍応の右隣には青年の住職、着物を着た男性、中年の女性、席に座っている四人は沈黙を守っていた。
龍応の左隣はまだ空席であった。ドアをノックする音が響く。
「晩飯は鮭の塩焼き、サバの味噌煮」
龍応が言葉を発する。
「朝飯はサバの塩焼き、鮭いらぬ」
扉の向こうの声が答えた。
扉の傍の着物を着た男性がドアのロックを外す。
「お待たせし申し訳ありません」
中に入ってきた中年の男性は、皆に告げ着席した。
「では、早速頼みます」
龍応がその男に向けて声を掛けた。
「現在二つのグループが調査対象で男性二人組を鳩、一人で活動している男をカラスとしてマークしています。カラスは恐らく仲間がいると思われますが実態を確認するには至っていません。どちらとも結界を調べており、封印の地、二ヵ所には気が付いておりますが、そこを解き明かすまでには至っていません。鳩はもしかすると財宝伝説の調査が本命かもしれません。カラスはひょっとすると龍の口の存在に気が付いている可能性があります。もしかするともしかします」
小さくうなずいた龍応が口を開く。
「私から、一人の女性が不確定要素もあるが、何れかの結界に迷い込んだ可能性がある」
数人から嘆息が漏れる。
龍応は続ける。
「あくまでも可能性だ。自らの意志なのか、何らかの意図なのか、偶然なのかは分からない。根拠としては一昨日の晩、姫巫女様に尽力いただいたのですが、生死有無という回答であった。現在、その女性の兄が島に来て調査している。まあ結界に気づくことはないとは思うが、皆、心に留め置いて頂きたい」
「それからもう一点、姫巫女様の継承が行われました。即ちご息女の香さん。本日「神舞」に出られる。大江さん、毛利さん頼みます」
「承知いたしました」
着物の男が答え、
「承知いたしました」
続いて中年の女性が答える。
龍応は袖口から一枚の名刺を出し、若い住職に差し出した。
「それともう一つ、根拠はないのだが気になる人物です、連絡先の電話は通じない。風貌はあまり記憶にはないのだが、観光取材に来た人物で背は私くらいで高い方だと思う。それと、眼鏡をかけていた」
「取材ですか……」
若い住職は名刺を着物を着た男性に渡す。
「思い出しました。私も先日取材を受けました……先週の事だったと。その人物も背が高く眼鏡をしてましたね。名前は帰ったら調べて連絡します」
「なるほど……まあ単に考えすぎかもしれませんが」
「一応、調べてみます」
中年の男性がそう言い名刺をポケットにしまった。
「よろしくお願いします」
「私からいくつか質問があります、その鳩とカラスはどのようにして結界の存在に気が付いたのでしょうか? また素性は分からないのでしょうか? それと不思議なのですが封印の地は半年ほど前、忽然とその場所に顕現しました。結界の力が弱まったという事。それに関連しているのだということは分かるのですが、そこには何が秘されているのでしょうか?」
若い住職の問いに、龍応が最初に答えた。
「結界については自力で調べたか、あるいは裏切り者がいるか。それはないと信じている」
「SNSが発達した時代じゃし、面白おかしく調査してそれが確信に言うこともあるのではないか?」
着物の男性がそう言うと、中年の男性が口を開く。
「確かにそれは一理あると思います。そもそもは都市伝説めいたものを真剣に探す輩がいるのも事実。まさに目前にいる訳ですが、島全体に巡らされた結界を解けるものかどうか疑問も残ります」
中年の男性は全員に目配せをしながら話を続けた。
「それから、素性についても推察の域を出ません。鳩は親子の可能性があります。我々も人出に限りがあるので人物を特定するには困難を伴っています。島に居住しているのは間違いないと思います苗字は牛山田、名前までは判明しておりません」
「カラスは別荘地に住んでいるようです、鹿取良と名乗っていますが、本名かどうかは分かりません。変装をよくしていて、勘が鋭いというのか、マークされているのに気が付いているような感じがします」
「鳩は一年以上かけて調査をしております。その執念から察するに結界の中身、内容にそれなりの自信があると思われます。カラスは半年前程からの活動ですが、同様に確固たる確証めいたものがあるのではと推察します」
少しの沈黙を置いて、龍応が口を開いた。
「言わんとしていることは分かる。それを知ってどうなるということもある。結界の力が弱まった原因については理由は分かりません。封印の地の顕現が確証の一端でもある、ただ伝承ではこうある双神の巫女が世に現れし時……」
龍応は袖口から紙を出し、それを皆に回覧させた。
目を通した皆が驚愕の表情をするなか、
「我々の先祖代々の使命である守護の責務だけは果たそうではないか」
龍応は四人を見渡して言い手を合わせた。
「承知しました」
各々も手を合わせる。
そして龍応は鳩とカラスの監視を続行する旨を伝え解散した。
一人地下室に残り思案する。
双神の巫女か。
流行りの預言書のように西暦で書いていてくれたらな。
つまらないことを考えて苦笑した。
ただ封印の地の二つが相次いで顕現、即ち目に見えるようになったのは事実である。
それは今なのだろうか?
仮に今だとしても理由が見当もつかない。
まさに神のみぞ知るか……
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