表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/79

真一郎の挑戦

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


真一郎は松寿庵の前で躊躇いながら右往左往している。

スマホの時間は10時丁度を表示している。

「こんにちは…」

思い切って入り口の扉を開けた。店内では香がテーブルを拭いていた。

「まだ、お店開いてないけど…」

不思議そうにこちらを見て作業を続ける。

「いらっしゃい、真ちゃん」

その声と共に奥の厨房から香の母親が小走りで近寄ってきた。

厨房には美樹もいて、母親の後を追って出てきて、香と並んでこっちを見ている。

「今日から、うちでアルバイトをしてくれる新人さん」

香の母親はニコニコ。

「よろしくお願いします」

真一郎は頭を下げる。

「え?」

「なんで?」

頭の上に二人の声がした。

「今日は昼だけの営業だから短いけど、まずは香、ちょっと教えてあげて、更衣室は男の人の部屋は狭いけど。今日は皿洗いをお願しよか」

香は私なの? 

という感じで自身の顔を指さして首を傾げている。

「そしたら、真一郎こっち来て…」

手招きする香の後をついて行く。

厨房の奥にある更衣室へ案内された。

細長い窮屈な空間。

「着替えはロッカーの中にあるから、着替えたら厨房に来て」

「分かった」

いそいそと着替え厨房に戻ると、香は洗い場と物の置き場を説明してくれた。

そうこうしているうちに開店時間になる。

「お母さん、お店開けるよ」

「お願い」

香が扉を開け暖簾をかけている。

「いらっしゃいませ」

と声がして、さっそく客が数組入って来た。

香りは店内に戻ると注文を聞いて回っている。

「こら、真一郎、なに香のことぼーっと見とんねん」

美樹が菜箸を片手に握り、口を尖らせている。

「いや、なんかすごいなって……」

「ふーん。あんたは害はないと思うけど……」

目を細めて睨んでいる。

何か恨みでもあるんですか?

ゲームのデイリー手伝ってますやん。

「なんにもないよ」

「天ぷら定食二つとお子様定食二つ」

香の声が聞こえた。

美樹と香の母親は調理を始める。

「真一郎、お子様用の器、こっちに」

美樹に言われて器を持っていく。

茹であがった素麺を水で締めきれいに器によそっている。

続けて二つの大皿に素麺を盛り付けていた。

香の母親が天ぷら、小鉢の料理、汁物を。

美樹が素麺をそれぞれトレーにセットした。

「そうしたら真ちゃん、これ3番テーブルにお願い」

「了解です」

真一郎はトレーを受け取り客席に運ぶ。

次のオーダーが入り、美樹は厨房で素麺を茹で始めている。

香も一緒に配膳してくれた。

テーブル席には家族連れで男の子が二人いる。

「おまちどおさまです」

料理を並べると兄らしき子供が、

「おいしいそうやなぁ、おねえちゃん」

香に声をかけると、

「ありがとう、ゆっくり食べてね」

しゃがんで子供に笑いかけている。

その子が頷き割り箸を割った瞬間、トレーの上の器が傾き汁物がこぼれた。

「あ……」

子供の表情から笑顔が消えた。

「大丈夫?ちょっと待っててね」

香はカウンターから台布巾を片手に戻ってきた。

「ごめんなさい」

子供は、シュンとした顔している。

「大丈夫、気にしないで。あっこぼれたお汁は拭かないとね……」

「真一郎、新しい汁物、貰ってきて」

香は顔を寄せてくると耳元で囁いた。

真一郎は言われた通り、厨房から持ってきた新しい汁物が入った器を香に渡す。

「お待たせしました」

香が子供の前に器を置くと、子供はニコッリと香にお礼を言い食べ始めた。

両親もお礼を述べている。

香は笑顔を作りながら子供から目をそらさず見つめている。

「出来たよー」

厨房から美樹の声が聞こえる。

「真一郎、これ1番テーブル」

「了解」

「おまちどおさまです」

男性二人組の客だった。

料理の乗ったトレーを客の前に並べていく。

「美味しそうやなぁ」

年配の男性客は、向かいの若い男性に話し掛けているが、若い男性は黙ったまま、テーブルの上のノートパソコンをずらした。

そのスペースにトレーを置くと、ノートパソコンの上に置いてある冊子が目に入った。

あれ?

父から貰った物に似てる。

「真一郎、これ5番テーブルにお願い」

美樹の声で我に返る。

「ごゆっくりどうぞ……了解」

はいはい、ちょっと待ってくださいね。

トレーに料理を載せて客席へ運ぶ。何となく配膳のリズムが分かってきた。

5番テーブルは女性二人組の観光客のようだ。

「おまちどおさまです」

声をかけトレーを置くと、

「お腹空いたー、美味しそう」

それを目の前にした短い髪の女性が言うと、向かいの席の女性も頷いていて、スマホで写真を撮りだした。

SNSにアップするのだろうか。

「真ちゃん、こっちお願い」

香の母の声がして、厨房に戻り皿洗いをする。

みんな完食だ。自然と顔が綻んでいた。

「なに、ニヤニヤしとん……」

正面で作業している美樹がジーとした目で見つめている。

「いや、お客さんが残さず食べてくれてるのが、なんか嬉しかった」

美樹はただでさえ大きな目を一層見開いて、何故か驚いているようだ。

「ただのゲームオタクかと思ってたけど……」

「美樹だってゲームオタクやんか」

真一郎はむきになって切り返す。

ただ、方言が伝染している。

「山菜定食と天ぷら定食お願い」

香の声が厨房に響いた。

「はーい」

日曜日だけあって、昼からの店内は満席だった。


お読み頂きありがとうございます。

感想など、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたらスキをポチッと押して頂けると、

とてもうれしく、喜び、励みになり幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ