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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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探してみたら

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


啓助は瀬田町に入る峠の四差路を右折する。

そこにあるレストランの駐車場に車を停めた。

写真を撮影した場所と、オホノデヒメの社を調べるために。

車を降りて、まずは社を探してみる。

島のバックグランドのように響き渡る蝉の声の中。

案外、容易くそれは見つかった。

駐車場の一番奥。

山側の斜面に小さな石造りの社らしきものが見えていた。

「ここか……」

社というより祠と言ったっ方のが良いのか分からないが、こじんまりとしている。

自分の背丈と同じくらいで、コンクリートで固められた石垣の上にちょこんと祀られている。

隣に『島玉神』と彫られた細い石碑が同じくらいの高さで主張していて、祠には日本酒と鮮やかな黄色い花が供えられている。

その背後は木々が鬱蒼と茂りよく見えない。

「何もないな……」

手を合わせ舞の無事を祈る。


振り返ると瀬田港や瀬戸内海が見えた。

ここは山の中腹辺りで見晴らしが良く、港を見下ろす感じになる。

駐車場の縁まで行くとさらに視界が開け景色が良く見えた。

視線の先に広がる風景と☆Ayaka☆のインスタの写真と見比べる。

「この辺かな?」

試しにスマホで一枚撮ってみる。

僅かに背景の山々が違うように思える。

もう少し港に近い所かもしれない。

他にも何かないかと見回してみる。

駐車場の脇から遊歩道が一本、山肌に沿うように奥へと伸びている。

スマホで確認してみると、三井津岬というこの先の岬まで続いているようだ。

写真のこともあるし、啓助は歩いてみることにした。

道幅は大人二人が並んで歩ける程度、舗装されていて歩きやすい。

右手の迫り出した山側に比べると、海側の斜面はなだらかで、黄色い花が点在して咲き誇っている。

先程の社に供えてあった花と同じ様に見える。

蝶やトンボがゆらゆらとその間をまっていた。


ここからは瀬田町の町並みや港が見え、海を挟んだ反対側に宿泊している丘の上のホテルも見える。

緩やかに下っていく道の先の山側に石像が祀られていた。

膝くらいの高さの石像。

風雨ですり減ったのか原型は留めていない。

よく見ると、二体のお地蔵さんが寄り添うように彫られているように思えた。

一見かなり古い物のように思える。

そこに供えられた黄色い花は新しい物で、モンシロチョウが羽を休めに来ていた。

しゃがんでお地蔵さんに手を合わせると、モンシロチョウはふわりと舞い上がった。

そのまま先へ進んでみる。

この辺りから道は下ることなく平坦になり、しばらくすると右手に斜面の木々が道を圧迫してきた。

海側は相変わらず緩やかな斜面が続いていて山裾の部分は防波堤になっていた。

やがて岬の突端に出ると、そこには小さな四角形の東屋があった。

ここまでは整備された道だったが、その先には細い獣道が一本あり、岬の反対側へ続いているようだった。

そこは木や草に覆われていて、入る者を拒絶しているようにも見える。

どこに続いているのか気にはなったものの、東屋に入ると腰を下ろし、煙草をくわえた。

「いい眺めだ……」

海がよく見える。

沖合には大小の船が右に左に航行している。

周りを見渡すと、先程の防波堤は左のほうから岬の沖まで続いていた。

その内側は岩礁地帯で、それは岬の下までつづいている。

岩場に打ち付ける波の不規則な音が響いている。


防波堤の突端あたりには簡素な灯台と大きな岩があった。

☆Ayaka☆の写真と景色を見比べると、明らかに背景の場所が違う。

小さくをため息をつく。

でも、二人の発見が希望をもたらしてくれた。

彩也と絵美に心の中でお礼を言いつつ、一つの疑問が湧く。

13日に舞が目撃されているという事は、10日以降、舞は何故連絡を寄こさなかったのだろうか?

連絡できない状況だったのだろうか?

首を振る。

嫌なことを想像してしまいそうで。

でも、☆Ayaka☆のコメントを見る限り切迫した様子ではないとも考えられるし。

あの時、聞いた舞の声もそんな印象は持てなかった。

あれこれ考えても解答が見つかる訳でもなく。

携帯灰皿に吸い殻を入れ、来た道を戻る。


行きは気が付かなかったが、お地蔵さんがあるところから細い道が防波堤に向かって下っていた。

防波堤沿いの道はそのまま学校や住宅地、公園、そして港まで通じているようだった。

啓助が道を下りかけたとき――

シャツが後ろに引っ張られた。

慌てて振り向くと、そこには麦わら帽子の少女がほほ笑んでいる。

「おじちゃん、ちゃんと探してる?」

少女は麦わら帽子を両手で掴み、こっちを見上げていた。

「探してるよ」

「舞ちゃん、この島にいるでしょ?」

「うん、いるね」

「舞ちゃんをね、助けて欲しいの……」

「助ける?」

「そう、舞ちゃんを助けてあげて……お願い……」

少女は麦わら帽子を取り深く頭を下げた。

啓助は少女と目線を合わせるようにしゃがむ。

そして少女の頭を撫でると、顔を上げた少女の目は潤んでいた。

涙目に微笑みを浮かべる少女。

「おじちゃん、ありがとう」

「どうやって、助けたらいいのかな」

「あのね……舞ちゃんね、ずっと怖いの」

「怖い?」

「うん……舞ちゃんね、暗いところにいるの、ずっと暗いところに……」

少女は大き目の麦わら帽子を被って指をさす。


その先には防波堤が続いている。

「暗いところ?」

「そう……一人なの」

「島のどの辺なのかな?わかる?」

「うん……わかるよ」

少女は、また指をさした。

その指の先には防波堤が山に隠れて見なくなっている。

「あそこ?」

「そう……あの先……」

「うん、分かった」

啓助は立ち上がると、少女と手を繋いだ。

少女は、ビクッとして、少し驚いたようだったが、すぐに笑顔になる。

すると啓助の手を引っ張り歩き出す。

坂道を下り防波堤に出ると沖の方へ向う。

その突端近くで岩礁地帯に足を踏み入れる。

啓助は水面から顔を出した岩場を進もうとするが、少女は靴のまま、お構いなしにパシャパシャと気にせず歩いている。

波は穏やかで小さな波が岩にぶつかっては砕けている。

少女は大きな岩の前で止まり、それを指さした。


「ここ、舞ちゃんがいるの……」

「そうなんだ……」

その高さは3メートル位はあるだろうか。

丸みを帯びた岩の上には海鳥が羽根を休めに降り立ち、足元の岩場には小さなカニが歩いている。

大きな岩の表面だけは何かで磨いたように平らで、その下の台座のような所には、何かが置いてあったような跡がある。

そこもやはり表面と同じで欠けている部分もあるが真っ平だった。

岩自体も岩礁地帯の岩は茶色なのに対し、少し赤味を帯びている。

幅や奥行きは2メートルあるかないかで、形は角のない将棋の駒のようにも見えた。

啓助は少女と手を繋ぎながら岩礁地帯を見て回ったが何も感じることはなかった。

「……舞ちゃん、ずっとここにいるの」

麦わら帽子を手で押さえながら見上げて話す少女に、啓助はしゃがんで微笑んだ。

「そうか……ありがとう」

少女は笑顔を見せると、啓助に抱き着いてきた。

「舞ちゃんを助けてあげてね……」

そう耳元で囁くと、柔らかく仄かに暖かい光に包み込まれた瞬間、少女の感触は消えていて誰もいなかった。

そして少女が被っていた麦わら帽子だけが足元に残されていた。

「どういうこと……」

啓助は唖然としながらも、麦わら帽子を拾い上げる。

「暗い所……閉じ込められている……大きな岩」

大岩を見つめる。

「これが結界と何か関係があるという事なのか?」

しばらく佇んで、麦わら帽子を被り歩き出した。

閉じ込められているというのは、結界にという事なのだろうか?

それがあの大岩なのだろうか?

「おじちゃん、舞ちゃんを助けてあげて……お願い」

少女は最後にそう言っていた。

文字通りの意味だとは思うが、実際どうやって助けたらいいのか?

まだ霧の中にいる。

色んな事を考えているうちに、お地蔵さんの場所まで来ていた。

もう一度手を合わせて駐車場へ向かった、何かが分かりそうなもどかしさを抱きながら。


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