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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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32/75

見てしまった

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


兄は朝早く出かけたようだ。

真一郎が目を覚ましたころ、ガレージから車が出ていく音がした。

そんな兄の部屋の前で、檻の中の動物のように右往左往している。

「はあ……」

ドアノブに手を掛ける。

鍵が掛かっていたら――

止めよう。

ガチャ。

きい……

建付けの悪い扉が鳴いた。

部屋の床には歴史書が散乱している。

意を決して足を踏み入れる。

足の置き場を選びつつ、出来る限り物の配置を動かさないように。

そして窓際のパソコンデスクに近づいた。

デスクに手を突き、パソコンには目もくれず引き出しを一個ずつ開ける。

一番下の引き出しの中、かわいらしい淡いピンクのスマホケースが目を引いた。

手に取り電源を押してみるが反応はなう。

バッテリーが切れているようだ。

それを元の場所へ戻して部屋を見回した。

次の目標をクローゼット定める。

その中も乱雑に服が仕舞ってあるだけ、特段、目を引く物は見当たらない。

そして、押入れを開けた。

上段は衣装ケースが目一杯に入っている。

下の部分を覗き込むとキャリーケースが横たわっていた。

スマホのライトで照らしてみると明らかに兄のものではない。

淡い水色。

どこかで見たような――

ガラガラガラッ。

ガレージを開ける音がした。

急いでスマホで写真を撮り、慎重に足場を探しつつ歩いて兄の部屋を後にした。

自分の部屋に戻り、外の様子に耳を澄ませる。

スパイ映画の主人公になった気分だ。

「おーい。だれもいないのか?」

一階から父、龍一郎の声がした。

なんだ、帰ってきたのは父さんか。


真一郎は部屋を出て一階に降りた。

居間に行き久しぶりに帰宅した父に声をかける。

「父さん……お帰り」

父は着替えの入れ替えている。

少しやつれたかな?

それでも、日に焼けた横顔はエネルギッシュさを増しているようにも見える。

「おう、真か」

父は作業を中断することなく答えた。

「あの、父さんに話があるんだけど……」

「おう、なんだ」

「父さんが調べてることって何なの?」

父は作業の手を止めこちらを見る。

「ほう」

「前に使命って言ってたのと関係があるんでしょ?」

「何が気になる?」

「……」

「黙ってちゃわからんじゃないか」

立ち上がり父は近寄ってくると思わず顔をそむけた。

体臭が酷い。

そんな真一郎の様子に気づいたように、父は体のあちこちの匂いを嗅いでいる。

「さすがに、臭うな……シャワーしてくるからちょっと待ってろ」

真一郎の頭を撫で浴室に行った。

真一郎は父の着替えを洗濯機に入れる。

ズボンのポケットにはゴミが山のように入っている。

自然にゴミは残さない父らしい。

その中に半分に折られた一枚の写真があった。

何気なく広げてみると――

「え?」

あの女性が写っていた。

持つ手が震える。

インスタグラムの写真をプリントアウトした物のようだった。

なんで?

頭が混乱する。

写真を手に持ったまま佇んでいると、父が浴室から出てきた。

「久々に生き返ったぞ」

バスタオルで体を拭きながら満足気に話す父に、

「父さんこれ、ポケットに入ってたよ」

真一郎は写真を差し出した。

「おう、いけね。ありがとうな真、そこに置いといてくれ」

父は顎で洗面台を示した。

「誰なのこの女のひと?」

「ん? ハハハ、真も気にするようになったか? 父さんは母さん一筋だよ」

「そういうんじゃなくて……」

「どういう……ん?」

体を拭く手を休め、父は一点を見据える。

何か考えごとをしている時の目。

「真、お前この女性の事知ってるのか?」

「え?知らないけど……」

突然の切り返しにとぼけた。

父は頭の回転が速い。

親子という長い付き合いで追及をかわす術は少しは身に着いた。

そうは言っても父には適わないのだが。

「そうか……」

父は体を拭き始める。

結局の所。

父が何を調査しているのか?

父と兄はあの女性と、どのような関係なのか?

聞けないままであった。


真一郎自身、父があの女性の写真を持っていたことで臆してしまったのはある。

「しばらくは帰らない、すまんな」

そう言い残し父は出て行った。

見送った玄関先でしばらく立ち尽くす。

父と兄は何を調べているのか?

どうして同じ女性と関わりがあるのか?

浮かび上がる疑問に探しようのない答えを求めていた。


真一郎は自身の部屋に戻り、椅子に腰かけてスマホを操作した。

女性のインスタグラムの写真に写り込んでいるキャリーケース。

兄の部屋で撮ったキャリーケースの写真を見比べる。

挿絵(By みてみん)

「同じだ……」

間違いない。

3日前、兄の車に乗っていたあの女性の物だ。

言いようのない不安が込み上げてきた。

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