写真の中
夜半から風が強くなってきた。
それが雨戸に当たるたびにガタガタと音を立てる。
龍応は居間で電話をかけていた。
「そうですか……引き続きよろしく願います」
電話を切って一息つくと、また電話をかける。
「こんばんは龍応です」
相手は香の母親の幸だ。
幸は香に代々の血統について話をすると言っていた。
その確認のためだ。
「香ちゃんに話は……」
「なるほど……」
「まぁ、用心に越したことはないから」
「では、おやすみなさい」
大きく深呼吸して台所に向かいお茶を飲んだ。
ふと頭にあの男の顔が浮かんだ。
彼はどうしているだろう?
妹を探し回っているのだろうか?
もしかしたらと思い、昨日、幸に頼んで彼の妹を見てもらったが、
「気配がない」
との解答だった。
幸曰く、生きてるとも死んでるとも言い難い。
ただ死んでいたら無、生きていれば有。
はっきり分かるのだそうだ。
このようなことは初めてだが、自分の力自体が弱くなっているのも理由かもしれないと付け加えていた。
ガタガタガタッ、吹き付ける風が雨戸を叩く。
今日も風が強い。
龍応は居間へ戻りパソコンの前に座った。
一つの記事が写真と共に映し出されていた。
「楽園か……」
島をそう呼ぶ人は多い。
気候が温暖なこと。
豊かな自然、温厚な島の人々。
まさか、彼女は核心に近い事に気付いた。
そうしたら尚更、結界に迷い込んだ可能性は高いかもしれない。
仮に気付いたとしても、どうやって?
確かに伝承では神隠しに近いことが昔はあったようだ。
そう言えば彼女がここを訪れた時も兄と同じようなことを言っていた。
「エネルギーがありますね」
彼女は元々、ここを訪れる予定は入れていなかったとも話していた。
フェリーから見えた山の上にお堂があるのが気になって来てみたらしい。
そして帰り際、
「来て正解でした、ご住職や景色や仏様にお会いできたんで」
そう笑顔で話しお辞儀をして去って行った。
龍応は無事を、ただ無事を祈った。
記事を閉じようとして写真をクリックしてしまった。
「あぁ……」
写真が表示されている。
彼女が護摩堂から自撮りして撮ったものだ。
少し上から見下ろすような角度で彼女自身も少しだけ上を向いている。
下の方の境内も納められている。
「ん?」
山門の方へ続く階段をこちらを振り返っている人物が小さく写っていた。
拡大すると画像が荒くなったが格好から男であることは分かった。
顔の部分が白く光っているようにも見えた。
眼鏡……か?
龍応は思う所があって、机の引き出しから日記帳を取り出しページをめくる。
7月8日土曜日 本日も晴天なり。
・川島さんと山本さん、早朝より境内の掃除に来られ、野菜や花を下さる。感謝。
・9時、兼ねてより約束の観光取材あり、東京より雑誌社の方来られる。
・国産み神話の研究をされている学生さん来られる。島の歴史にも興味を持たれた様子。郷土史家を紹介して欲しいと言われ三名教える。
護摩堂からの景色に大変喜ばれる。熱心な学生さんに加護あらん。
・午後、三枝さん再訪される。以前寺に来られた後に夢を見て、それを絵に描き持参され寄進される。見事な龍の絵。有り難い。
・地元中学生の歩き遍路グループ10人。龍水の洞窟や寺の造りに興奮している。子供たちが関心を持ってくれるのは嬉しい限り。
もう一度、パソコンの画面の写真を見る。
「もしかして……」
龍応はデスクの名刺の収納ケースを手に取った。
その中から一枚を抜いた。
「この人か……」
フリーライター
福田 信介
080-☓☓☓☓-☓☓☓☓
記載されている電話番号に掛けてみる。
「お客様のお掛けになた電話番号は……」
ザワザワザワー。
木々の揺れる音がして、また雨戸に風が打ち付けていた。
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