表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/77

つたえるもの

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


香の母親の幸はキッチンのテーブルで香が風呂から上がるのを待っていた。

昨夜の香の反応を察するに、あの子は”夢”を見てる。

そう確信した。

真実を伝えて受け止めて貰わなければならない。

このことは昨夜、龍応住職に呼び出された折に伝えていた。

本来であれば他人には秘密にしておかなければならないのだが。

幸は亡くなった主人とその友人であった龍応には秘密を打ち明けていた。

主人が5年前に他界して以来、龍応には何かと相談している。

その逆もあり、龍応から相談を受けることもある。

昨夜の一件がその一例だった――

龍応は母屋の居間に幸を迎えるとおもむろに一枚の紙を渡された。

写真をプリントアウトした物で、一人の女性が微笑んでいる。

その女性の行方を捜して欲しいとの事だった。

達筆の龍応の文字で名前も記されていた。

「どういうことでしょうか?」

ザザーザザー。

外の木々が一陣の風に音を立ててガタガタと雨戸を叩く。

「もしかしたら、結界に迷い込んだかもしれません」

「結界、ですか? そういうこともあるのですか?」

「私が知る限り現在はありません。ただ伝承で神隠しがあったのは耳にしたことはあります」

幸は黙って龍応の言葉を待った。

「この島には幾つかの結界が張られています」

ビュー、ザザザー。

一段と強い風が吹き抜け、雨戸が悲鳴を上げる――


洗面所でドライヤーの音が止み香がキッチンへ入ってきた。

幸は冷蔵庫から麦茶を取り出すと、テーブルのコップに注いで香に促した。

「ありがとう」

香は椅子に座るとそれを一口飲んだ。

それを見て幸は微笑みを浮かべる。

「香と美樹ちゃんの舞、息ピッタリやね、母さん感動したわぁ、本番がすごい楽しみになった」

「昼休み、毎日練習してたらね」

照れ臭そうに小首をかしげる香。

「まさかね、親子二代で舞を奉納するなんてなぁ」

「ちょっと、緊張する」

香は両手を胸の前で擦り合わせている。

「いよいよ明日やもんなぁ……」

「うん」

普段ならもっと花が咲く会話も途切れ途切れになる。

香は明らかに昨日の話の続きを待っているようだった。

幸は背筋を伸ばして真っすぐ香を見つめた。

「昨日の話の続きしよっか」

香も飲みかけていたコップを置き佇まいを直している。

「何か特別な夢、見ることあるでしょ?」

幸が優しく問いかると、香はコクリと頷く。

「辛い事も、あったやろなぁ。母さんも、見るんよ夢」

俯いていた香は顔を上げた。

「うちらはなぁ、ちょっとだけ他の人と違うんよ。まぁ、そやな~、巫女さん。言うたら分かりやすいかな」

「巫女……さん?」

首を傾げる香。

幼い頃のような仕草に頬が緩む。

「巫女さんはな、神様に仕えるんよ、そしてな、少しだけ特別な力を持っててなぁ神様と交信ができるん」

香は眉間に皺をよせる。

「もちろん、アルバイトの巫女さんとは違うんよ。本当に必要な時だけ神様と交信するんや」

「母さんはしたことあるん?」

幸はゆっくり首を振り、

「それはな、なかったんよ。神様と交信するんは、おばあちゃんもなかったみたい。ただ、ご先祖様から代々口伝えで語り継いで来たみたいやって……もちろん母さんも特別な力を持ってるんよ、それはね……」

そこまで言うと幸はテーブルに置いてある小さな桐の木箱を香の前に差し出した。

「これはこの家に古くから伝わる物や」

幸は蓋を開けて、真綿の上に置かれている、白い勾玉を見せた。

「この勾玉ね、母さんの力を少し抑える力があるん。これは特別な力を持った人しか身に付けられないんよ」

「でも力を抑えるって、どうして?」

「そやなぁ、それはな自分を守るためなんな……母さんは意図的に夢というか人を見る事でその人の未来が分かってしまうん」

「うそ……」

香は両手で口を押さえ、大きな瞳を見開いている。

「ただ、凄いエネルギーを使うの。だから力を弱めて体と心を守ってあげなきゃいけないんよ、香、あなたがこれを持っていて」

「でも、そしたら、お母さんは疲れないの?」

「もう母さん自体の能力は弱くなってるんよ。生理と関係があるみたいやね、やからね、香に付けてもらいたいんよ」

勾玉を見つめている香。

「きっと、あなたは意図せず夢を見れるんじゃない? おばあちゃんがそうだったから」

香は勾玉を木箱ごと両手で包みこんだ。

そんな香の姿を見て、一番気になっていたことを聞いてみる。

自分も夫の浩二が亡くなることは知っていたのだから。

幸は優しく問いかける。

「香、きっとお父さんの夢も見たんじゃない? 辛かったやろ、ごめんな、今まで話せなくて」

真っ直ぐこっちを見つめる香の瞳から大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。

「どんな風に夢を見るん?」

幸がゆっくりと尋ねると、香は涙を拭い、深呼吸をして口を開いた。

途切れ途切れに涙声で話す我が子の話に耳を傾ける。

驚いたのは、思っている以上に香の能力の感度が高いということ。

話しが終えると幸は香の隣に腰をかけて、そっと抱きしめた。

「香、あんたはええ子や、ただな夢で見た未来は変えることは出来んのや。もしかしたら……」

幸は言い掛けた言葉を飲み込んだ。

この子なら、未来を変える事が出来るかもしれない。

「きっとあなたは”見る”と意識した瞬間、その人の色んな事が見えると思う、まだ慣れてないかもしれないけどな、少なくとも母さんより能力は強い。勾玉はな神様からの授かりものなん、やから肌身離さず身に付けとくんよ」

頷く香りに、幸は続ける。

「香がこれから出会う人の中にはあなたの力を必要としている人かもしれない。いい? もしもその人のことを本当に助けたいと思った時は母さんに話すんよ、あと夢を見た時もね、それとな、このことは決して他の人に言うたらいかんよ」

「どうして?」

「自分の身を守るためにね。悪い人に利用されないためにな」

「美樹にも……ダメなん?」

幸は自分も人に言えず始めは辛い思いをしたから気持ちは理解できる。

実際、夫の浩二や龍応住職には打ち明けている。

「そうね、香が心から信じている人には伝えるのも、ええかもな……母さんも、父さんには話していたし、父さんの幼馴染のご住職にも縁があって話しているから。ただね香、話すときは覚悟をもって話さないかんよ。そして、それ以外の人には決して話したらあかんよ」

「母さん……分かった……ありがとう……」

香は涙を流しながら笑って見せる。

その声は震えていて、木箱から勾玉を取り出し抱きしめていた。

「母さんが夢のこと、知ってるとは思わんかったやろうね」

幸が香の頭を撫でると、コクリと頷いた。

「そしたら夜食でも食べよっか、何食べたい?」

「素麺……」

香は鼻をすすりながら、ボソッと呟きこっちを向いて微笑んだ。


お読み頂きありがとうございます。

感想など、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたらスキをポチッと押して頂けると、

とてもうれしく、喜び、励みになり幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ