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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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嚙み合いはじめて

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


啓助は松寿庵からホテルへ向けて車を走らせている。

さっきのあの子、高校生位だろうか?

妹の事を気にしていた。

何でだろう?

しかし――

不思議な子だった。

突然立ち尽くすと、薄目は開いているが白目を剥き。

身体は小刻みに震え、友人が体を揺すっても、1分位だろうか、その状態が続きパッと目が開いた。

その瞳は漆黒で吸い込まれそうな深みが宿り、見透かされているようで怖ささえ覚えた。

白目を剥いたせいか左目の下のホクロが印象的に際立っていた。

「……まさかね」

呟いた途端――

グー。

腹が鳴る。

「……そういえば、飯食いに行ったんじゃないか」

啓助自身、呆れた。


しかし今日は、いや今日も不思議なことが相次いだ。

公園で会ったあの少女は何だったのか。

今思うと、何というか今どきの子というより、どこか懐かしいような感じがした。

まさか幽霊?

背筋に寒気が走る。

でも、あの少女自体に恐怖は全く感じなかった。

「とりあえず、夕食どうしよか」

前方にフェリーターミナルへの案内板が目に入る。

迷わずハンドルを切り、その駐車場に車を止めた。

夕凪島の夜は意外にも涼しい。

陽が落ちれば、夏だというのに肌寒い風が吹いている。

煌々と明かりが漏れるターミナルの中の、うどん屋に入った。

「らっしゃい」

店長であろう男の威勢のいい声が響いた。

客席はほぼ埋まっている。

一番奥の端の席に進み食券を渡した。

今日は年配の二人の女性が厨房で調理をしている。

あの子、美樹さんだったか、ここと素麺屋と掛け持ちでバイトしているのか?

椅子に座る際、隣の男性客が見ていたスマホの画面に映し出されている美しい風景が目に入った。

西龍寺?

水を飲みながら隣の客を窺うと川勝龍一郎の息子だった。

啓助はコップを置いて声を掛ける。

「こんばんは」

彼は少し身を引きながら、こちらを見て驚いたようだった。

「こんばんは」

少し頭を下げながら返事をすると、すぐに正面に向き直りスマホに視線を戻した。

「君は、西龍寺にはよく行くの?」

質問に首を傾げ、ちらりとこちらを見る。

「いや、スマホに西龍寺からの眺めの写真が映ってるのが、ちょっと見えたんだ、ごめんね」

「……いえ、そういう訳では」

彼はそう言いうと、スマホをポケットに仕舞う。

「あそこの寺はパワースポットらしいね」

「……」

「君も、歴史好きなんでしょ?」

「いや、好きという訳じゃ……」

「そうなんだ、お父様が郷土史家だし、君もてっきり好きなのかと……」

彼は話しかけられるのが迷惑そうだったが、啓助は話しを続ける。

「お父様は、あれからお帰りになられましたか?」

「いえ、帰ってないですけど……」

「そうですか……」

「お待ちどう、しんちゃん」

厨房の女性が、トレーに乗った天ぷらうどんを彼に差し出した。

それを受け取ると、彼は助かったと言わんばかりに食べるのに集中し始めた。

啓助は会話を諦めて、水を飲んでスマホを取り出し、何気に舞のインスタグラムの西龍寺の写真をタップする。

筆舌に尽くしがたいとは、まさにこの景色のことを言うのだろう。

二枚目にある舞の自撮りの笑顔を見て画面に釘付けになっていると、やがて自分の天ぷらうどんが運ばれた。

スマホをカウンターに置いて箸を取る。

「いただきます」

うどんを一口すすり出汁を飲むと、空腹の胃袋が喜んでいるような気がした。

「え?……」

唐突に隣から声がした。

彼が啓助のスマホの画面を食い入るように見つめてる。

気のせいか顔が青白い。

啓助は箸を止め、スマホを取る。

「いい景色だよねほんとに、どうかしたの?」

「あっ、いえ、別に……」

彼は小刻みに左右に首を振り、明らかに動揺している素振り。

何だろう?

スマホの画面には舞が取った自撮り写真が映し出されているだけ。

舞と西龍寺からの眺望だ。

頭に浮かんだ疑問を投げかけようとし時。

「ごちそうさまでした」

彼は立ち上がると、そそくさと店を出て行ってしまった。

目の前のうどんは半分以上残っている。

「すぐ戻ります……」

そう店員に言い残し店を出たが、すでに彼の姿はなかった。

「まさかね」

もう一度、訪ねてみるか……

宵凪の黒い海の上を、フェリーが近づいてきていた。

啓助は肩をすくめ、店内に戻った。


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