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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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こころの中の光

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


啓助は目の前で繰り広げられた出来事を理解し得ないまま神舞を見つめていた。

ただ、正体不明の侵入者。

あれは、レインコートの男だったのか?

男と格闘に及んでいた川勝京一郎の顔がうっすらと月明かりに照らされた時。

思い出した。

初めて夕凪島を訪れた日に星ヶ城山のユナキ神社への山道で出会った男性。

それが京一郎だった。

世間は狭いというのか因果が巡るというのか。

その後、川勝家を訪問した折に京一郎が自分を避けているように感じたのは、舞の兄である事を認識していたからに違いない。

そう一人合点した。

舞が隣にいる今となっては気にすることもないのだけれど、京一郎自身に後ろめたさがあったにせよ、話をして欲しかったとは正直に思う。

あれだけの騒ぎがあったにも関わらず、目の前で踊る二人に動揺はないようで、寸分違わず一心不乱に舞っている。

月明かりに照らされた香と美樹は妖しい魅力さえ醸し出している。

神舞は曲調が変わり曲も舞の動きも早くなる。

目の前の二人を例える言葉は……

妖艶だな……

やがて二人は神宝を天に掲げた。

しばらくの静寂がある。

何も起きていない。


隣の舞を見ると視線に気づいて、こちらを見上げると目でチラリと舞台の方を見た。

黙って見ていなさいと言われているようで舞台に目を移す。

香と美樹の二人は、そのままもう一つの神舞を踊るようだ。

同じように、二人で手を伸ばし位置を調節している。

すると二人は揃って同じ方向を向いた。

啓助から見ると二人はやや背中を見せる感じで、右側に香、左側に美樹が立ち瀬田神社で奉納された神舞とは立ち位置が逆であった。

二人は両手を胸の前に置き、香は右手を、美樹は左手をそれぞれ神宝を持った手を前に伸ばす。

そして、歌い始めた。

右肩を少し下げながら左回りにゆっくりと回る。

その瞬間、柔らかな風が吹き始め、神宝が香の物は白く、美樹の物は朱く光だした。

それが揺れる度に鈴のような音が発せられ、その鈴の音は山を吹く風、浜に寄せる波のようにも聞こえる。

やはり歌と踊りもピッタリとした息の合ったものだった。

歌詞のせいもあるのだろうが温かい気持ちになる。

歌のテンポは神舞の前半部分と同じようにゆったりとしていて、二人の声も耳に心地よく、小さい頃に聞いた子守唄のように懐かしい感じがした。


神舞が二回目の繰り返しに入る頃、啓助の頭の中に子供の頃の記憶が甦っている。

父と母の間の座っている啓助。

祖母の膝の上に舞が座り手を叩いて空を見上げている。

ドンッと音が鳴る。

驚いて見上げる空には、金色の大輪の花火が咲いていて、ヒューヒューとした音を伴って色とりどりの花火が咲き乱れる。

その明かりに照らされたみんなの顔には笑顔が咲き誇っていた。

ハッとして舞台を見ると神舞がちょうど終わるところだった。

二人が神宝を天に掲げると、空から二筋の光線が神宝の元に吸い込まれるように落ちていく。

胸元の勾玉も一層強い光を放っている。

そして一陣の風が辺りを攫った。

香と美樹はそのままの姿勢で語り出したが、それは二人の声ではなかった。

「集いしえにしを持つ者達」

香の口からは聞き覚えのある少女の声がする。

そう双子の神様のユナだ。

「うちらの言葉、しかと留めおくように」

美樹の口から聞こえる声はユキだ。

二人の両親からはどよめきが上がる。

住職は胸の前で手を合わせその姿を見つめていた。

「貴方たちは、あの時の……」

隣で舞が呟くと、ユナとユキは可愛らしく笑い。

香が、正確には双子の少女のユナが話し出す。

「ここにいるすべての人々よ、わが教えを伝えよう、山を愛し、海を愛し、己を慈しみ、あらゆるモノを慈しみ、感謝の心根で人の手によって歴史を紡いでゆくのよ」

「わが教えを伝えよう、山を敬い、海を敬い、己を許し、あらゆるモノを許し、謙虚の心根で人の手によって運命を紡いでゆくんや」

舞台には香と美樹が立っている。

勾玉の光が広がり香と美樹をそれぞれ包み込むと二人の体は宙に浮いた。

親達からは当惑とも驚嘆とも取れるような声が湧く。

そして二人は空中で先程の神舞を舞い始める。

歌声はユナとユキだった。

宙で舞う二人の姿は声こそ幼いが、厳かで、気高い趣があり。

どこかで目にした地上に降臨した神様の絵のようで、それを描いた人はこのような光景を見たのではないか?

とさえ思った。

やがて可愛らしい声の神舞が終わる。


その時、先程のパーカーの男が突如、どこからともなく姿を現した。

すかさず、渚たちが舞台を囲む。

「あららー」

その男の声に、ユキが口を開く。

「まさか、ここであの汚らわしき者のすえと会うとは……」

今までに聞いたことがない憎悪に満ち震えた声だ。

「クックック……言い伝えは本当だったって事か……」

男はその瞬間、空中の二人の方へジャンプした。

「控えよ」

ユナとユキの声がシンクロすると男の体は空中で止まる、

「いやー、そんなこと出来るんだ」

「汚らわしき者……喋るな! 貴様はここにいるべきではない!」

ユナの口から発せられた言葉と共に、男の体の中から光が発するとやがて男を包み込む。

「ただ、許しましょう」

「ああ、許したる」

ユナとユキが両手を前に差し出すと、一瞬の輝きと共に男の姿は跡形もなく消えていた。

茫然とその様子を見ていた啓助は、さっきまで男が浮いていた空間や辺りを見回すも男の姿はなく。ただサラサラと木々が揺れている。


「お見苦しいとこ、見せてしまいましたね…」

「みんな、ごめんな」

登山道の方から数人の足音が迫り、息急く音が近づいて来る。

それは川勝龍一郎と数人の男女で、龍応が龍一郎に耳打ちをすると、彼らは来た道を戻って行った。

「人の世も神の世とて同じ事、天の理は同じ……今、少しばかり……」

ユナの声に反応したのか風が止んだ。

おや?

それと同時に空気感が変わってたように思う。

何だろう?

聞こえていた音が無い……

「フフフ、啓助に舞、私達の結界を解いてくれてありがとう」

無音の空間にユナの声だけが聞こえる。

「結界を解いたらあなた達の世界はどうなるんですか?」

「無くなるのよ……」

「けど、それでええねん、島の人々に楽園を返すんや。あの人らの言う通りやった。旅人、舞、ありがとうさん」

「あの人らって?」

舞の質問には答えずにユナとユキは話を続ける。

「啓助と舞。今から話すことは、この子達への伝言だと思い。聞いて欲しい」

「あんたらの判断でこの子らに伝えるもよし、伝えずともよし」

啓助は辺りを見回した。

ご住職や香と美樹の親達は突っ立ていて動いていない。

時間が止まっているのか?

舞を見るとこちらを見上げて首を傾げている。

「よいか、本来であればこの二人の魂は天の召喚に応じなければなりません……」

「それがな、運命……やったんや……」

双子の少女、いや神様は語り出した。

その時間は長い様の思えたが、時が戻った今、それは僅かな間だったのだろう。

風がサーッと流れる。

「さようなら……」

シンクロした二人の声。

その手から神宝がゆっくり離れていき、やがてぼんやりと徐々に消えていく。

今度は風と共に光の帯が二人を包むとその光は上空へ舞い上がって行った。

それは六つの球体となり、そこから五つの光の筋が四方へと飛んで行く。

残った一つが弾けると夕凪島をドームのように包み込み光の雨のように降り注ぐ。

そして島中の人々の体から光が溢れているように思えた。

光は徐々に弱まりやがて消えていく。

「おお……」

龍応が感嘆の声を上げたていたが、啓助はその様子に言葉を失っていた。


他の皆も息を吞んで見上げている。

その場にいる全員が淡い光に包まれているのを見て、光に覆われているのに気付いた。

心の奥底に温もりが沁み渡っていくようだった。

舞も隣で淡い光を体に帯びながら宙に浮く二人を眺めている。

やがて、香と美樹を包んでいた光が弱くなりながら、宙よりゆっくり降りて来る。

二人の体が舞台の上に着いた。

その刹那。

光は消え、あった筈の舞台や通路も無くなっていた。

香と美樹は、我に返ったのか目の前のお互いを確認すると手を取り抱き合っている。

二人の親と住職が香と美樹の傍により、二人を囲んで労っているようで、その話声だけが聞こえる。

そして、ほんのりと白みを帯びた東の空には昴が瞬いていた。

それを見ながら啓助は舞に尋ねる。

「聞くだけ野暮だけど……さっきの神様からの伝言……二人に話した方がいいんだよな?」

「どうだろう……全部話す必要はないとは思うけど……」

「舞に頼んでもいいか? 俺は上手に伝える自信がないよ……」

「うん。やってみる。考えてみる」

「ありがとう……それと、あの襲撃して来た男は何処に消えたんだ?」

「ハハハ、そんなの分かる訳ないよ……ただ、汚らわしき者のすえよってことは、神様達と関りがある人物の末裔って事かな……」


その時、香と美樹がこちらに小走りに寄ってきた。

「啓助さん、舞さん……」

香は言葉に詰まり、唇を嚙みしめている。

「お兄さん、舞さん、見届けてくれてありがとう」

美樹は香を一瞥すると話し出した。

「うちら少しの間、意識が無うなって、光が島中に散らばった言うんは、ご住職や親から聞いたんやけど……何が起こったんかな?」

「私達にも良くわからない……ただ、神様と呼ばれる双子の女の子たちは天へと帰ったんだと思う。夕凪島中に散った光が何をもたらしているのか分からないけど、きっと、あの神様達を天に返すための神舞だったんだと思う」

舞はまだ、何処をどう香と美樹に話したら良いのか考えあぐねているようだ。

「二人とも凄かった。ビデオ撮っとけば良かった」

啓助は舞をフォローしたつもりだが、それに構わず香は俯き加減に口を開き、そのまま喋り始める。

「あの、私少し覚えているんです………確か神様は『この二人の魂は天の召喚に応じなければなりません』……それと、お婆ちゃんが言っていたことを思い出したんです。私は神に選ばれたって……でも、その時の、お婆ちゃんは笑っていたけど、寂しそうに私を見ていました。あの神様は私達の身代わりになったんじゃないのかなって……」

「ああ、それは違うと思う」

舞がすかさず口を挟み話し始めようとした時に、龍応や親達が歩み寄って来た。

「後でね」

舞は小声で囁き、二人の肩をポンと軽く叩いて笑って見せていた。

「皆様、お疲れさまでした。無事に終わりました。かく言う私も……よく分からないのですがね……」

苦笑しながら龍応は自身の後頭部を叩いている。

その笑顔に舞が笑い出すと、釣られたみんなの笑い声がこだまする。

「じゃあ、参りましょう……」

龍応が登山道へと歩き出すと、皆がぞろぞろと列をなして後に続いた。

最後尾に付ける啓助は鳥の鳴き声に振り向く。

鳥の姿はなく、視線を感じた木の枝に目を移すと、フクロウが大きな目で真っ直ぐこちらを見ている。

目が合ったフクロウは羽を大きく広げて見せていた。

「お兄ちゃん?」

舞の声が呼んで、啓助は何故かフクロウに会釈をして舞の後を追う。

やはり気になって、もう一度その木を見るがフクロウの姿はなく、隙間からはあさぼらけの空が垣間見えていた。


西龍寺に着く頃には朝陽が昇って来ていて。

境内や木々が鮮やかに色づき始めている。

残念ながら夏場の朝陽を拝むには境内からは位置的に難しいと龍応が説明してくれた。

香達は母屋へと向かったが、啓助と舞は龍応の厚意で本堂で経を上げて貰っている。

龍応の口から紡ぎ出される経の言の葉の調べと、包容力のある温かい声が心に沁みる。

「ご住職ありがとうございます」

舞が礼を述べると、

「お二人ちょっとそのままで、手を合わせといて」

龍応は経典を片手に啓助の背中に回り、何やら唱え始める。

「ええい!」

最後に大きな声と共に背中をパンっと叩かれた。

その瞬間、フワッと心が軽くなった気がした。

龍応は舞にも同じ様にする。

「あぁ、気持ちいい、何かスーッとしました」

「それは、良かった」

目を丸くしている舞を見て龍応は満足気に微笑んでいる。

今日のフェリーで東京に帰る事とお世話になったお礼を述べると、龍応は目を細め温かい笑顔で話し出した。

「出逢いというのはご縁があってこそですからね。色々と感謝しています。でもね、私はあなた方が何かしらの力を持っているのでは? そう考えているのは捨てていません。例えば、仮に神様がシグナルを送ったとしても受け取る側にも魂の状態による部分もあるかもしれませんが、整っていないとキャッチ出来ないですからね。それにキャッチ出来たとしても行動に移せるか否や、それも分水嶺になりますでしょう」

「今となってご住職が仰る事の少しですが分かるような気がします。こちらこそ感謝しています。ありがとうございました」

啓助は深々と頭を下げた。

舞は顔を上げると龍応に話し掛けた。

「ご住職、今度は歴史の話をゆっくりしましょうね」

「そうですね。結界の一つは解けましたが、まだまだ秘密はありますからね……その事をあなた達に知ってもらうのも意義がある事かも知れませんね」

龍応は自身を納得させるように小さく頷いた。

そして、優しい口調で舞に問いかけた。

「一つ伺ってもよろしいかな?」

「はい」

「双子の祖神が話していた事、我々を包んだ柔らかく温かい光、あれの意味する所の見解をお聞かせ願えませんか?」

「私の? ですか?」

「ええ、是非お願いしたい」

「そうですね……神様達は一人一人の人間に希望を託したのかなと思います。私が感じた事ですから、皆がどうだったかは分からないですけど、あの光に包まれた僅かな時間に様々な人に愛されていたんだという、愛を注いでくれた人達の想いと、それにまつわる記憶が甦りました。そして、こう感じました。思い出せ楽園たる日いづる国の人々よ、己を信じよ、海に囲まれ山に抱かれ、敬い思いやり、愛し感謝し合った日々を」

「なるほど、私の説法にも付け加えてもいいですかな?」

「え? ハハハ、すみません偉そうに喋ってしまって」

「いやいや、舞さんの見解は言い得て妙。仰っる通り、自身を信じ、生きて活かされて往くのですね。啓助さん、舞さん、是非また足を運んでくださいね、私も彼女達も、この場所も夕凪島も喜んでお二人をお迎えします」

龍応は胸の前で両手を合わせると、穏やかに微笑み本堂を出て行った。


啓助も舞と本堂を後にし階段を下りた。

先程の龍応の経の効果なのか肩も軽くなったような気がしている。

「そこで休んで二人を待とうか?」

「そうしよ」

舞は一足先に本堂の前の休憩小屋のベンチに座り、隣においでと座面を叩くような仕草をしていた。

そこに腰掛けると煙草に火を着け、大きく息を吐き出した。

「舞さ、前に何であの子達、双子の神様が子供の姿だったのか気になるって言っていただろ? それ、何となく分かったような気がする。人それぞれかもしれないけど子供の頃って、何の脈絡もなくて楽しい時間の記憶の一つ位はあるもんじゃない。だからあの神様達も同じじゃないかって思ったんだ。二人が一番楽しいと思える時の姿で過ごしていたんじゃないかって」

「なるほど……うんうんそうだね。そうなのかも」

「俺にしては的を射てる考察だと思わない?」

「まあ、そうだね」

舞は腕を組んで横目でこちらを見ると、軽く肘鉄をかまして笑っていた。

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