闇に映えるのは光 7月23日日曜日 1時
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7月23日 日曜日 1時
街灯のない坂道を車のライトだけを頼りに上って行く。
山道を切り返すたびに、町の明りが遠ざかり星に近づいているようだった。
鈍い光に照らされている母の顔は、いつになく強張って見える。
夜の麻霧山に来るのは初めてだった。
早朝の護摩焚きには父や母に連れられて何回か来たことがある。
護摩焚きの時は境内と参道の灯篭に明かりが灯され、その幻想的な言い表しようのない空間は、今でも目に焼き付いている。
駐車場には、こんな時間にも関わらず車が数台止まっていて、その中には美樹の家のワンボックスカーもあった。
香は車を降りて母と二人で歩き出した。
半袖では肌寒い風が通り抜けガサガサと木を揺らせている。
視線の先には天の川や沢山の星達が所狭しと煌めいて空を埋め尽くしていた。
参道の階段へ向かうと、護摩焚きの日と同じように階段の両端の灯篭には明かりが灯されていて山門まで誘っている。
懐かしさを思い出し母と二言三言、会話をしながら階段を上がった。
山門まで来ると下の方から車の音が聞こえてきた。
それにつられて振り返える。
眼下に広がる瀬戸内海は黒く。
空との境目が無くて何処までも果てしなく続いているように見える。
三井津岬の大岩の傍の灯台が赤い光を灯しては消えていく。
母の呼ぶ声に促され、境内の縁にある灯篭の明りを頼りに進むと、いつかみたいに、ご住職が母屋の玄関前の階段に座っていた。
こちらに気が付くと、いつもの目を細めた優しい笑顔を見せてくれた。
「よくお越しくださいました」
そして居間に通されると、すでに美樹は両親と待っていた。
香と美樹はそのまま奥座敷へ通され、瀬田神社の宮司の奥さんの指導の下、母と美樹の母親も巫女装束への着替えを手伝ってくれた。
神舞の時はされるがままだった着替えも、今日は会話をしながら、ほのぼのとした感じ。
やはり慣れないもので時間は掛ったみたいだった。
「ほんまに、あんたらよう似合ってる」
美樹の母が上から下へ視線を動かし見惚れて入る。
「まさか、もう一度見られるとわなぁ」
母もしみじみと首を傾げて、優しい眼差しを交互に送っている。
「うちらの舞、お月さんにも昂にも見せたるで」
両手でガッツポーズをする美樹に香は手を差し出した。
「よし、そしたら、美樹行こう」
奥座敷の襖を開けると、居間には大人たちが所狭しと立っていて啓助や舞の姿もある。
目が合うと舞は小さく手を振り、啓助は片手を挙げて二人とも微笑みを返してくれた。
「では、参りましょう」
龍応が声を掛けると、ぞろぞろと玄関に向かい、母屋を後にする。
そういえば駐車場には車が止まっていたが、境内にいるのは自分達だけだった。
本堂の前の階段脇にある灯篭に見送られ、暗闇の中へ進む、前を歩くご住職が大きな懐中電灯を点ける。
その明りを目印に麻霧山の登山道を登り始めた。
後ろを歩く親達のライトの灯りもあって道は明るく照らされている。
土や木のしっとりとした匂い。
鈴虫やコオロギの声。
包まれた光の道を香は美樹と手を繋ぎ歩く、振り返ると自分の親達の後を着いて来ている啓助と舞の顔がぼんやりとした明かりの中に見えた。
「香、ちょっと緊張してきた」
美樹は胸に下がる朱い勾玉をギュッと握りしめて俯いていた。
緊張や不安が全くないとえば噓になる。
不謹慎かもしれないけれど、それ以上にこれから起こることにワクワクしている。
ふと見上げた木々の間から散りばめられた星々が瞬いていて、空気が澄んでいるのか、山の上だからなのか普段より星の数が多い気がする。
「美樹、空見てみ」
香が指で天を差すと、美樹は首を傾げて顔を上げる。
「うわ、きれいやなぁ、めっちゃ見えるやん…………お客さん多いなぁ」
おどけて言う美樹の頬をつつくと、美樹は頬を膨らませて、息を吐きながら声に出して笑った。
それから緊張がほぐれたのか美樹はいつものようにニコニコしながら、お喋りをして、皆が創り出してくれている光の上を一緒に進んだ。




