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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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頂き

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


香たちが三井津岬の大岩にいた頃。

西龍寺では――

揺れこそは感じなかった。

が、ゴォーという音が境内に響き渡り、木々から一斉に鳥が羽ばたく。

護摩堂で訪問客の応対をしていた龍応は、不安がる客を宥めていた。

にわかに、滝音が聞こえたと思ったら、眼前に虹が架かっていた。

歓声を上げて虹の写真を撮り出した客に、

「ごゆっくりお過ごしください」

そう声を残し、お母屋へと向かう。

いよいよ始まった。

ただ、これからどうなるのか予想はつかない。

境内には数組の客や関係者に扮した同志がいる。

母屋に入ると電話が鳴り響いていた。

「はい、西龍寺。不破でございます」

「もしもし川勝です……先程、例の洞窟から水が流れました」

「なるほど」

「行きどまりの洞窟だった事を考えると。いずこかへ通じる道が開いたのかもしれません」

「周辺の警戒をお願いします。後ほど姫巫女様たちがそこを訪れるでしょう。そうすれば、恐らく最後の封印が解けて、何を成すのか分かると思います」

「了解いたしました」

「それと、あなたは私のスマホに連絡してください」

「分かりました」

龍応は日中、寺にいる間はスマホを手にしない。

流石に今日は例外だった。

電話を切ると見計らっていたかのようにベルが鳴る。

「もしもし、大内です」

「はい、お疲れ様です」

「今、姫巫女様を乗せた早川さんの車がそちらへ向けて出発しました」

「分かりました」

受話器を置くと、龍応は台所に行き麦茶を一杯飲んだ。

もし、姫巫女様たちの命が危ういと感じた時は一命を賭してこれを守る。


        ◇


西龍寺の駐車場に着くと土曜日という事もあるのか、10台以上の車が止まっていた。

「ここからは、山道で断崖絶壁の道も歩くけど大丈夫?」

啓助が後部座席を振り返ると、香と美樹は伏し目がちにコクリと一緒に頷く。

表情まで揃えて答える二人を見たら、心がいくぶん和らいだ。

「そういうお兄ちゃんが、一番怖いんでしょ?」

図星の心境を茶化して言う舞に、啓助は正直に答える。

「うん、それはほんと……」

そして、香と美樹に、以前、舞の捜査の時に洞窟手前の断崖絶壁を目の当たりにして、断念したことを説明した。

二人は口を開け、ジトっとした目でこっちを見つめている。

なぜそういう目をされるのか?

あの場所に行けば皆も分かってくれるはず。

「今日は、頑張りますよ。任せておいて……そしたら行こう」

啓助が車を降りて歩き出すと、三人の女性は笑い声と共に着いてきた。


車で登って来た山道を歩いて少し下り、遍路道の案内がある木を目印に山へと入る。

途中から道を逸れ木々の間の道なき道を進む。

やはりクモの巣に一喜一憂する啓助に、香と美樹がその都度助勢してくれた。

その挙句、二人が先頭を歩き始めた。

その様子を見ていた舞が啓助の肩をポンポンと叩き、ニッコリ笑いながら追い越して行く。

結局、最後尾になった啓助。

そして、斜面を登り始める前に一息ついた。

「暑い……」

美樹はペットボトルをほっぺたに当てている。

「ここから少し登ったら、崖沿いの道に出るんだ。そこを進めば洞窟に着く、あとちょっとだぞ!」

啓助は威勢よく片手を挙げた。

「啓助さん元気ですね」

香はペットボトルを飲みながら横目でこっちを見ている。

「香ちゃん、ごめんね。お兄ちゃん緊張してるんだと思う」

「あ、ごめんなさい」

「あと、ちょとや」

美樹が片手を挙げて叫ぶと、香と舞も片手を挙げてはしゃいでいる。

その様子を見て、「よし」覚悟を決めた啓助は立ち上がり斜面を見上げた。

「じゃあ、行きます」

声と共に一歩を踏み出す。

ジグザグに上り始めると左側の斜面が徐々に無くなる。

そして崖へと姿を変えていき岩壁の前の道に出た。

大きなため息をつき、額の汗を拭う。

後は目の前の崖沿いの道を進むだけである。


「みんな気を付けてね」

振り返ると、六つの心配そうな瞳がこちらを見ている。

啓助が笑って見せると、三人は苦笑いをしていた。

出来るだけ前を見て脇や下を見ないように、岩壁に体をこするように進む。

「思ったより、全然平気やね」

「そうやな……もっと怖いかと思ったんやけど」

香と美樹の声が背中に突き刺さる。

これが怖くないの?

高所恐怖症ではないが。

こんな所、一生に一度も歩かない人は歩かないだろう。

無駄な力が足に入っているのか、筋肉が強張っている。

やっとの思いで洞窟の入口が見えると、啓助はそこに倒れ込むように入った。

地面は水が流れたようで湿っている。

よしよしよくやった。

岩壁に手をついて呼吸を整える。

「大丈夫? お兄ちゃん?」

最後尾を歩いてきた舞が心配して声を掛けてきた。

「ああ、当たり前田のクラッカー」

啓助が親指を立てて答えると、

「ハハハ、店長と同じこと言うてる」

美樹は手を叩いて喜んでいる。

啓助はウケたことに驚きつつも、この洞窟の説明をした。

「よし、この奥は行き止まりの筈なんだ、でもきっと……」


その声に香は黙って頷くと、

「美樹、行くよ」

香は美樹と手を繋ぐと、ライトを片手に歩き出した。

10メートル位で行き止まりの筈が洞窟は奥へと続いている。

啓助は眼鏡に写真を見せて貰っていたから余計に驚いた。

とは言うもののこの二日間で免疫ができたのもあるし。

もう塞がれていないんだろうなという予測も出来ていた。

そこは金属のような物で覆われた通路のようで、緩やかに真っ直ぐ上っている。

輪切りにしたらΩの形のようになるはず。

床の中央には数センチ幅の光の筋が一本走っていて。

その淡い光が一直線に先へと伸びている。

そのお陰で幾らか明るく互いの顔は分かった。

向かう先には、小さな光の点が見える。

出口だろうか?

前を行く香と美樹の足取りは軽く黙々と歩いている。

「なんかアニメに出てくる宇宙船の通路みたいだな」

啓助は感想を独り言のように呟いた。

「何だろう? この材質? 神宝と同じかな?」

隣を歩く舞は側面を手で触れながら歩いている。

やはりというか、不思議というか通路の中は涼しい。

どれくらい歩いただろうか、やっと着いた光の点だった場所には日が差し込んでいる。

「香ちゃん待って、俺が先に行く」

啓助は前を行く香の肩に軽く触れると、追い越して前へ出た。

ライトを消して、ゆっくりと目を慣らしながら緩やかな傾斜を伴った通路を出る。

床面だけは外に出ても続いていた。

傾斜がない開けた場所に六角形の形をした部分に繋がっている。

車が二台ほど止められる広さで、光沢のある床面には空が映し出されていた。

周辺は木々に囲まれ、蝉の鳴き声が四方から聞こえる。

ザワザワと枝葉が風に音を立てるが人の気配はなさそうだった。

ここから通路の出口を見ると、土が盛り上がった所にある。


「大丈夫そうだ……みんあ、来ていいよ」

その声に香、美樹、舞の順で通路から出て来る。

「何だろうこの床?」

香の疑問はここにいる全員の疑問でもある。

でも、どっかで見たような形だな………

どこだったかな……

その時。

「ん?」

「あ?」

「え?」

香、美樹、舞が順番に声を上げた。

「みんな何か分かった?」

啓助が尋ねると、全員が頷く。

「じゃあ、一人ずつ答え合わせしてみよう。そうしたら美樹ちゃんから」

「瀬田神社のお堂と同じ六角形やなって思ったん」

「私も……」

香が片手を挙げた、舞の顔を見ると、

「うん、私もだよ」

小さく片手を挙げている。

「俺もそう思った」

「という事は……ここが舞台?」

香の言葉に頷くと、啓助はスマホを出して位置を確認する。

「ここは……麻霧山の山頂だね」

「そうなん?」

美樹は大きな目を一層見開くと、スマホを操作し始めた。

「これで場所が分かった。時間は恐らく深夜。半月が昇るのが0時位だから……」

腕組みをしながら話す舞の言葉に、

「下弦の月……」

香が小さく呟いた。

「そう、下弦の月なんだ、あぁそうだ……」

舞は香と美樹に昨日導き出した、時間についての考察を説明している。

しかし深夜にここに来るのは、なかなかに大変そうだ。


舞の話が終わると啓助は疑問を口にした。

「けどでも。またここに深夜に来なくちゃ行けないのか……かといってここで過ごすのも……夜にあの崖の道は危険だろ? 登山道を使うのか?」

「そう……だね、少し歩くけど……」

「舞さん深夜って何時位なん?」

香の問いに、舞は一瞬躊躇いの表情を見せたが話し始めた。

「確実な時間は分からないんだ、色んなヒントから推察すると3時位かな……」

「でも、3時やったら日付が変わって、次の日になってしまわんの?」

「美樹ちゃん、いいとこに気が付いたね。でもね、昔の暦だとね日没が一日の始まりなんだ」

「そうなん?」

「太陰暦って月の満ち欠けで暦を作っていたの。ややこしいけど、今日の日没からが香さんの誕生日になる。そうじゃないと下弦の月とピッタリ合わないでしょ。だから問題ないと思うよ」

香が首を傾げていので、啓助は問い掛けた。

「香さんどうしたの?」

「あっ……えーと、夜中に来れるんかなって? 西龍寺は17時に山道閉めてしまうから……」

「香さん、それは大丈夫。ご住職も協力して下さるし」

「あ、そうか、そしたら夜に集合し直しませんか?」

「そうだね、じゃあとりあえず、登山道で西龍寺へ戻ろうか」

啓助の声を合図に登山道を目指し歩き出す。

後ろを歩く美樹がスマホを片手に舞台の方を指さして香に何か伝えていた。

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