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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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大切    7月22日土曜日 9日目

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


7月22日土曜日 9日目

昨日の夜。

舞からメッセージがあった。

今日の調査は三井津岬の大岩と西龍寺近くの洞窟の二か所だけ。

だから12時30分に家に迎えに行くと。

香が気になっていた、タイムリミットの事に関して。

会った時に詳しく話すけど。

時間には余裕が出来たから大丈夫だと思う。

だから、ゆっくり休んでねと返信が入った。

そのお陰もあって、今日はここ数日の早起きから解放されて9時に目が覚めた。

しかし、舞さんは落ち着いているというか。

前向きというか。

香は自身なら、例え理由が分かっていてもソワソワしてしまう。

それにしても、昨日も色んなことがあった。

香は部屋に飾ってある絵と。

目の前であくびをしながらクッキーを頬張っている美樹を見て。

テーブルの上のクッキーを一つ摘まんで口に放り込んだ。

兎にも角にも美樹が無事だった事が何より。

こうして目の前に美樹がいてくれる当たり前に感謝していた。

「これも、お揃いになったん」

美樹はペンダントの朱い勾玉を顔の横に摘まみ上げて嬉しそう。


そんな美樹に香は心の中にある一つの想いを打ち明けようと思っていた。

「なあ、美樹?」

「ん?」

美樹は勾玉のペンダントをTシャツの中に仕舞い顔を上げて小首を傾げている。

「私達が小さい時に、うちのお婆ちゃんが教えてくれた歌と踊りって覚えてるん?」

「ああ、まあるいおひさま、おつきさま……やろ?」

美樹は体を揺らしながらリズムを取って口ずさんだ。

「たぶん、今日それを踊るんやないかって……思うんやけど、どう思う?」

「今日? 神舞ちゃうん?」

「小さい時な、その時が来たらお山に入って神舞を舞うんやって、お婆ちゃん言ってたんやけど、教えてくれた踊りが、本当のって言うたら可笑しいんやけど、神舞やないかって思ったんよ……」

「どして?」

「思い出したんやけど、私な、お婆ちゃんにこう言ってたん。神舞はお婆ちゃんに教えてもらったから踊れるよって。でもお祭りの時の神舞は私達が巫女に選ばれた今年の4月から、ほぼ毎日練習したやつやんか」

「なるほどな……あ、うちな昨日勾玉を触った時、パパパパって色んな記憶が出て来て、そん時に香のお婆ちゃんに教わった歌も出てきよったわ……」

美樹は両手を顔の横でグーパーしながら話すと、人差し指を顎に当て宙を見た。

香は美樹の話を聞いて、勾玉自体に母が言う様な巫女の力を抑えるよりは、力を引き出す作用があるような気がしている。

「そん時、なんか沢山フラッシュバックしたんやけど、香のお婆ちゃんの教えてくれた歌の印象が強すぎて、他の事はなんも覚えてないんよ」

「そやからな美樹、ちょっと一緒に踊ってみよ」

美樹は小刻みに頷くと立ち上がり、香も腰を上げた。


そして、二人でテーブルを部屋の隅に運び、空いたスペースの部屋の真ん中辺りに向かい合った。

「香、北ってどっちなん?」

「美樹、覚えてたん?」

「えへへ、昨日思い出したん」

美樹は人差し指で自分の頭を突いている。

香が美樹の絵が飾ってある壁の方だと教えると、美樹はピョコンと向きを変える。

「最初は胸の前に手を合わせて、うちは左手を前に出す。ここから歌が始まるんやったな……」

「うんうん、そうやん」

「そして左手を出したまま、右肩を下げて左回りに一周やったな……そう言えば……」

動作を確認するように動いていたが、その途中で美樹は大きく口を開けてこっちを見ている。

するとニコリと笑い。

「香、間違いない。この踊りがほんまの神舞やで、思い出してみ。うちら二人で香のお婆ちゃんに踊りを教わった時、香は右手に、うちは左手におもちゃの棒やら、鉛筆持って踊ってたやん」

得意気に両手を腰に当てている美樹。

香の脳裏に、その頃の記憶が甦る。

そうだ……

一人の時は歌って踊るだけやったけど……

美樹と一緒にお婆ちゃんの前で踊る時は、鉛筆もそうだし、スプーンとか棒状の物を握って踊っていた。

「ほんまや、そうやった。それが神宝なんや……」

香は机の引き出しから、ボールペンを二本取り出して、一本を美樹に渡す。

それを受け取った美樹は気を付けをして微笑む。

「そしたらやってみよう」

北に当たる壁の方を向いている。

「じゃあ、せーの」

香の掛け声と共に、歌い踊り始める。


それから、小一時間ほど何回も繰り返し踊った。

「さすがうちらやな……覚えてるもんや」

「うん、そやね」

美樹は息を整えながら、

「あっ……」

声を上げるとニヤっと笑う。

部屋の隅に置いてあるバッグの前にしゃがんで何かを取り出している。

美樹の陰で見ないが、それを胸に抱えているようだった。

そして、こちらを振り返りニコニコ笑っている。

「どしたん?」

香の声に美樹は背を向けたまま立ち上がると、抱えていた物を後ろ手に隠し持って笑顔のまま近づいて来る。

「香、お誕生日おめでとうさん」

美樹は上手に背中に隠した物を香の前に差し出した。

それはB5サイズ位の大きさの額縁で裏面を見せている。

それが香には美樹が描いてくれたイラストだと分かった。

「ありがとう」

香がそれを受け取ると、美樹は笑顔のまま、見てと顎を突き出している。

額縁をひっくり返し顔の前に持ってきた。

「わあ」

思わず声が出る。

向かい合う二人の巫女が舞を舞っている。

巫女のシルエットが何気にハートの形を描いていていて、巫女は神舞の衣装と同じ配色で一人が白、一人が赤と黒。

舞台は夜の凪の海。

その海から水が一筋、左の白い衣装の巫女の横を通り星空へと弧を描き、星空の真ん中には半月が下半分だけ輝いて笑っているように見える。

半月が口なら、その上の目に当たる星の一つからは、流れ星のように一筋の光がもう一人の巫女の横を弧を描きながら海へ走っている。

空には蝶や鳥、テントウムシ、トンボなどをデフォルメした星が煌めいていて。

足元の観客には猫、犬、魚、鹿、猿、亀などのこちらもデフォルメされた動物たちが巫女を見つめている。

水と流星の弧の外側には白い線が放射状にあって。

その筋が天使の梯子のように見えた。

空の濃い青に比べると、海のが若干明るい青で境目に行くにしたがってグラデーションが掛かり境界線が分からなくなっている。

「美樹……凄い嬉しい……宝物が増えたん、ありがとう」

「えへへ、間に合って良かった」

照れ隠しに鼻の下を人差し指の甲で擦っている美樹に微笑みを返して、香はもう一度絵を見た。

美しいし温かい絵。

『あの子の魂は人に安らぎを与えるん』

お婆ちゃんの手紙に書いてあった通り。

ほんとだね。

傍にいてくれるだけで素晴らしい事なのに。

「美樹の才能やね、ほんまありがとう」

香は額ごと美樹を抱きしめた。

「うひゃ」

美樹は変な声を上げていたが、嬉しくて嬉しくて、有難くて、心の奥底から感謝が沸き上がる。

やがて美樹も香の背に手を回して。

「嬉しいよ香、ありがとうさん、うちも嬉しい」

少しの間抱擁すると、どちらからでもなく肩を揺すり出し声に出して笑い合った。


         ◇


舞の荷物が通常の倍になっていて片付けるのに骨を折っている。

しかし女性は荷物が多いんだなと。

感心半分。

呆れ半分。

啓助が舞の作業を眺めながら、服を畳んでいるとテーブルの上のスマホが鳴る。

着信は眼鏡からだった。

「はい、早川です」

「あ、おはようございます」

イケボに耳が喜んでいる。

「おはようございます」

「取り急ぎ報告をと思いましてね。例の大岩のお地蔵さんですが、あそこでお祀り出来るようになりまして」

「それは、凄いですね。ありがとうございます」

「いやいや、ただね、どういう風にお祀りするかというか……コンクリートで固めてしまうのは簡単ですけどね……色々、試行錯誤してます」

「ああ、なるほど」

「それと、あれから色々調べて、面白い事が分かったんです。それをね、私も先生に倣って、本に纏めよう思っとりまして……もちろん舞さんの体験は書きませんよ」

「それはいいですね、出来あがったら是非読ませてください」

「勿論です、一番は啓助さんと、舞さんって決めてますからね。ところで啓助さん達は明日、東京にお帰りでしたっけ?」

「ええ、そうです」

「そうですか……用事があって、見送りには行けんけど……何ちゅうか、ありがとうございました。不思議なご縁を頂いて感謝してます。お二人に出会えて楽しみが出来ました。また機会があったら島に遊びに来てくださいな」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます。畑さんや須佐さんには感謝してもしきれない……良かったら連絡下さい」

「アハハ、嬉しいなぁ、ありがとうございます。じゃあ遠慮のう連絡しますわ」

電話を終えると、啓助は眼鏡とお地蔵さんを運んだり、結界について話し合った瞬間、瞬間が甦り、スマホに向かって頭を下げていた。

「お兄ちゃんのそういう所、変わらないね」

舞を見ると、こちらを見て微笑んでいる。

「どういうところ?」

「人に感謝できるところ」

「そうかな? お世話になったし、当たり前だろ?」

「そうだけど……お婆ちゃん子の名残かな?」

舞は、また笑っている。

そして片付けを再開した。


確かに祖母からは、ありがとう、ごめんなさいの素直に言える人間でいなさいと言われていた。

それは舞だって同じはずである。

「あっ、ボイスレコーダがあった……」

「ん? どうした?」

「うん、須佐さんと畑さんの所に伺った時に録音してたんだ。聞きながら片付けてもいいかな?」

「いいよ」

そう言えば、初めて達磨と眼鏡に会った時、舞が二人を訪問した際に会話を録音していたと話していた。

――この場にはいない達磨と眼鏡の声がする。

挨拶から始まり、夕凪島について質問する舞に達磨と眼鏡は楽しそうに返答している。

結界に関しては、三人であれやこれやと議論を交え喧々諤々しているのが面白かった。

舞は後世に何かを伝えるとしたら、どのようにして残しますかと問い掛けている。

達磨は書物か象徴的な建造物を残すと答え。

眼鏡は物語を口伝えで残す。

例えば昔話みたいな簡単な話が効果的ではと答えていた。

感心している舞に、達磨と眼鏡は逆に同じ質問を投げかけている。

舞は狡いですけど、そう前置きをすると眼鏡と達磨両方の案を採用するという。

文明の利器がある前提ではなくて。

それがないと仮定した場合。

須佐の言う建造物は自然に形成されている物を利用し、眼鏡の言う口伝や昔話という二段構えを使うと答えていた。

そして、達磨と眼鏡は重岩かさねいわと愛媛の石鎚山のレイラインの話をして、それを繋いだ線上に何があるか、啓助にしていた同じ質問を舞に聞いていた。

舞はあっさり善通寺と答え、達磨と眼鏡は驚きつつも喜んでいるようだった。

終始和やかな雰囲気で、会話が途切れる事は無い。

「もうこんな時間ですか、残念やけど、これから取材がありましてな」

達磨の名残惜しそうな声がする。

「取材ですか?」

舞の問いに眼鏡が答え始めた。

「はい、この島のレイラインを含む財宝伝説や秘宝伝説についてやったかと思います」

「そういうのもあるのですか?」

「真偽の程は定かではありませんがね、ガハハ」

達磨の豪快な笑い声だ。

その後、挨拶をして録音は終わっていた。


その取材の男が探っているのは財宝や秘宝なのか?

そうすると狙いは神宝かもしれない。

いや止めだ止め。

啓助は思考を打ち消した。

「あの取材の人が結界を探っている人の一味なのよね……」

それを嘲笑うが如く舞が口を開く。

「うん……そうだね」

「狙いは何なのかしら? 神宝? それとも香さんの能力? 私達が知らない何かかな?」

舞の作業の手が止まり、思考の旅へ出ようと視線を宙に投げ掛けている。

「でも、あれだよな、宝樹院の龍順住職も川勝さんも西龍寺のご住職と同じように巫女を守る一族な訳だろう? それも凄いよね」

「あぁ……そうだね。代々見守って来たんだよね」

「それと、やっぱり舞は歴史の話をしている時は楽しそうだな、それに達磨と眼鏡も、楽しそうだった」

「まあそうだね、実際楽しいし。それに、あの先生方は偉ぶった所とか、自分が絶対正しいみたいな凝り固まった思考の持ち主じゃなかったから、話し易かったし、うん何より楽しかったな。あぁ、お兄ちゃんさ、いい加減止めなよ、あだ名で呼ぶの……」

「ん? 分かった。気を付ける……」

思わぬ反撃を受け、啓助は自身の片付けが終わったので舞の作業を手伝う。

「そうだ。大事な事忘れてた。あとね、今更なんだけど、今日さ香ちゃんの誕生日じゃない? それに美樹ちゃんの誕生日は来週でしょ、何かプレゼントしたいんだけど何が良いかな……」

「ああ、今から何か買うってなってもな……遅れてもいいなら東京帰ってから何か送るか?」

「うーん……それもいいと思うんだけど……そうだ、お兄ちゃんカメラ見せて」

「ん? ああ、いいけど、寒霞渓で撮った写真なら二人にデータあげたよ」

「フフフ、可愛いのがあるじゃない」

舞にカメラを手渡すと、モニターに見入っている。

「お兄ちゃん、プリントアウトできる?」

「ここでは無理だけど、そうだな……プリントサービスがある所調べてみようか?」

「ありがとう。お願いします」

舞はこっちに向かってペコリと頭を下げていた。

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