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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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まだあったって。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


お線香を一本取り出し火を着けて。

線香立てに供えると漂う匂いが心を和ませる。

香は居間の仏壇に手を合わせて美樹の無事を報告した。

「お婆ちゃん、お爺ちゃん、お父さん、お姉ちゃん、ありがとう。美樹大丈夫やったよ。ありがとう」

すると百合の花びらがポトリと畳の上に落ちた。

「へ?」

香はそれを拾い上げると、襖を開けて祖母の遺品の入った収納ケースを引っ張り出した。

手紙は全部読んだはずだった。

祖母が何か伝えようとしているのは何となく分かったような気がしている。

何か忘れている事があるのか?

見落としていることがあるのか?

文箱を取り出して中を見る。

封筒の束は古い順に纏まっていて香が整理したままだった。

それ以外は万年筆が入っている仕切りの部分があるだけ。

首を傾げて万年筆を取ってみる。

使ったことがないので、分からない。

仕切りに置いた――

あれ?

封筒を置くスペースと万年筆が置いてある筆置きのスペースの底の高さが違う。

封筒の方が底が深い。

筆置きのスペースを持ち上げてみた。

しかし持ち上がらない。

中身を全部取り出して、文箱を持ち上げて側面や底を見てみた。

んー……

手でも触ってみる。

筆置きのある箱の外側の側面の一角に僅かに溝があった。

そこを横にずらすとスッと動いた。

それを端まで動かすとカチッと音がした。

「ん? なに?」

音のありかを探して文箱をひっくり返した時。

筆置きが、ぼとっと畳の上に落ちた。

急いで文箱を元に戻すと、筆置きの抜けたスペースに動かないように四方を固定された封筒が置いてあった。

それを取り出すと筆置きを文箱に戻した。


封筒の宛名は墨で『香へ』と書かれている。

裏の封は開けられた痕跡はなく〆の文字がくっきりと分かる。

ハサミ!

香は祖母の遺品を押し入れに片付けると、手紙を持って自室へと駆け上がった。

机の引き出しからハサミを取って封筒の端を切って中の手紙を抜き出す。

それを手にベッドに腰掛けて読み始めた。

『香、これを読めたという事は、お婆ちゃんが小さい頃にした話を覚えていてくれたんやろな、それとも思い出したか? そうそう、香とよくした遊び覚えているかい?』

書かれているのはそれだけであった。

ただ、折り畳まれた紙はまだある。

もう一度読んでみる。

よくした遊び?

なんやろ?

お話を聞かせてくれた。

童歌や踊りを教えてくれた。

一緒に遊んだ?

……ん?

ざわりとする紙の感触がそれを思い出させた。


香は手紙を持って部屋を出ると階段を下りて台所へ駆け込んだ。

ガスコンロに手紙をかざす。

すると、みるみる文字が浮かび上がってきた。

やっぱり、あぶり出し。

祖母と内緒のお手紙ごっこしていた。

単純に文字が湧いて出てくるのが純粋に楽しかった。

すべての手紙のあぶり出しが終わると、火を消して自室へと戻る。

ちょうど風呂から出て来た母親が不思議そうに声を掛けてきた。

「どうしたん?」

「後で母さんにも教える」

部屋に戻りベッドに腰掛けて続きを読んだ。

『香、これを読めたという事は、お婆ちゃんが小さい頃にした話を覚えていてくれたんやろな、それとも思い出したか? そうそう、香とよくした遊び覚えているかい?』

この後は……

『よう出来たね香、あんたはいい子や』

お婆ちゃん……

よくそう言って頭を撫でてくれたのを思い出した。


『これからここに書いてある事は誰にも言うたらあかんで。

幸にも、美樹ちゃんにもな。どうやろ? 

手紙を読んでるんが先か、いやきっと、もう一人の巫女にも会えて、封印も解けて、あの子達、神様にも会うたんやろな。

そこまでは婆ちゃんにも見えたんで、美樹ちゃんがもう一人の巫女やっていうのは知っとった。

あの子の目を見た時な香と同じ魂やったから。

香も美樹ちゃんも、ほんに小さい頃は色んなものとお話ができよったん。

木や花や動物や人形や虫やコップとかな。

香はもう知ってる思うけど、本当はな、お姉ちゃんがいたんや。

双子やった言うことや。

残念な事にお姉ちゃんは生を受ける事のう旅立ってしまった。

嫌なことを言うかもしれんけど、それも婆ちゃんは分かっとったんや、でもどうする事も出来んかった。

そやから婆ちゃんはもう一人の巫女の魂を探した。

島に香と同い年でいる筈なんや。

それは言い伝えでな、幸には言うとらんのやけど。

双子の巫女が世に出る時、世に異変これありき、神の巫女、山に入りて祈り舞給う。

神下し世に人の何たるか身を持って示せ、分けわからんやろ?』

フフフ、確かにわからんね。

『一週間後に跡部さんとこに美樹ちゃんが生まれた。

仕事柄付き合いが長いから、生まれて間もない美樹ちゃんに会ったとたん。

この子やって分かった。

そやからよく二人で婆ちゃんと一緒に遊んだやろ?

いかんな。話したいことがありすぎて脱線したな。

香、大丈夫かい?

特別なお力を頂いて悩むこともあるやろ。

婆ちゃんやって巫女の血筋の話を親から聞いた時。

信じられんかったしな、信じたくもなかった。

人のあれこれ感情までわかってしまうんやから、そんな自分に疲れた時な、ある人と出会った。

その人を見た途端、この人は死ぬ気やなそう思ったん。

気が着いたら声を掛けていた。

彼女は不意に泣き出して。

何回もありがとう、ありがとうって言うてくれたんや。

それで婆ちゃんは救われたんよ。

何せ婆ちゃんも死のう思ってたん』


お婆ちゃん……

ああ、その人は国江さんの事や……

そやから婆ちゃん大切な人って言うてたんやね……

『やからな香、力は人に感謝される事に使わなあかんよ。

そして何よりも香には美樹ちゃんがおるからな。

あの子にうちらみたいな力はない。

けどあの子の魂は人に安らぎを与えるん。

あかんなこんなにだらだら書いたら。

肝心な事を書くよ、香の18歳の誕生日。

下弦の月の夜。

お山に入り、婆ちゃんが教えた神舞を神宝を手に舞うと、私達のご先祖様がお姿を現しなる。

婆ちゃんの昔話。

覚えているかい?

そやな、一つだけ香の疑問に答えておくな』

一つだけ?

お婆ちゃんいっぱいあるねんけど……


『どうして朱の勾玉を家に伝えなかったのか?

不思議やろ?

それはな、婆ちゃんが神様と仕掛けた手品やと思っておき、かけがえのない宝物を手にした筈やから、そしたらな香』

香はもう一度読み直した。

気になるところだらけなのだが、当面の課題に触れそうな部分だけをメモ用紙に書き出した。

『双子の巫女が世に出る時、世に異変これありき、神の巫女、山に入りて祈り舞給う。神下し世に人の何たるか身を持って示せ』

『香の18歳の誕生日、下弦の月の夜、お山に入り、婆ちゃんが教えた神舞を神宝を手に舞うと、私達のご先祖様がお姿を現しなる』

世に異変ありき?

何か起こるのか起こっているの?

外国の戦争とか?

お山はきっと麻霧山。

祖母の昔話のお山は麻霧山の事だったから。

それから下弦の月?

スマホで検索して驚いた。

明日が下弦の月……

婆ちゃんは未来が見えとったんやね……

私にも見えるんかな?

……ただ実際、何を見るにも怖さが増している。

だから香自身からは見ないようにと意図的に気にかけている。

『ここに書いてある事は誰にも言うたらあかんで。幸にも、美樹ちゃんにもな』

美樹のも話したらいけんのは何で?

「もう、お婆ちゃん」

聞きたいことが、一つも二つも増えとるやん。

少し呆れて仏壇を見ていたら、

『よう出来たね香、あんたはいい子や』

お婆ちゃんの声が聞こえた気がして、力が抜けて笑っていた。


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