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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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疑念と氷解

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


路地に入るとフロントガラスの先で、家の前にいる香が背を伸ばしてキョロキョロと左右を見渡している。

こちらに気が付くと手を振って、車を寄せると慌ただしく乗り込んできた。

「啓助さん、美樹は皇踏山にいます、急いで」

懇願する瞳は様々な感情が渦を巻いているかのように震えていた。

「了解」

啓助は車をUターンさせ国道へと向かう。

路地からいつものように付いてきているステーションワゴンをサイドミラーで確認する。

あれ?

今日は運転しているのは女性で、助手席に座っているのも女性であった。

「美樹ちゃん、無事なんだ。良かった……」

啓助はバックミラー越しに香を見ると、両手を膝の上の置いて下唇を噛んでいる。

隣に座っている舞が、その手を上から握ると香は舞を見つめ微笑んでいた。

「さっき、美樹と話したんです。舞さん時みたいに……」

香が美樹がいなくなった経緯を話し出した。

レインコートの男の件は不気味だった。

ただ、京一郎という意外な名前の登場に啓助よりも舞の方が驚いてるようだった。

龍応住職が話していた結界を探る者と関係があるかもしれない。

それと、あの桜の花の髪留めは曰くがあるのでは?

って勘繰りたくなるような代物だ。

啓助を夕凪島に導く間接的な要因となり、そのお陰で香や美樹と巡り合った。

それが今度は美樹ちゃんが危険な目に合うという一役を担った。


「レインコートの男は気味悪いわね……」

舞がポツリと独り言のように呟くと、香は、あっという顔をした。

「あ、でも美樹こんなことを言ってたんです。東京から取材に来た記者さんに雰囲気というか、感じがどことなく似ているような気がするって」

「記者?」

啓助と舞は同時に聞き返した。

香はキョロキョロと啓助と舞を交互に見ると、肩をすくめて笑い出した。

「えーと、先週の神舞の日に、潮風公園で隠し撮りというか、撮った写真は見せて貰ったんですけど。よさげな写真は写真だったんです。欲しかったら差し上げますからって、名刺を貰いました」

香はショルダーバックの中から財布を取り出すと、その中から名刺を抜き出して舞に見せている。

「○○企画。ライター、福山祐介。電話番号は090-☓☓☓☓-☓☓☓☓」

舞は名刺を読み上げると、それを香に返した。

当然と言えば当然だが聞き覚えのない名前だった。

「香ちゃんその人の背格好は覚えてる?」

「ん、背は高い方かな、啓助さんと同じくらいかも。話し方とかも落ち着いていて。あとは……痩せた感じの……眼鏡をしてたかな?」

啓助はすぐに眼鏡こと畑の顔が思い浮かんだが、心の中で謝りその思考を消した。

おや?

何か引っかかった気がした。

「ああ、眼鏡のここ何て言うんかな、ここ」

香は顔の前で両手の親指と人差し指で眼鏡の形を作って一生懸命訴えている。その仕草は可愛らしく。

すぐに答えてしまうのが勿体ないように思えた。

「縁、フレームの事かな?」

「うん、それがない眼鏡してたくらいかな、覚えとるんは」

「そうか、ありがとう。その時の印象で怖いみたいなのはあった?」

「いいえ、特に……」


車は宝樹院へと続く路地に入る。

シンパクの枝葉が風に揺れているのが分かる。

数台の車が止まっている宝樹院の駐車場に車を止めて降りると、ヒグラシの鳴き声が耳に届いた。

雨水を湛えたシンパクから風と共に滴が降り注いでいる。

境内の山門をくぐるその時、啓助は思い出した。

ここで出会ったカメラマンが香達の言う記者と重なった。

待てよ……

あの時、眼鏡があの男にどっかで会ったような気がすると言っていた。

どういう事だ……?

「お兄ちゃん。どうしたの?」

舞は振り返り、目で何かあった?

訴えかけている。

「あ、ごめん」

啓助は目で合図を送り、取り合えず後にしようと思考を中断した。

境内の裏手から伸びる山道を登り始めようとした時。

香の母と美樹の父親。

それと龍順住職が山道を下って来ていた。三人とも無言で肩を落として消沈しているように見える。

「あれ? 香……それに早川さんまで」

こちらに気づいた香の母の言葉を皮切りに各々自己紹介をする。

そして、香が状況を説明した。

美樹の父は首を傾げるばかりであったが、龍順住職は穏やかな笑みを湛えて話を聞いていた。

啓助の勘は、この人も香さんの秘密を知っている。

龍応住職の仲間だな、そう告げていた。


       ◇


そして六人の一行が洞窟に着く頃には、空は黄昏てきた。

香と啓助を先頭に中を進むと、そこにあった筈の階段は無かった。

香は首から二つのペンダントを外して白と朱の勾玉を握りしめ目を閉じた。

「美樹? 来たよ」

「あ、香……」

「今から行くから待ってて」

「分かった」

目を開けると下へと続く階段がそこにあった。

「行きましょう」

香は啓助を見上げて、前へ歩き出す。

後ろの親たちは驚いているようだったが、構わずに階段を下りた。

タッタッタッ……

階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。

「香ー!」

涙声の美樹は香に抱き着いてきた。

後ろで美樹の父親が安堵の声をあげている。

「良かった、美樹が無事で……」

「うん、ごめん香……ごめんねみんな……」

香は美樹の頭を撫で両腕を掴んで抱擁を解く。

「やっと会えたね、もう一人の巫女さん」

美樹の潤んだ瞳に囁いて、おでこを指でつついた。

「へ?」

小首を傾げている美樹に、香は朱い勾玉のペンダントを顔の前で見せると、美樹の首にかけた。

「紐は私の家にあった適当なもんやけど」

美樹はぶら下がる勾玉を手に取って不思議そうに見ている。

「香さん、ここじゃなんだから戻りませんか?」

啓助の声に香は美樹に手を差し伸べた。

「そうですね、行くよ美樹」

「うん」

洞窟を出ると木々の間には天の川がクリスマスツリーの飾りのように瞬いている。

冷え切った美樹の手と香の手の熱が同じ温もりになっていく。

繋いだ手を離すことはあっても、心にある感情は決して離れたり無くす事は無いと香は誓っていた。


        ◇


宝樹院の境内まで帰ってくると、美樹の母らしい女性と西龍寺の龍応住職が待っていた。

そして龍順住職の計らいで寺務所で休むことになった。

恐らくは美樹の両親に二人の住職から美樹の事について話があるのだろう。寺務所の大きな居間に案内されると、案の定、美樹の両親は、二人の住職と香の母を交えて話し出していた。

啓助達は居間の隅のテーブルに集まった。

「なあ香、うちが巫女さんってどういうことなん?」

腰を下ろすや否や、美樹は朱い勾玉を手に取ると隣に座っている香に問いかけた。

「うん、それはね……」

香の説明を大きな目を時に見開いて美樹は頷き聞いている。

「でも、うち香みたいな力はないやん」

美樹の質問に、香はこちらを向いた。

「それはね美樹ちゃん、力があるとか、ないとかそれが関係あるのか分からないけど。美樹ちゃんは間違いなくもう一人の巫女さんだと思う。もしかしたらこれから香さんみたいな力に目覚めるかもしれないし、違った形で何かの能力があるかもしれない」

その言葉に美樹はゆっくり頷いている。

啓助は続けて声を潜めてレインコートの男の事を聞いてみた。

「あぁ、ただ福山さんに雰囲気が似てる感じで、でも声は全然ちゃうかったし、眼鏡もしてなかったん」

「そうなん?」

香が驚いて聞き返している。

「レインコートの人は福山さんよりは高かったん、声……」

美樹はその時の様子を思い出したのか、身震いをすると、小さくため息をついた。

「でも、あの雨の中に山道に居たという事は、色々考えると洞窟に行った可能性が高いと思うんだ。どうしてそこに行ったのか? 結界について何か知っているのかも……」

舞の話の途中で、龍順住職の奥さんが飲み物を持って来て下さり、一人一人に丁寧に声を掛け、

「いつでも遊びに来てくださいね」

優しく微笑むと、住職達の輪にも飲み物を出しに行った。


        ◇


香はテーブルに置かれた、可愛らしい焼き物の湯飲み茶碗を手に取り口を付けた。

「まあ、とりあえず、美樹ちゃんが無事だった訳だし、それがなによりじゃないか」

啓助は舞の肩をポンと叩くと優しく語りかけている。

「そうだね、フフフ」

舞が突然笑い出した。

「舞さんどうしたん?」

「あ、あのね……」

舞は言い掛けて、啓助の顔をチラッと見て目が合うと、二人でニヤけている。

「美樹ちゃんがね、もう一人の巫女さんだって確信が持てた時、嬉しくて二人して泣いちゃったんだよね」

はにかみながら舞は言い、啓助は恥ずかしそうに頭を掻いている。

そんな二人を見ていたら自然と香も笑っていた。

「どうして? そんな風に言うてくれたら嬉しいやん」

微笑みながら、ポロポロと涙を流す美樹の手を香はそっと握った。

「それとね、これはね私の推測だけど……」

舞は腰を上げると、美樹の隣に座りなおして背中を擦りながら話し始めた。

飽くまでも推測だけどと前置きして。

神宝が封印されていた結界は二人の巫女が訪れて、はじめてその結界が解けるというものだった。

銚子の滝の洞窟は白と朱の勾玉が揃っていないと解けない。

寒霞渓の縄文洞窟は最初の鏡が顔認証か瞳孔認証に近い機能を持っていて。

香さんが鏡を見る前に美樹が覗き込んでいたこと。

皇踏山の洞窟は音声認証が行われていたという事。

二人が揃って、その場所へ行かないと全ての神宝は手に入らない仕組みになっていたという。

香は舞の話を聞きながら、どうしたらそんな発想が出来るのか?

また誰がどうしてそんな仕組みを作ったのか?

気になっているのと同時に一つの疑問が氷解した。

「そうなん?」

美樹は首を傾げていて半信半疑のようだったけど、タオルで涙を拭いていると、何か思い出したのか喋り始めた。

「ああ、でも確かにうちが鏡を覗いた時、上手く言えんけど目がおかしくなったんよ……」

きっと、その時もしていたように瞼を小刻みに動かしている。

「舞さんの言う通りだと思う。だから最後の洞窟で浮かび上がった文字が『汝ら』って複数形だったんよ」

「ああ、すごい香ちゃん、うんうんそうだよ、それまでは『末裔』だった文字が『汝ら』になっていたのも二人の巫女ということだよね」

「これで、もう一人の巫女は分かったから、後は……」

「明日、最後の結界を解くだけ……」

舞が言い掛けた時、ご住職達の話が終わったようで解散となった。

「後で、連絡するね」

別れ際、舞は手を振りながら運転席に乗り込んでいた。

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