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90/120

90魔王降臨・・・違います。




 美味しい焼肉を頂きながら、その後の話しで盛りあがり合併された元大手企業のビルの話になった。



「なんでもぉ~ うぃッく。


 落雷でぇビルの屋上の野外ビジョンと元会長の銅像が壊れちゃってぇ〜、ヒック。

 

 それからどんどん株価が暴落したらしいんでしゅよぉ~」



 出された果実酒の瓶をがっちり片手で抱え込み、勝手に手酌を始める里奈。



 「アレも~、じぇったい皆んなでしょお?


 何で誘ってくんないかなあ~~ つめたぁ~い」



 酔っ払って口を尖らす里奈はちょっと絡み上戸っぽい。


 それを見てゲラゲラ笑うアジェスは間違いなく笑い上戸だろう。



「だって、オメー大怪我で入院してたから仕方ねーじゃん。


 無理だってぇ」


「でも最後までお付き合いしたかったッすよ。


 なんてったってソフィアしゃまはぁ、わらしのガチ推しでしゅからぁ♡」


「まあ、アレは偶々なのよ~」



 デザートのプリンをスプーンで掬いながら口に運ぶソフィア。


 彼女はあまり酔ってない―― 実はザル。



「そうそう。


 たまったま、だよなぁ~。


 野外テレビにさぁ、元上司と社長だっけか?


 記者会見の映像が写ったんだよぉ、判るかリナ?」


「ほほう・・・ うん?」


「そしたら何つったか忘れたけどそいつらの名前をソフィアが口にしたら、魔王が降臨した。


 ギャハハハハハッ」


「え?


 魔王って?」


「俺だ」



 声の主はシルファ。


 大変珍しい不貞腐れ顔である。



「俺以外の男の名前を呼ぶのは許さんとか言っちゃってぇ~、あのテレビぶっ壊しやがったのょコイツ」


「げぇっ?


 あの屋外用LEDビジョン?」



 ――確か縦横5m以上はあったような・・・



「そうそう、一瞬で画面パア。


 でビル全体は停電して地上大騒ぎでさぁ~、もうついでだからって身体強化したソフィアが会長の銅像をパンチで破壊しちゃってさァ~~


 ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」



 突っ伏して笑うアジェスを見ながら、酔った頭で言われたことを整理する里奈。



 ――つまり、恋人が他の男の名前を呼ぶのが嫌で巨大LEDビジョンをぶっ壊した男と、そのついでだからと銅像をパンチで壊した女がこの国の将来の国王夫妻?・・・



「楽しショウで、いいレシュね~ さいっこう!


 グレーン王国ばんじゃいッ!


 ソフィアたんばんじゃいッ!!」



 両手で万歳三唱を始める里奈。



 ――因みに大酔いで万歳三唱は更に悪酔いするので良い子は真似しないように!――



「駄目だコイツ目茶苦茶酔ってる、ぶッククククッゲヘッ息ッ!」



 笑いすぎて酸欠気味のアジェス。



「二人共、酔い過ぎだッ!」


「もう仕方ないわね~、あああっそこに寝ちゃだめ・・・


 遅かった」



 二人がヒーヒー笑いながら腹を抱え、のんびり寝そべるレヴの背の上にボフンッと倒れたが、見かけ以上にフカフカで柔らかな身体が気持ちよくて二人でそのまま魔物の背中に頬ずりをしてイビキをかき始める。



「ヤレヤレ、本当ニ世話の焼ける主人ダナ・・・」



 そう呟く魔物の方は、迷惑そうな顔でチラリと飼い主と女魔術師を見ただけでそのまま目を閉じた。



 ――料理の皿を運ぶために3m級に身体を大きくしておいて正解だったとレヴはチラッと思ったが口にはしない。


 だってレヴィアタンはツンデレだから――




×××







 夜の(とばり)が下りる。


 この世界には確かに魔素は降り注ぐが空気を汚す公害はない為、星空は極上の美しさだ。


 濃紺の天鵞絨の上に宝石箱の中身を隅々までばら撒いたように見える。


 まるで天から星の光に祝福されているように感じてしまいそうになるくらいには美しい――



「綺麗ねえ」



 ほう、とソフィアが空を見上げて溜息を吐く。


 視線をその下の海面に移せば空と海は境界線が溶けたように一つになり、水面にも星が散らばり瞬いている。


 違いは砂浜に近くなる程波の動きに従い、波打ち際迄星が押し寄せてくるように見える事だ。


 幻想的な自然の美しさに我を忘れて見入っている妻になったばかりの幼馴染みの顔をじっと見つめるシルファ。



「そうだな。


 この世界の星空は隣の箱庭で見た夜空に比べたら雲泥の差だ」


「ねえ、シルファ?」


「ん?」


「ありがとう。


 ずっと心残りだった事を解消させてくれて」



 ウフフ、と頬笑みながらバルコニーの手摺にもたれて振り返るソフィア。



「さっきの箱庭の話なら単に俺がヤキモチ妬きなだけだ」



 いつものように片眉をツイッと上げるシルファ王子。



「ヤキモチ妬き万歳だわね」


「そうか?」


「そうよ。


 次元を超えたヤキモチなんて、壮大過ぎるかもしれないけど。


 私は嬉しかったわ」


「・・・ そうか」


「前世に未練なんか無いって、本当に思ってたのよ?


 でも実際に戻ってみたらぜーんぜん納得なんかできてなかったのよ。


 忘れたつもりで心の奥底で燻ってたのね。


 でも鬱憤を晴らす機会を貴方が与えてくれたのよ?


 ありがとうシル」





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