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88/120

88中の人




 リーナの前に立っていた背の高い男は魔術師のマントを羽織ったギルドの総務主任だった男、スタンだった。



「久しぶりだな?


 で、どっちなんだ?」


「えッ?」


「リーナと里奈、どっちだ?」


「えええッ?!」



 スタンは以前より日によく焼けた肌色で身体つきも若干逞しくなったように見える。



「俺は今友人に借金を返すために冒険者に戻ってるんだ。


 何かあったらその宿舎に住んでるからいつでも相談に乗るぞ」



 そう言って彼が親指を立てて、後ろの建物を示す。



「冒険者ギルドの共用宿舎?」


「ああ。


 一人モンだからこっちの方が楽なんだ。


 自炊も面倒くさいからな。


 メシが付いてる方が何かと便利なんだ」



 はははは、と笑う彼は以前より明るく健康そうで若返って見えた。




「スタンさ~ん。


 置いてかないで下さいよ~」



 後ろから冒険者によく見られる胸当てだけの皮鎧と革のマントを身に着けた若い男性2

二人と少女が一人。


 腰の武器をガチャガチャいわせながら走ってきた。



「おせえよ!


 集合時間過ぎてるだろ?!


 一人で出発かと思ってたぞ」



 振り返りながらスタンが怒鳴る。



「スミマセン~、珍しい露店が多くてつい、目移りしちゃって。


 コイツが・・・」


「私じゃないわよ!


 コイツが受付のソニアちゃんにプレゼントとか言ってさ~」


「うっさいバーカ!


 バラすなよ! って。


 誰すかその美人? ソニアちゃんより可愛いッ!


 スゲエ!


 ねえ、君なんて名前ッ いてぇええ?!」



 最後のチャラそうな青年の頭にスタンの拳骨が入り『ゴンッ』という痛そうな音が盛大に聴こえる。



「貴様ら遅刻しといていい身分だなぁ~」


「「「ひょえッ!」」」


「じゃ、スマン騒がしくて。


 今から依頼をこなしに行くんだ」



 スタンが、困り顔で彼らを顎で指し、



「じゃあ、又な」




 そう言いながらチャラい男の襟を掴んで歩き出す。


 慌てて残りの男女が付いて行くのを人混みの中で見送った・・・



「あれ?


 異世界にまた来ちゃってる?」







 ・・・ 中の人、健在である。




 ×××




 大聖堂の鐘が鳴る。


 今日はこの国の王太子シルファとその婚約者である辺境伯の御令嬢ソフィアの婚姻式当日で、王都中がお祭り騒ぎだ。


 王都の道という道には花が生けられた小さな酒樽が置かれ、家々の玄関にはリースになった色とりどりの花飾りが飾られる。


 国民的アイドルであるシルファ王子の瞳の色に因んで空色、そして辺境伯令嬢ソフィアの瞳の色に因んで青紫の2色の花々を銀色とピンク色の2本のリボンで結んだ小さなブーケを構え、婚姻式を終えたばかりの王太子夫妻が大聖堂から出てくるのを今か今かと待ち構える王都民達。


 聖堂に至るゆるいカーブを描く階段の脇に等間隔に立つ王宮騎士達の銀色の鎧が柔らかく降り注ぐ日差しに当たり、キラキラと輝いていて心なしか彼らの表情も誇らしげに見える。


 やがて聖堂の正面ドアがゆっくりと開いていき騎士達全員が右手を胸に当てて敬意を表す中、階段をゆっくり降りてくる一対の男女。


 輝くようなプラチナブロンドが日差しを受けてキラめいている王太子は見慣れない真っ白な軍服を模した式服を着ているが、隣の王太子妃になったソフィアもこの世界では見慣れない真っ白なロングトレーンが美しいマーメイドドレス姿だ。


 カラードレスに慣れきった王都民達も彼らの清廉さを感じさせる美しい装いに溜息をつき、その一瞬後には歓声を上げる。



 頭頂部の小さな銀のティアラが、烟るように銀色の刺繍が散らされたマリアベールの上にちょこんと載っているが、王子の瞳の色と同じアクアマリンがこれでもかというくらいのサイズでやたら目立っている・・・



 ――うん独占欲強そうだな~、流石ヤンデレ予備軍だよな~。


 と騎士の後ろから覗いて遠い目になる里奈。


 しかし、目的はソコじゃない。



「はぁ~んッ! かわゆい。


 ソフィアたん神ッ!


 生き返って(?)良かったッ! 眼福だわ~」



 ボソリッと思わず呟くと眼の前を通り過ぎる直前で急にグリンッ!


 と振り返ったソフィアに、口パクで



『ア・ト・デ・ネ』



 と言われて思わず目をパチクリとさせた里奈である。



「あれぇ・・・?」




 ×××




 屋根のない白い6頭立ての馬車に乗って二人揃って手を振りながら王都をぐるりと巡って王都民にお披露目後、そのまま新婚旅行に出発した王太子夫妻。




 ・・・に、突然拉致され何故か海辺のリゾート地のホテルみたいな部屋で呆然と座る里奈。



 窓の外ではヤシによく似た背の高い木が、風で揺れてシャラシャラと微かな音をさせている。



「お久しぶり~。


 里奈さん!」


 

 そして。


 やはり眼の前に立つ人はソフィア・レイド・グレーンその人だった。


 ――ついでにシルファ王太子がお定まりの彼女の腰を抱くスタイルで付属していたが。





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