78閑話 アジェスのギフト
ちょっと休憩〜〜
水の魔物レヴィアタンもベヒモス同様伝説の魔物だ。
水中に住み、時折地上に現れて魔石結晶を盗むと言われていて、レヴィアタン自身がベヒモスのように魔石を作るとは周知されていない。
――周知されていないだけで偶に作っては溜め込んでいるらしいが――
又、ベヒモスは30年周期で人の目に触れられる事もあるので、強いて言うならばメジャーな魔物だが、レヴィアタンはあまり確認できない幻のマイナーな魔物(英国産ネッシー並み)だ。
どちらも希少な上に唯一の個体で、天然記念保護獣指定してもいいくらいの存在だろう。―― 多分。
ただ、現在その存在自体希少な伝説の魔物レヴィアタンはソフィアの私室に備え付けられた浴室のバスタブにぷかあと浮いて、やる気のなさ200%全開で動きもしない。
まるで水に浮いた小さな丸太だ。
×××
「面白くねえ魔物だな。
浮いてるだけかよ」
すぐ横で胡座を組みその膝に肘をついて呆れ顔で眺めているのはソフィアの従兄弟アジェス。
隣国レイド帝国は女系で有名だが、皇帝の甥で男性の彼もかなり希少な存在だといえる。
浅黒い肌、烏の濡れ羽色をした黒髪に紫水晶のような瞳をした精悍な顔のイケメンだが、人懐こく笑顔が絶えないのでこの辺境伯領でも男女問わずファンは多い――
『ウルサイ人間だナ。
レヴは今傷ついてるノダ。
放っといてクレ』
「そんなに『ポチ』がソフィアに負けたのが悔しいのか?」
ニヤニヤ笑いながら水の中に手を突っ込んではレヴィアタンの鼻面にパチャパチャと水を掛けるアジェス。
「レヴは昔、主に勝てなかった。
その主が負けたのダ。
レヴは一番下っ端だから弱いのダ」
いじけて丸いボールに姿を変えるとバスタブの底に転がるレヴ。
「おもしれえ~~ッ!」
アジェスがゲラゲラ笑いながら水の中に両手を突っ込み、丸く青いボールと化したレヴィアタンを持ち上げるが意地でも強固なボールのままでいようと頑張る魔物。
「ちょっと〜、やめなさいよアジェス。
傷ついてるんだからそっとしときなさいってば」
ソフィアが浴室を覗いて声を掛けるが、指先でボールをくるくる回すバスケットの選手のように平気な顔で丸い魔物を回す従兄。
「なあなあ、コイツって今どういう立ち位置なのかな?
ポチがお前の従魔ならコイツもお前の従魔なのか?」
「え? わかんない」
思わず横で片眉を上げて渋顔になっているシルファ王子の方に顔を向けるソフィア嬢。
「どうなのかしら?」
「恐らくだが、ポチからのテイムは解けているだろう。
そいつはフリーだ」
『ソウなのカ?』
それを聞いて丸いボールがワニ形態になったがあっさりアジェスに尻尾を捕まれてプランと空中に垂れ下がる。
『ヤメロ!
失礼なヤツだナ!』
キーキー怒って短い足をジタバタさせるが・・・・
『何故ダ!
変化できナイ!』
アジェスの手から逃げられずに、ただ身体をくねらせ藻掻いているだけである・・・
「あーあ、捕まっちゃったわね」
「仕方ないだろうな。
飼い主がいなければただの野生動物と一緒だからな。
諦めろ魔物。
その男は野生動物に対しての『服従』のギフトを持ってるレイドの皇族だからな」
『エッ?!』
「そういうこった。
お前今日から俺のペットな?」
アジェスがそう言うとそのまま言霊がリボンの形状になりレヴの首にまとわり付くと、一瞬透明な首輪になった後で輝きと共に消えた。
帝国人は魔法だけでなく稀にギフトと呼ばれる特殊能力を持つ者が生まれる。
但しギフトは魔法と違い若干扱いにコツがいるものが多いせいで使いこなせない者も多く存在し宝の持ち腐れになりやすいが、その中でも皇族は簡単に言葉でそのギフトを扱える事で有名だ。
アジェスはその皇族の中でも野生動物に対して発動する『服従』という珍しいギフト持ちだ。
なので森は彼にとって小さい頃からの遊び場みたいなもんである。
「俺が飽きるまでペットだな」
『エエッ!?』
ニンマリ笑う浅黒い肌のイケメンの顔がレヴには凶悪に見えたらしい・・・。




