5森へ帰ろう?どっかで聞いたキメ台詞。
「ソフィ!
森へ帰るぞ森へっ!
シルファなんぞほっとくぞッ」
さっき下がっていった侍従の御仕着せは何処かに放置してきたのだろう。
ドレスシャツと黒いトラウザーズに、ゴブラン織のベストという出で立ちに帝国の儀礼用のマントという格好で走って戻ってきたのはもう一人の従兄アジェスだ。
「アジェス。
森に帰るんじゃなくって、領地に帰るでしょ」
手に持つケーキフォークを浅黒い肌の従兄弟のアジェスの鼻先に向けていい加減半目だった目を三角にするソフィア。
「おう、ちょっと言い間違っただけだ。気にすんな」
ガハハと笑う美丈夫に周りは唖然とする。
因みにこの従兄弟、付け髭がなければ隣国の皇帝陛下に体格も顔も仕草すらよく似ているので血族なのは丸わかりである。
ただ、隣国の皇帝には息子はいない。
隣国の皇室は女系で有名で勿論今の皇帝陛下の嫡子も姫であり、今代の皇帝陛下が男兄弟2人で後2人は姫というのがかなり珍しいのである。
「領都じゃ無くて俺の生き甲斐は森だからなッ!」
「森じゃなくて魔物でしょうが」
呆れ顔でそう返すといい笑顔を返された。
――わかってんじゃん!
と顔に書いてある・・・。
「22歳で魔物狩りが趣味とかゆうたら嫁候補に逃げられるちや・・・」
「出たな良くわからん方言」
「呆れたら出るがって!」
気をつけないと前世の言葉が偶に顔を出すのは彼女の転生者特典? の1つかもしれない。
「で? 何で森?」
「あ、あのなさっき知らせが来てたんだ、コレな」
両手で巻物をでろんと持ち上げる。
魔法陣が表に描かれた巻物で伝令用に使われる俗に『魔法便』と呼ばれるモノで、文の最後に辺境伯の家紋が押されている。
「えーと、ナニナニ?・・・
スタンピード? ベヒモス? え?」
「辺境伯領がSOSだって。
どうもお館様が急に帰ったのコレのせいらしい。
さっき控室に帰ったら王城の侍従が慌てて持ってきてたぞ」
「はよ言えやッ!!」
持っていた扇でスパコーンッとアジェスの頭を叩く美少女。
「いでえッ」
殴られた頭を擦る色黒の従兄弟の背中を押すソフィア嬢。
「帰る、帰るっちゃ。
はよ行くでッ」
「ソフィア?」
後ろから肘にしつこくぶら下がるリーナを引き摺ってやって来たのは王太子である。
「あ、シルファ、お互いの卒業おめでとう!
辺境伯領にベヒモスが出たらしくってさ、スタンピードが起こる前にちゃっちゃと帰るわ~!
じゃあね~」
彼女の言葉で周りの貴族の子息子女達が悲鳴を上げたがソフィアの足元で金色に輝く魔法陣が展開された。
「バイバーイ」
金色の余韻を残してソフィアとアジェスの2人はあっという間に転移魔法で消えてしまった。
「あ」
残された王子の片手だけが虚しく宙を切った。




