48黒い霞
その靄のような黒い霧はふわふわと王都の中を漂いながらあるモノを探していた。
王都の中にある大きなレンガ造りの四角い建物の窓にふわふわと近寄っていくと、中の様子を伺うようにそのまま空中に留まった――
×××
「ですから、冒険者ギルドとしては冒険者にベヒモスの討伐依頼は出していません」
総務主任がギルド長に向かって説明するが
「じゃあどうしてこの冒険者達は辺境領に集団で向かったんだ。
取り調べは制約魔法を掛けられて行われ、そいつらはギルドの指示があったって証言してるらしいぞ。
分かっているだろうが制約魔法を使えばいくら誤魔化そうとしても虚偽の証言は出来ない」
部屋の中にいる大きな身体の男が腕組みをしてソファーに座り怒った顔をしたままで眼の前に立つ背の高い痩せた眼鏡の男に向かい鼻を鳴らした。
「そもそも魔の森にベヒモスが出たっていうのは未確認情報だった。
受付カウンター内でも一般職員は知らなかった情報だ。
知ってるのは俺と副ギルト長、そして総務主任のお前くらいだ」
「・・・」
「答えないのがお前の答えか?」
ギルドマスターは頭を横に振ってドアを指さした。
「急ぎ書類を王家と辺境伯宛に仕上げる。
退室しろ」
一礼して部屋を出ていく男を溜息を吐きながら見送ると、机の引き出しから白い便箋を取り出しペンを走らせるギルド長。
「昔はあんなやつじゃなかったのに」
ギルドマスターがボソリと呟いた言葉は誰も拾うことはなかった。
×××
暗い廊下を歩きながら、眼鏡を胸ポケットに仕舞いながら
「クソッ」
と思わず口に出す男はこの冒険者ギルドの受付や事務を取り締まっている男で、昔はギルド長や副ギルト長と共にパーティーを組んで冒険をしていた経歴がある。
魔術師としてはそこそこ名が通っていたがリーダーの年齢を理由にパーティーは解散し、その後はギルドに職員として迎え入れられた。
リーダーと副リーダーだった二人はそれぞれギルドマスターと副ギルトマスターに就任し、彼は事務や受付、庶務の纏め役で肩書きは総務主任。
役職としては中間管理職で下の立場の連中の纏め役でほぼ裏方だ。
最初の頃は良かったが、だんだんと立場の差がはっきりし始めたのは他の二人が結婚してからだった。
大きな家を彼らは構えて美人な妻を手に入れた。
一方自分はうだつの上がらない事務仕事で、受付内でも細かい事を注意するために若い職員からは距離を取られながら書類仕事の毎日だった。
同じパーティーで活躍していた仲間と距離が大きく開いていく中、給料は大した金額でもなく役職手当が雀の涙程度に付くくらいだと思った。
――彼らは知らなかったが、実際は一攫千金の冒険者家業とギルド職員の給料の差なんてそれで普通だったのだが――
学園を卒業後直ぐに冒険者になった彼は普通の相場を知らなかった。




