44激怒するヒト
「何だッ!? コレはッ!!」
グレーン王国、冒険者ギルド王都支部の一室で朝も早くから叫ぶ男がいた。
白髪交じりの黒髪に額から右頬に掛けて傷跡があり、目つきが悪いが眼鏡をかければそれなりに普通になるようだ。
白い開襟シャツにグレーのトラウザーズは文官のような装いだが騎士のような体つきは元冒険者だったことを伺わせる。
ワナワナと震える手に握られている書状が一つ。
そして机の上に広げられている魔法便の巻物が一つ。
手に持つ書状はこの国、グレーン王国の騎士団からのものでシルファ王太子に対する不敬罪を働いたギルド構成員への出頭命令で国王の玉璽が押されたもの。
これに逆らったら幾らギルドでも国家反逆の意志ありとみなされてしまう。
そしてもう一つの魔法便は辺境伯領兵士団からのもので、ギルド構成員による軍事任務執行妨害に対する正式な謝罪要請、当該職員及び冒険者パーティーの引き渡し要請である。
こちらは軍事任務の引率者がグレーン王国の王族とレイド帝国の皇族と記載されていて無視をすると2国からグレーン王国の冒険者ギルド自体が不敬罪を問われる事間違いなしである。
つまり騎士団と辺境伯軍の両方から同じ冒険者達の身柄を渡せと言われている訳で・・・
「どうやって引き渡せというのだッ!?
オイッ!
誰か総務主任を呼べッ!」
受付嬢がギルド長の怒鳴り声に慌てて部屋から出ていった。
「一体どういう事だ?!」
×××
「身体は二つに裂く訳にはいかないだろ?
どうするんだろうなあ」
辺境伯邸の庭のガゼボにあるベンチの背もたれに両肘を置いて長い脚を組み、悪戯が成功した子供のようにニヤニヤ笑うのはアジェス・レイド。
「しかも身柄は辺境伯領で拘束してるしね。
今頃頭を抱えてるわよ」
呆れた顔で従兄弟達の顔を交互に見るのはソフィアである。
「ギルドの幹部達だってそれなりに修羅場をくぐり抜けて来てる。
交渉の方法くらい思いつくだろう」
涼しい顔でソフィアの隣で珈琲を飲みながら向かい側のベンチに座るのはシルファ王子。
「そもそも冒険者をきちんと教育もせず、あんな野盗紛いの連中を野放しにしてるギルド側の管理が甘いんだから仕方ねえだろ」
そうアジェスが言うと、シルファが片眉を上げる。
「組織が大きくなれば末端が腐って行くのは、ままある事だがアレらに関しては品性の欠片も感じられん連中だったからな。
しかし俺はまあ仕方ないが、お前の名前まで使って良かったのか?」
「いいだろ。
減るもんじゃない。
俺が魔の森を抱える辺境伯領の叔母上の所に厄介になってるっていうのは帝国では周知されてる事実だからな。
グレーン側はわかんねえけど」
「その辺りの情報共有は口の固い上位貴族だけだな。
おかしな連中がお前とお前のバックの帝国に色目を使うために、この地に来られても迷惑だ」
暗にソフィアに近寄らせたくないと言ってるだけのような気がするのはアジェスだけではないだろう・・・。




