30想定内
闘技場。
要するに辺境伯領にある兵士達の為の戦闘訓練場である。
普段は兵士達がせっせせっせと広い訓練場で魔法をぶっ放し奇声を上げていたり、でかいソードを振り回して叫んだりと色々忙しく活動している場所なのだが本日は全員漏れ無く撤退中である。
なんといっても自分達の主である辺境伯のお嬢様、魔王ソフィア嬢、略して『お嬢』がとんでもない魔物をテイムするかしないかの瀬戸際なのだ。
東京ドーム3個分くらいはありそうな丸いドーム型の建造物の周りを辺境伯領の兵士達や魔術師達が何重にも囲み警戒をしている。
もっともほぼ全員が
『お嬢様がベヒモスをテイムするか否か』
という賭けにシレっと興じているのだが・・・
全員がテイムできなかったら自分達の命も危ういというのは思考の彼方のようである。
馬鹿になり大らかさを発揮できるのが、魔物騒動が日常茶飯事の辺境を生き抜く事のできる一種の知恵なのかもしれないが、基本辺境に住む者達は細かい事は考えない。
ソフィアの大らかさ――大雑把さ――は前世以上に辺境の地のこの辺りの気風である適当さが原因だろう。
貴族の御令嬢の育生には些か不向きの環境だが婚約者であるシルファはソフィアがのびのび出来る環境に概ね満足している。
――ただ叔父が自分に煩いのが玉に瑕だが――
「ちょっとぉ、半分がテイム出来るで半分が出来ないってどういう事よ~。
当然全員が
『テイムできるッ!』
じゃなきゃ駄目じゃん。
できない方に賭けたやつ、後で覚えてないさいよ~~
掛け金倍にしてふんだくってやろうかしらッ!?」
何やら文字を書き込まれた紙を見てソフィアがブツブツ怒っている。
・・・どうやらこの賭け、ソフィアが元締めだったようである。
×××
「さてと、これで用意できたかしら?」
自らドームの壁に向かい何重にも目に見えない障壁を構築し終わったソフィアが、肩から斜めに掛けたバッグから無造作に丸い例のボール型魔道具を片手で取り出した。
「ボタンを押したらベヒモスが飛び出すから下がっててね」
後ろに立っていたシルファとアジェスに声を掛ける。
「あ、大丈夫だ」
「私もだ。
それと私だけじゃなく全員に防御魔法は掛けてあるからな」
二人共が1メートルも離れていない場所から平気な顔でソフィアを眺めている。
「いざとなったらアジェスを連れて空中に逃げるから気にするな」
実に頼もしい婚約者である。
「ソフィア俺にも殴らせろ」
アジェスの方はやっぱり脳筋だったが。
「一人でベヒモスを屈伏させなきゃ意味ないでしょ?」
ソフィアもある意味脳筋であった。
そして何も言わずにシルファが片眉を上げた・・・
彼にとっては想定内だったようである。




