(二)
綺麗事でしかないのは俺が一番良く判っとる。
浮気性なのも確かや。
一番愛しとる女に表立って会えん寂しさを紛らわす為……自分に、そう言い訳しとった時期も有った。
けど……今や……セックス中毒ちゅうヤツやろうか?
でも……。
何、言うても言い訳や。
多分、全部、俺が悪うて、死んでから地獄で受ける筈の報いを、今、生きたまま受けとるだけなんやろうな……。
この女見ていみい。俺になんてもったいないやろ。この世界一の女こそが俺の生涯唯一無二のカミさんや……そう堂々と言えたら……。
籍を入れてないカミさんは、勤め先の社長に頼んで庶務担として雇うてもらっとるが……こんなマンションに、最近流行りのいけすかん言葉で言うなら「シングルマザー」が住んどるのは、誰でも怪しいと思うやろ。
この辺りなら誰でも名前を知っとる会社に勤めとるとは言え……たかが庶務担の中年女が……。
ああ、何でスカした横文字ばっかりになるねん?「母子家庭」でいいやろ?
カミさんは俺なしでも息子と2人で生きてけるやろうけど……俺はカミさんと息子が居らんかったら……何も無い。俺が裸の王様に成り果てたのは、頭ん中も空っぽやったせいやろな……。
学校でいじめられとるらしいウチの息子。
ああ……学校や、いじめとる奴の親に「俺の大事な息子に何て真似しくさっとるッ‼」って怒鳴り込む事が出来れば……どんなに楽か……。
「義志さん……」
寝とる子供を凝視めとった俺に、カミさんが声をかけた。
カミさんは、俺の事を「あんた」とは呼んでくれん。
いつも敬語や。
俺は……カミさんをカミさんと思うとるけど……カミさんは……亭主の意味じゃない「御主人様」と思うとるんやろな。
俺は、カミさんと息子が居らんと生きてけんのに……カミさんと俺の心は……どっか通じ合っとらん……。
「殺したい……」
「えっ?」
「ホンマに殺したい。あいつを殺しても、何の解決にもならんのは判っとるが……ホンマに殺したい。殺したくて、殺したくて、気が狂いそうや……」
「舞台でもないのに、そんな事、言わんで下さい……」
「でも……ホンマに殺したいんや……。こいつが学校でいじめられんようになる為なら……」
殺す。
殺す。
殺してやる。
いや、死ぬよりもツラい目に遭わせて……世間から抹殺してやる。
あいつの名前が歴史に残るとするなら……最近流行りのイケ好かん横文字で言うならスーパー・ヴィランとしてや……。
おい、お笑い芸人の杉山ゲン。
覚悟しとけよ。