(14)
「あのアシスタントさん、何か変ですよ」
通称「諂曲さん」は、俺にそう言い出した。
「何で、また……?」
いや、待てよ……。
確かに、俺もまた……今日のあいつの挙動には何か違和感を感じていたのに、違和感の正体を上手く言葉に出来てなかっただけの気がしてきた……。
「漫画家のアシスタントだったら漫画やアニメについての知識は、それなりに有る筈です、なのに、一般人でも知ってる『羅刹狩り』の『諂曲焔鎚』を知らないなんて有り得ますか?」
「いや、有る訳ないでしょ。漫画やアニメの事を良く知らない奴が、漫画家のアシスタントになろうなんて思う訳が無い」
「でも、あのアシスタントさんは……この格好を見て、驚いた」
そう言って、通称「諂曲さん」は、身に装っている諂曲焔鎚のコスプレ衣装を指差した。
「それに、漫画家のアシスタントになるような人って、普通はオタクでしょ?でも、オタクなのに、僕の事を知らないなんて有り得ない」
おお、通称「諂曲さん」得意の認知バイアス・プロファイリングが冴えに冴えて冴えまくっている。
やっぱり、通称「諂曲さん」の頭脳は切れっ切れだ。切れに切れて切れまくっている。
「大体、あのアシスタントさんって、どんな人なんですか?」
そ……そう言えば……。
え……えっと……。
「すいません、良く知らないっす。編集部からだったか知り合いだったか……その辺りの紹介で雇ったような……そんな感じの……」
「安房さんにしては迂闊ですね。安房さんは、僕の有力フォロワーですよ。僕を敵視してるフェミ団体がスパイを送り込んでる可能性が有る」
……。
…………。
……………………。
しまった……。
何て事だ……。
その可能性に気付いてなかった……。
「ああああ……ど……どうすれば……」
「東京から仲間を何人か呼びましょう。そいつらに、さっきの怪しさ爆発のアシスタントと……女性アシスタントを洗脳したフェミ婆ァを尋問させます」
「え……えっと……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。僕は警察にコネも有りますから……ええ、新宿で公金チュ〜チュ〜のフェミ団体を潰した時も、少々、ヤンチャしましたけど、警察とのコネの御蔭でお咎め無しでしたから」
「ああ、それは心強い」
ああ、助かった……やっぱり頼るべきは諂曲さんだ。
「じゃあ、仲間の旅費もお願いします。明日の朝一で旅費+αを振り込んでもらえば、夕方には大阪に到着と思います」
「もちろんです」
「あと、東京から来る仲間の明日の夕食ですが……」
「えっ?」
「蟹道楽以外に、どこかオススメ有りますか?」
「まぁ、大阪は美味いモノは色々有りますが、蟹道楽がいいんでしたら、蟹道楽で」
「あ、それはどうも……もちろん、安房さんのおごりですよね?」
「え……」
「おごりですよね?」
「はい、もちろん」