(11)
いや、やっぱり水原は天才だ。
あいつが形見の……おっと、まだ死んでなかったっけ?
まあ、いいや。ともかく水原が残してくれたプロットが、そのまんま杉山さんの要求にピッタリだった。
「あの……水原さん……どうすんですか?」
「どうするって、何が?」
「いや、入院中ですよね……お見舞いとか……」
「急がしいから行けねえよ」
「あ……いや……その……そうですよね、急がしいですけど……もし、意識を取り戻したりしたら……」
「だよなぁ……あいつのクソ彼氏が病院に押し掛けて来たりしたら、あいつの身が危ないよなぁ……。でも、安心しろ。偶然だがうまくいった」
「えっ?」
「『えっ?』って何が『えっ?』だよ?」
「いや、だから、その……」
「まぁ、水原の糞彼氏が水原に連絡出来ねえように、水原のスマホを取り上げてたんだ、偶然にもな」
ん?
何で、アシスタント全員が凍り付いてんだ?
「あ……あの……それって、水原さんの家族なんかにも連絡は……?」
「連絡なんてしてねえよ」
「え?」
「聞こえなかったのか?水原の家族に連絡なんて入れてねえよ。病院と警察には『俺が家族に伝えとく』って言っといたけど、あいつもいい大人だ。こんな事で親に迷惑かけたくないだろうしな」
おい。
だから、何だよ、この変な雰囲気?
「まぁ、そもそも、水原の彼氏は取調べ中の筈だからな。きっとヤベぇ余罪が山程出るぞ、けけけけ」
「えっ?」
「いや、だから、水原の自殺の原因を一番知ってそうなの、あいつじゃねえか。警察にもそう言ったよ」
その時、俺のスマホから着信音が鳴った。
番号は……ん? どこの番号だ、これ? 市内の固定電話?
「もしもし……どちら様」
『あの、大阪府警西成署の生活安全課の浜田と申します。えっと、漫画家の……安房清二さん……御本名は井上昭和さんの携帯電話は、こちらの番号でよろしかったでしょうか?』
「は……はい」
え……っと、何だよ、一体。
しかし、刑事にしてはトロそうなおっちゃんの声だ。ま、いかにも生活安全課に飛ばされたボンクラって感じだ。
『あの、この度、水原茜さんの自殺未遂事件を担当する事になりまして……』
「は……はぁ……ご苦労様です」
ちょっと待て、どうなってる?
あいつの自殺は、DV彼氏のせいでカタが付いてる筈だろ?
何で、俺が痛くもねえ腹を探られなきゃいけね〜んだよッ⁉
そんなの有りかッ⁉俺は何も悪くねえぞッ‼
水原のボケが勝手にあんな真似したんだッ‼
大体、何で、彼氏のDVのせいで自殺しようとしたクセに、ウチのスタジオで自殺なんてやりやがったんだ?
俺に何の怨みが有るってんだよ、あのクソ女ッ‼
『それで……井上さんが言われてた水原さんが付き合っていた男性ですが……見付からないんですよ』
「へっ?」
『あの……水原さんとルームシェアをされてた方も心当りが無いって言われてて……』
「あの……それって……そのルームシェアの相手がボンクラなだけでは……ないの……で……」
『そもそも、見付かってないんですよ』
「何がですか?」
『自殺未遂なんで、病院で、精密検査をしたんですが……それらしい外傷その他が、全く無くて』
「えっ?」
『自殺未遂の際のものがほぼ確実なものを除いて……井上さんが言われてたDVの痕跡となるような外傷その他が全く無いんですよ』
「あ……あの……そんな……馬鹿な……」
『一体全体、水原さんは、誰からどんなDVを受けてたんですか?』




