(9)
「先生……あれ、マズくないですか?」
「何が?」
晩飯を食べながら、アシスタントの1人が、そう言い出した。
「いや、水原さんの事ですよ」
「ああ、変な男に騙されてたみたいで……今、ちょっとメンヘラっぽくなってんだよ」
「メンヘラ?」
「そう、メンヘラ」
「あ……あの、この前、聞きそびれたんで……今訊きたいんすけど……」
「何をだよ?」
「何ですか、メンヘラって?」
「いや、メンヘラって言葉使うだろ、普通」
「ちょ……ちょっと待って下さい」
何かビミョ〜に話が通じない事を言ってる、そのアシスタントは、スマホを取り出して……。
「あ……ああ……一〇年ぐらい前まで使われてたネット・スラング……」
「おい、お前、その齢で、ネットの流行とか押えてないと、この先、苦労するぞ。今でも、使われてるだろ」
「……え……えっと……どこで……ですか?」
「ほら、twitterあらためXとかで……」
「え……あ……ああ……」
「その齢で、やってないの?流行に乗れなくなるから、すぐアカウント作れ」
「は……はぁ……」
他のアシスタント達も「困った奴だ」的な表情。
まったく、水原といい、こいつといい、何で、俺んとこには使えねえのしか……ん、待てよ……。
「おい、ひょっとして、お前、Xに『俺、今、職場でパワハラ受けてる』とか投稿する気か?」
「い……いや……そんな訳……」
「ああ、じゃあ、お前、次のプロット考えてこい」
「へっ?」
「明日の朝までな」
「あ……あの……」
「え……えっと……」
「テーマは……そうだな……。社員がSNSに『ウチの職場ではパワハラが横行してる』って書き込んだせいで潰れた中小企業が有って、そこの社長の娘が依頼人。SNSに嘘八百書き込んだ糞野郎に制裁を加える話だ」
「あ……あの……それ……えっとっ……」
「ごちゃごちゃ言わずに言われた事をやれ。漫画家になったら、この程度の事、編集者からガンガン言われるぞ。その時の為の訓練だと思え」
「は……はぁ……」